離婚しましょう、私達

光子

文字の大きさ
47 / 62

47話 許すべきでしょう

しおりを挟む
 

 賑わっているように見えるロスナイ教会だが、実際は観光客の方が多く、聖女ティアの出現によって、信者の数は目に見えて分かるほど、減ったらしい。

 ティアによって土地が癒され、苦しむ人々が減った分、悩みを持つ人々が減ったのだろう。

 そして、人々の信仰の対象が、教会から聖女に移った。

 ティアは心が弱いかもしれないけど、ヒロインに相応しい、心優しい女性だ。人を区別することも無く、ただ一生懸命に土地を癒し、何の見返りも求めずに人々を救う。そんな心優しい聖女に信仰が移るのは、当然だった。

 最初は聖女の存在を否定し、自分達こそが特別だと言い張っていた教会が手のひらを返したのは、聖女の力が本物で、結果、信者が激減し、何とか取り戻そうと、聖女を自分達側に取り込もうと考えたからだろう。
 浅はかにも程がある。

「ティア様は特別な存在だから、羨ましいですわぁ。私、ティア様ともっと仲良くなりたいです」
「……そ、そうです……か」

(嘘つき、ティアのこと、大嫌いなくせに)

「こちらが、教会の特別な信者だけが入れる、《憩いの場》です」
「特別な……信者?」
「私達の教会の活動を応援して下さる、信者のことです」

(応援って、どうせ、お金のことでしょ? ロスナイ教会は寄付金として、信者に多額のお金を要求しているものね)

 教会の裏設定のことも小説の知識で知っているので、全てが胡散臭く聞こえてしまう。

「――リーゼ? どうしたの?」

 私と一緒にティア達の様子を見ていたジークは、隣で眉間に皺を寄せていた私に気付き、声をかけた。

 聖女の活動はティアがメインで、サポートがフェルナンド様。
 私達はティアの精神安定剤の役割として着いて来ただけなので、正直、することはあまりない。今回も、教会が正式に招待したのはティアとフェルナンド様で、教会の活動を積極的に伝えたいのはこの二人。だから私とジークは、基本的には少し離れた場所で、その様子を見守っていた。

「ユニバーサル様が変なことをしないように、監視しているの。昨日、伝えたでしょ? ユニバーサル様が闇の魔女だから、気を付けてって」
「聞いたけど……それ、本当に? ユニバーサル様が闇の魔女だなんて……」
「信じられないかもしれないけど、本当」

 ユニバーサル様はこの教会で唯一、ジークに声をかけ、自然に接する相手だった。ここに通れたのも、ユニバーサル様の口添えのおかげだから、ジークがユニバーサル様を闇の魔女と信じたくない気持ちは、分かる。
 分かるけど、受け入れてもらわないと困る。

 闇の魔女に心を許してはいけない。

「実はこちらに、どうしてもティア様にお会いしたいと、お待ちしている方がいるんですよぉ」
「私に……?」
「ええ、教会に良くして下さっている貴族のご令嬢なんですが、些細な過ちで父親の怒りを買い、ここで暫く頭を冷やせ、と、連れて来られた、お可哀想な方なんです。ティア様にも会って、彼女の悩みを聞いてあげて欲しいですわぁ」

 闇の魔女は、人の心を持たない、人が傷付いた姿を見るのが、大好きな魔女なの。
 人が傷付く姿を見るために――どんな手も使う。

「あら、ティア。お久しぶりね」
「……シェリ様……!?」

 ティアに会いたい人がいると連れて来られた憩いの場には、教会の信者の服装をしたキングス侯爵令嬢シェリ様の姿があって、私は反射的に、ティアを守るように抱き寄せた。

 その行動がシェリ様は気に入らないようで、露骨に、顔をしかめた。

「また貴女ですの? 私はティアと普通に挨拶しているだけなのですから、邪魔しないで欲しいですわ」
「ティアを虐めていた張本人が何言ってるの?」

 ティアはグリフィン公爵家に来る前、キングス侯爵家で、シェリ様に平民だからと見下され、虐められ、亡くなった両親の形見も捨てられたと聞いた。ティアがどれだけ、シェリ様に怯えていると思う?

「ユニバーサル様、これは一体、どういうことですか? ロスナイ教会とキングス侯爵家が親交があることは知っていますが、俺は、前もってティアとの関係をお話しましたよね?」

 フェルナンド様もまた、ここにシェリ様がいることに苛立っているようで、冷たい眼差しで、ユニバーサル様を睨み付けた。
 ここで謝罪の言葉なり出てくるのかと思えば、ユニバーサル様は全く悪気が無いように、朗らかな笑顔を浮かべた。

「お聞きしましたけど、シェリ様は以前の行いを心より反省していて、今ではティア様と友人になりたいと思っていらっしゃるんです。反省している人をいつまでも許さないなんて、そんなの、可哀想じゃありませんか」
「ユニバーサル様の言う通りですわ、私、とても反省しましたの。いつまでいつまでも、昔のことを引きずらないで欲しいですわ」

 しばくぞ、こいつ等。が、率直な感想。

「……っ」
「ティア……」

 服の袖が、強く握られる。
 そんなティアの表情は、ここ最近で一番真っ青で、今にも泣きだしてしまいそうで、見ていられなかった。

「ジーク、ティアを連れて外に出てて。ティアのこと……お願いね」
「ああ、分かった」

「ちょっと、待ちなさいよ! 私がこれだけ謝ってあげてるんだから、許すのが普通でしょう!? この私が、平民なんかと友達になってあげようとまで思っているのに! 何よ、ちょっと特別な力があるからって調子に乗って、貴女なんか聖女に相応しくないわ!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...