離婚しましょう、私達

光子

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47話 許すべきでしょう

 

 賑わっているように見えるロスナイ教会だが、実際は観光客の方が多く、聖女ティアの出現によって、信者の数は目に見えて分かるほど、減ったらしい。

 ティアによって土地が癒され、苦しむ人々が減った分、悩みを持つ人々が減ったのだろう。

 そして、人々の信仰の対象が、教会から聖女に移った。

 ティアは心が弱いかもしれないけど、ヒロインに相応しい、心優しい女性だ。人を区別することも無く、ただ一生懸命に土地を癒し、何の見返りも求めずに人々を救う。そんな心優しい聖女に信仰が移るのは、当然だった。

 最初は聖女の存在を否定し、自分達こそが特別だと言い張っていた教会が手のひらを返したのは、聖女の力が本物で、結果、信者が激減し、何とか取り戻そうと、聖女を自分達側に取り込もうと考えたからだろう。
 浅はかにも程がある。

「ティア様は特別な存在だから、羨ましいですわぁ。私、ティア様ともっと仲良くなりたいです」
「……そ、そうです……か」

(嘘つき、ティアのこと、大嫌いなくせに)

「こちらが、教会の特別な信者だけが入れる、《憩いの場》です」
「特別な……信者?」
「私達の教会の活動を応援して下さる、信者のことです」

(応援って、どうせ、お金のことでしょ? ロスナイ教会は寄付金として、信者に多額のお金を要求しているものね)

 教会の裏設定のことも小説の知識で知っているので、全てが胡散臭く聞こえてしまう。

「――リーゼ? どうしたの?」

 私と一緒にティア達の様子を見ていたジークは、隣で眉間に皺を寄せていた私に気付き、声をかけた。

 聖女の活動はティアがメインで、サポートがフェルナンド様。
 私達はティアの精神安定剤の役割として着いて来ただけなので、正直、することはあまりない。今回も、教会が正式に招待したのはティアとフェルナンド様で、教会の活動を積極的に伝えたいのはこの二人。だから私とジークは、基本的には少し離れた場所で、その様子を見守っていた。

「ユニバーサル様が変なことをしないように、監視しているの。昨日、伝えたでしょ? ユニバーサル様が闇の魔女だから、気を付けてって」
「聞いたけど……それ、本当に? ユニバーサル様が闇の魔女だなんて……」
「信じられないかもしれないけど、本当」

 ユニバーサル様はこの教会で唯一、ジークに声をかけ、自然に接する相手だった。ここに通れたのも、ユニバーサル様の口添えのおかげだから、ジークがユニバーサル様を闇の魔女と信じたくない気持ちは、分かる。
 分かるけど、受け入れてもらわないと困る。

 闇の魔女に心を許してはいけない。

「実はこちらに、どうしてもティア様にお会いしたいと、お待ちしている方がいるんですよぉ」
「私に……?」
「ええ、教会に良くして下さっている貴族のご令嬢なんですが、些細な過ちで父親の怒りを買い、ここで暫く頭を冷やせ、と、連れて来られた、お可哀想な方なんです。ティア様にも会って、彼女の悩みを聞いてあげて欲しいですわぁ」

 闇の魔女は、人の心を持たない、人が傷付いた姿を見るのが、大好きな魔女なの。
 人が傷付く姿を見るために――どんな手も使う。

「あら、ティア。お久しぶりね」
「……シェリ様……!?」

 ティアに会いたい人がいると連れて来られた憩いの場には、教会の信者の服装をしたキングス侯爵令嬢シェリ様の姿があって、私は反射的に、ティアを守るように抱き寄せた。

 その行動がシェリ様は気に入らないようで、露骨に、顔をしかめた。

「また貴女ですの? 私はティアと普通に挨拶しているだけなのですから、邪魔しないで欲しいですわ」
「ティアを虐めていた張本人が何言ってるの?」

 ティアはグリフィン公爵家に来る前、キングス侯爵家で、シェリ様に平民だからと見下され、虐められ、亡くなった両親の形見も捨てられたと聞いた。ティアがどれだけ、シェリ様に怯えていると思う?

「ユニバーサル様、これは一体、どういうことですか? ロスナイ教会とキングス侯爵家が親交があることは知っていますが、俺は、前もってティアとの関係をお話しましたよね?」

 フェルナンド様もまた、ここにシェリ様がいることに苛立っているようで、冷たい眼差しで、ユニバーサル様を睨み付けた。
 ここで謝罪の言葉なり出てくるのかと思えば、ユニバーサル様は全く悪気が無いように、朗らかな笑顔を浮かべた。

「お聞きしましたけど、シェリ様は以前の行いを心より反省していて、今ではティア様と友人になりたいと思っていらっしゃるんです。反省している人をいつまでも許さないなんて、そんなの、可哀想じゃありませんか」
「ユニバーサル様の言う通りですわ、私、とても反省しましたの。いつまでいつまでも、昔のことを引きずらないで欲しいですわ」

 しばくぞ、こいつ等。が、率直な感想。

「……っ」
「ティア……」

 服の袖が、強く握られる。
 そんなティアの表情は、ここ最近で一番真っ青で、今にも泣きだしてしまいそうで、見ていられなかった。

「ジーク、ティアを連れて外に出てて。ティアのこと……お願いね」
「ああ、分かった」

「ちょっと、待ちなさいよ! 私がこれだけ謝ってあげてるんだから、許すのが普通でしょう!? この私が、平民なんかと友達になってあげようとまで思っているのに! 何よ、ちょっと特別な力があるからって調子に乗って、貴女なんか聖女に相応しくないわ!」


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