離婚しましょう、私達

光子

文字の大きさ
39 / 62

39話 当て馬的モブ悪女になります③

しおりを挟む
 

「俺を避けていたのに、どういった風の吹き回しですか?」
「避けてなんていません。今だって、フェルナンド様に会いたくて、こうして来たんです」
「寂しいから俺に構って欲しかった、と?」
「そうです。フェルナンド様が大好きだから、仕事よりも、私を優先して欲しかったんです。フェルナンド様は、私と仕事、どっちが大切なんですか?」

 日本でも重めとされる痛い女の台詞を、ここぞとばかりに使う。どうです? こんな女、嫌でしょう? 離婚したくもなるでしょう?

 アルルやティアの時と違い、リーゼの設定を守れている気がして、調子が出て来た。

「私に寂しい思いをさせないで下さい、ずっと、私のことを一番に考えて、優先して下さい。一日に一回、愛の言葉を囁いて下さい、私を、大切にして下さい」

 フェルナンド様の目の前まで行き、彼の頬に触れながら、見つめ合うように言葉を告げる。

 調子に乗って、次から次へと言葉が出て来た。
 当て馬的モブ悪女になれないと不甲斐なさを感じていたけど、やれば出来る! っと、自信を取り戻しつつあった。

 そしてこの後、すぐに後悔することになった――――

「成程、分かりました」
「え――」

 腕を引かれ、椅子に座るフェルナンド様に跨るように、向かい合う体勢にさせられ、一気に、体温が上がる。

「な、この体勢は……」
「寂しい思いをさせてしまったみたいなので、反省しました。どうぞ思う存分、俺を堪能して下さい」
「無――」

 無理に決まってる。つい最近まで男性経験が無かった私に、何が出来ると?
 でも、ここで無理と言ってしまうのは、リーゼじゃない! リーゼなら喜んで、フェルナンド様と触れ合うはず!

「……っ」

 恐る恐る、ゆっくりと唇を近付けると、慣れない口付けを、自分からした。

「……どうしました? もう終わりですか?」
「いえ、まだ……です、けど」

 促されるまま、何度も触れるだけの口付けを変わすけど、それだけ。これ以上は、無理。もう、限界。

(やっぱり無理! もう帰る!)

 そう思って体を離そうとしたら、首筋に手を回され、強い力で抑えられた。

「んっーーっ!? んっ!」

 そのまま首筋を抑えられ、離れられない。さっきまでとは違う、深い口付けに、空気が足りなくて、眩暈がする。

「っぅ、やっ……!」
「……良かったですね、仕事中で。これで解放してあげますよ」

 唇を離されたことに安堵して、息を吐く。

(た、助かった)

「これからは寂しい思いをさせないように、定期的に、貴女の部屋に行きますね」

(悪化した――!)

 自分がする全ての行動が上手くいかなくて、絶望するしかなかった。



 ◇◇◇



「……リーゼは、何がしたかったのかな?」

 数日後、モンセラット伯爵邸の自室にて、再度、ジークを呼び出して相談する私。

「分かんない、何で? こんなはずじゃなかったのに!」

 ジークと向かい合って席についた私は、思わず、机に手の平を叩きつけた。

「もう諦めた方が良いといいと思うよ」
「駄目よ、諦めたら、小説通りに修正出来ないじゃない」

 感情が高ぶっている私に対し、温度差があるジークは、モンセラット伯爵家の侍女が持って来てくれたお茶を、笑顔でお礼を伝え、受け取った。フェルナンド様とは違う、人懐っこい優しい笑顔に侍女が頬を赤らめていたけど、やっぱりジークも女性に人気があるんだな、と、再確認した。

「暫くここには、誰も近寄らせないでね」
「か、かしこまりました」

 正反対に、私には怯えた反応。
 転生前のリーゼはモンセラット伯爵邸でも我儘放題だったから、未だに怯えられているんですよね。グリフィン公爵邸とは違ってたまにしか帰って来ないし、払拭する機会が無い。

「また人払い?」
「話の内容を聞かれたら困るもの」

 フェルナンド様のこともだけど、転生のことも小説のこともジークには話したから、ぴか一で相談しやすくなった。いや、それはそれとして、今は私のこと!

「どうやったら、フェルナンド様と離婚出来ると思う?」

 フェルナンド様とティアの幸せのためにも、私達は離婚しなきゃいけない。その為に、元のリーゼに戻って、フェルナンド様とに離婚を突き付けられようとしたのに、全く上手くいかない!

「転生する前のリーゼの話は聞いたけど、今の君は、元のリーゼに戻れないと思うよ?」
「も、戻れるよ」
「じゃあ、アルルやティアを虐められた?」
「それは……無理、だったけど」
「フェルナンド様にまた迫れる? 返り討ちに合ったりしない?」
「うっ」

 痛いところを的確に突いてくるジーク。そうです、全ての作戦はことごとく失敗しました。

「と、兎に角、私達は離婚します!」
「どうやって?」
「えーーっと、あ、そうだ! フェルナンド様って、世間体を気にして、私が浮気するのを嫌がってたよね? だから、私とジークが浮気しちゃえば――」
「リーゼは僕に死んで欲しいの?」
「死!?」

 物騒な言葉が飛び出して来たことに驚きつつも、そんな選択肢は初めからない。
 他に何も思い浮かばなくて言葉にしたけど、ジークに不貞を働かせるなんて出来ないし、そもそも私も、不貞行為を働くのは嫌だもの。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...