45 / 62
45話 大司教に司教
しおりを挟む◇◇◇
神官の青年が言っていたこの先とは、《聖なる空間》と呼ばれるもので、一般人の立ち入りは禁止された、選ばれた資格のあるものだけが入ることが出来る場所らしい。
一般に開放された場所と違い、どこか内装は豪華で、ここでも、身分の区別を感じた。
「《ゲル》様、聖女様をお連れしましたぁ」
「ああ、来たか」
先に進み、案内されたのは、聖なる空間にある礼拝堂で、中に入ると、六十代程に見える髭を生やしたゲルと呼ばれる男性が、私達に振り向いた。
「ようこそいらっしゃいました、聖女様! お会い出来て光栄です!」
ティアを視界に入れるなり、満面の笑顔を浮かべ、食いつき気味に出迎える。
「……っ」
ティアは勢いに押されるように一歩下がり、私の後ろに隠れ、服の袖を握った。
服の袖を握るのは、ティアが緊張したり不安になったりした時のクセのようなものだと、最近、理解した。
「ワシはここロスナイ教会の大司教でゲルと申します。こちらは、ワシの右腕を務めております、司教のユニバーサルです」
「初めましてぇ、よろしくお願いしますねぇ」
「いやぁ、お美しい! 聖女様はまるで、神様からの贈り物のようですなぁ」
ティアが怯えて隠れているにも関わらず、最初の勢いそのままに、距離を詰めてくるゲル様。
(……別にいいけど、ティアだけ特別待遇ね)
私達の存在を忘れたように、ティアに向けてだけ、話し続ける。一通りティアへの媚びが終わった後、ようやく、ゲル様は私達の存在に気付いたように、声をかけた。
「フェルナンド様、お久しぶりでございます。聖女様を連れて来て下さったことに感謝を申し上げます。欲を言えば、もう少し早くお目通しさせて頂きたかったものですが」
「それは申し訳ありませんでした。大司教は、『聖女など眉唾の存在で偽物だ! 騙されてはならん!』と、豪語されていたと聞いておりましたので」
「そんなことはありませんよ。きっと、どこからか伝わった眉唾物の情報でしょう」
(嘘つき)
グリフィン公爵家が調べた情報に間違いなんて、あるわけがない。
「相変わらず、教会は繁盛されているようですね」
「全然ですよ。ご存知の通り、聖女様が現れた所為で、教会に救いを求める人々の数が減っていましてね。困ったものです、信仰なき者に救いの手は伸ばされないというのに」
発言がいちいち癇に障るのは、私だけ? その言い方だと、ティアの存在が邪魔だって言ってるようにも聞こえるけど?
「へぇ、大司教は、聖女の存在が邪魔だと?」
言葉に出して文句を言ってしまいたかったけど、その前に、フェルナンド様が口を開いた。
「おや、誤解ですよ。少し言い方に語弊がありましたかね、失礼しました」
「そうですね、これは助言ですが、大司教の言い方ですと、救いを求める人々の数が減るのが、悪いことのように聞こえてしましますよ。救いを求める人がいなくなるのは、良いことでしょう? 誤解されないよう、少しは頭を使って、考えて言葉を選んだ方がよろしいかと思います」
(よし! もっと行け!)
いつもなら冷たい視線や冷ややかな笑顔、冷たくて意地悪な言い回しに怯えたりしていますが、今回ばかりは、フェルナンド様を全力で応援します!
「――ふふふ、これは失礼しました、フェルナンド様。ゲル様、フェルナンド様の仰る通り、あのような言葉選びでは誤解されても仕方ありませんよぉ? 気を付けて下さいねぇ」
場を収拾させるように間に入ったユニバーサル様は、笑顔で二人に声を掛けた後、私に――正確には、私の後ろで隠れているティアの方に、向き直した。
「折角、来られたのですから、どうぞ、教会を隅々まで見学して、私達の活動を心行くまで御覧下さい。きっとティア様も、私達の活動に心から賛同して下さることでしょう。私達は、弱き悩める人々の味方ですから」
「……は、はい。分かり……ました」
「ありがとうございますわぁ」
初めて言葉を発したティアに、ユニバーサル様は満足そうに微笑んだ。
「一週間後には、聖女様を歓迎する、ささやかな宴も開く予定ですので、楽しみにしていて下さいませ。残念ながら、ジークさんは参加することが出来ないのですが……」
「僕は構いませんよ」
(ここでも、平民のジークの差別があるのね)
不快な気持ちになったけど、ジークは私達の誰よりも先に口を開き、これ以上、場を乱したくないという了承の意志を示したから、何も言わなかった。
「グリフィン公爵夫人のリーゼ様は、どうぞ、ご参加下さい」
「……ありがとうございます」
私、リーゼは、小説ではとっくにフェルナンド様と離婚していて、ここにはいない。だからリーゼが闇の魔女と対面するのは初めてのことで、小説でも描かれていない。それは、ティアへの気持ちを諦め、故郷に帰ったジークも同じ。
私達の存在が闇の魔女にどう映ったのか、理解する手筈は、無い。
(絶対に、闇の魔女の思い通りにはさせないから!)
目の前にいる闇の魔女に、心の中で強く、宣戦布告した。
559
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる