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45話 大司教に司教
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神官の青年が言っていたこの先とは、《聖なる空間》と呼ばれるもので、一般人の立ち入りは禁止された、選ばれた資格のあるものだけが入ることが出来る場所らしい。
一般に開放された場所と違い、どこか内装は豪華で、ここでも、身分の区別を感じた。
「《ゲル》様、聖女様をお連れしましたぁ」
「ああ、来たか」
先に進み、案内されたのは、聖なる空間にある礼拝堂で、中に入ると、六十代程に見える髭を生やしたゲルと呼ばれる男性が、私達に振り向いた。
「ようこそいらっしゃいました、聖女様! お会い出来て光栄です!」
ティアを視界に入れるなり、満面の笑顔を浮かべ、食いつき気味に出迎える。
「……っ」
ティアは勢いに押されるように一歩下がり、私の後ろに隠れ、服の袖を握った。
服の袖を握るのは、ティアが緊張したり不安になったりした時のクセのようなものだと、最近、理解した。
「ワシはここロスナイ教会の大司教でゲルと申します。こちらは、ワシの右腕を務めております、司教のユニバーサルです」
「初めましてぇ、よろしくお願いしますねぇ」
「いやぁ、お美しい! 聖女様はまるで、神様からの贈り物のようですなぁ」
ティアが怯えて隠れているにも関わらず、最初の勢いそのままに、距離を詰めてくるゲル様。
(……別にいいけど、ティアだけ特別待遇ね)
私達の存在を忘れたように、ティアに向けてだけ、話し続ける。一通りティアへの媚びが終わった後、ようやく、ゲル様は私達の存在に気付いたように、声をかけた。
「フェルナンド様、お久しぶりでございます。聖女様を連れて来て下さったことに感謝を申し上げます。欲を言えば、もう少し早くお目通しさせて頂きたかったものですが」
「それは申し訳ありませんでした。大司教は、『聖女など眉唾の存在で偽物だ! 騙されてはならん!』と、豪語されていたと聞いておりましたので」
「そんなことはありませんよ。きっと、どこからか伝わった眉唾物の情報でしょう」
(嘘つき)
グリフィン公爵家が調べた情報に間違いなんて、あるわけがない。
「相変わらず、教会は繁盛されているようですね」
「全然ですよ。ご存知の通り、聖女様が現れた所為で、教会に救いを求める人々の数が減っていましてね。困ったものです、信仰なき者に救いの手は伸ばされないというのに」
発言がいちいち癇に障るのは、私だけ? その言い方だと、ティアの存在が邪魔だって言ってるようにも聞こえるけど?
「へぇ、大司教は、聖女の存在が邪魔だと?」
言葉に出して文句を言ってしまいたかったけど、その前に、フェルナンド様が口を開いた。
「おや、誤解ですよ。少し言い方に語弊がありましたかね、失礼しました」
「そうですね、これは助言ですが、大司教の言い方ですと、救いを求める人々の数が減るのが、悪いことのように聞こえてしましますよ。救いを求める人がいなくなるのは、良いことでしょう? 誤解されないよう、少しは頭を使って、考えて言葉を選んだ方がよろしいかと思います」
(よし! もっと行け!)
いつもなら冷たい視線や冷ややかな笑顔、冷たくて意地悪な言い回しに怯えたりしていますが、今回ばかりは、フェルナンド様を全力で応援します!
「――ふふふ、これは失礼しました、フェルナンド様。ゲル様、フェルナンド様の仰る通り、あのような言葉選びでは誤解されても仕方ありませんよぉ? 気を付けて下さいねぇ」
場を収拾させるように間に入ったユニバーサル様は、笑顔で二人に声を掛けた後、私に――正確には、私の後ろで隠れているティアの方に、向き直した。
「折角、来られたのですから、どうぞ、教会を隅々まで見学して、私達の活動を心行くまで御覧下さい。きっとティア様も、私達の活動に心から賛同して下さることでしょう。私達は、弱き悩める人々の味方ですから」
「……は、はい。分かり……ました」
「ありがとうございますわぁ」
初めて言葉を発したティアに、ユニバーサル様は満足そうに微笑んだ。
「一週間後には、聖女様を歓迎する、ささやかな宴も開く予定ですので、楽しみにしていて下さいませ。残念ながら、ジークさんは参加することが出来ないのですが……」
「僕は構いませんよ」
(ここでも、平民のジークの差別があるのね)
不快な気持ちになったけど、ジークは私達の誰よりも先に口を開き、これ以上、場を乱したくないという了承の意志を示したから、何も言わなかった。
「グリフィン公爵夫人のリーゼ様は、どうぞ、ご参加下さい」
「……ありがとうございます」
私、リーゼは、小説ではとっくにフェルナンド様と離婚していて、ここにはいない。だからリーゼが闇の魔女と対面するのは初めてのことで、小説でも描かれていない。それは、ティアへの気持ちを諦め、故郷に帰ったジークも同じ。
私達の存在が闇の魔女にどう映ったのか、理解する手筈は、無い。
(絶対に、闇の魔女の思い通りにはさせないから!)
目の前にいる闇の魔女に、心の中で強く、宣戦布告した。
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