離婚しましょう、私達

光子

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44話 ロスナイ教会

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 ◇◇◇


 結婚生活九か月七日目――本日は予定通り、ロスナイ教会に向かう日。

 ロスナイ教会は、グリフィン公爵邸があるニルラルカ街から馬車で数時間走らせたら着く場所にあり、周りが自然で囲まれた、美しい景色の中にある。
 その外観からも、観光客は後が立たず、祈りに訪れた人を合わせ、数多くの人々が訪れる場所だ。

「ようこそいらっしゃいました、聖女様」

 教会の関係者と思わしき神官の格好をした青年が、丁寧に頭を下げ、私達を迎え入れた。

「フェルナンド様もようこそいらっしゃいました、私達は貴方様を歓迎致します」
「歓迎に感謝します、それで、大司教はどちらに?」
「奥の礼拝堂にて、皆様をお待ちです」

 神官の青年に案内され、教会の中を進む。
 教会の中には至る所に人がいて、礼拝堂には、泣きながら神に祈りを捧げる人の姿もあった。

「この先に大司教様がいらっしゃいます、どうぞ、お進み下さい」

 見張りもいる通路の先を指して、言葉を述べる神官。
 まるで案内が終わるような言い方。どうせなら最後まで案内してくれればいいのに、と、思っていたら、彼は無機質な笑顔で、その先の言葉を続けた。

「そちらのジークと呼ばれる方は、この先に通すことは出来ませんので、ここでお帰り下さい」
「……え? 何で?」

 純粋に意味が分からなくて、聞き返した。何でジークが先に進めないの?

「彼はただの平民なので、ここから先に進む権利がありません」
「なっ――!」

 ジークを平民だと見下した態度に、怒りで一瞬で、体温が上昇した。

「ジークはティアに付き添って来たのよ!? 差別するなんて、どういうこと!?」
「ここから先に進めるのは、最低でも伯爵の爵位をお持ちの方か、司祭より上の者だけです。私も、この先に進むことは出来ません」
「何、それ……」

 自愛の神を祀っておきながら、身分で、人を区別するの?

「……リーゼ、僕はいいよ。大丈夫だから」

 諦めたように言うジークの言葉が、とても、切なく聞こえた。

「っ! 教会の内部のことは好きにしたらいいけど、ジークは違うでしょう!? ジークは、私達と一緒に来たんだから、ここを通る資格があるわ!」
「ありません、これは教会のルールです。彼には聖女の隣に立つ資格もありません、帰って頂いて下さい」
「嫌! ジークは帰さない!」

 ジークが、どんな想いでティアの傍にいることを選んだと思うの? 何も知らないくせに、どうして、そんなに酷いことが言えるの?

 嫌い、この教会が嫌いだ、と、足を踏み入れてすぐに、思った。

「…………ジーク兄さんを通さないと言うなら、ジーク兄さんに帰れと言うなら……私も、帰ります」
「せ、聖女様!? それは、その、困ります」
「ジーク兄さんは、私の……大切な人です。そんな大切な人を蔑ろにする場所になんか……いたくありません」
「ティア……!」

 驚いた、が、正直な感想。こんな風に、ティアが自分の意見を真っ正面から言うところなんて、初めて見た。

「そ、そんなこと言われましても、これは教会のルールで――」

 私に何か言われるよりも、格段に戸惑っている様子が見れた。それもそのはず、呼び寄せた目的の聖女に帰られるなんて、本末転倒もいいところ。

(もういっそのこと、このまま帰りたい)

 これが私の正直な感想と、願いだった。

 だけど、その願いは、無残にも粉々に砕け散ることになった。

「――どうしたのですか?」
「――っ!」

 姿を見た瞬間、息を飲んだ。
 小説で見た、挿絵の絵そのままの姿――――選ばれた人だけが着用することが出来る司教の服を身に纏った、漆黒の髪に、不気味なまでに紅い瞳を宿した女性。

(闇の魔女!)

 彼女の登場に、一気に血の気が引いた。

「《ユニバーサル》様、その、聖女様が平民の通行を許さない限り、帰ると仰られまして……」
「あらあら、まぁ」

 頬に手を当て、にこやかに微笑むユニバーサル様。

「いいじゃない、通してあげましょう」
「よろしいのですか!?」
「そもそも、平民だからーとか、身分で区別するのが間違っているのよー。神は全てにおいて平等であることを望んでいるわぁ」

 見張りにも合図し道を開けると、ユニバーサル様は深く胸に手を当て、頭を下げた。

「不快な思いをさせてしまって申し訳ございません、聖女様。私も常々、このようなルールは良くないと思っているのですが、大司教様の頭が固い方でしてーあ、私がこんな風に言っていたことは、内緒ですよー?」

 人の良い、柔らかな雰囲気に、寄り添う姿勢。
 私だって何も知らなければ、ユニバーサル様が闇の魔女だなんて、思いもしなかったと思う。知っている私からすれば、彼女の全てが、わざとらしく思えてならない。

 揉め事を解決させ、神官に代わり、この先の案内を務めるユニバーサル様。

 笑顔でフェルナンド様と会話を交わすユニバーサル様を、私はただ、後ろから黙って見つめた。

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