離婚しましょう、私達

光子

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49話 シェリ様の最後

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「ま、待って下さい、フェルナンド様! 私は、私は貴方の妻になりたいんです! 貴方と結婚出来れば、きっと、お父様だって許して下さるし、幸せになれるんです! だから、私と結婚して――」

「執拗いですね、俺の妻はリーゼだけです。二度と、顔を見せないで下さい」

「そん……な」

 絶望に染まるシェリ様。
 シェリ様はこれから先、きっと、もっと辛い未来が待っていることでしょう。ですが、同情はしません。キングス侯爵家の父と娘は、闇の魔女に操られておらず、全て、自分達の意志で行動しているのですから。

 ――――後に聞いた話ですが、シェリ様は今回の件で完全に父親からも見放され、遠く離れた、声に出すこともはばかられる、悲惨な環境に置かれることになったようです。
 最初は、自分が侯爵令嬢であったことをひけらかしていたようだが、何度も男達に体を弄ばされるうちに、やがて精神は崩壊し、今はもう、毎日を苦しみ耐えて暮らしているらしい。

 余計な真似をしなければ、そこまで酷い目には合わなかったのに。


 ◇◇◇


「まさかシェリ様が、あそこまで愚かだとは思いませんでしたわぁ。ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」

 わざわざ帰り際、お見送りに来たユニバーサル様は、私と二人っきりになったのを見計らって、声を掛けた。

「きっとシェリ様には、死んだ方がマシと思えるような、悲惨な人生が待っているでしょうね。ああ、お可哀想」

 よく言う、全てを仕組んだのは、貴女のクセに。
 ユニバーサル様が引き合わせなければ、シェリ様をたきつけなれば、こんな悲惨な結果にはならなかった。

「リーゼ様が羨ましいですわぁ、あんな旦那様がいらっしゃったら、さぞ、心強いですよねぇ。私も、あんな素敵な旦那様が欲しいものです。もし離婚するようなことがありましたら、私に、くださいませんか?」
「フェルナンド様は、私の旦那様です。絶対に、あげません」

 ティアにならいいけど、ユニバーサル様に渡すのは、絶対に嫌!

「あら、ふふ。流石は、無理やりにでも好きな人を手に入れたリーゼ様ですわぁ。私達、仲良くなれそうな気がいたしません?」
「しません」

 欠片も無い。有り得ない、お断りします。

「まぁ、残念。それにしても、ティア様もティア様ですよね」
「は?」
「心から反省している人を許さないなんて、ティア様は聖女なのに、随分と、心が狭いお方なんですねぇ」

 闇の魔女は、人の心をざわつかせる天才だと思った。

「許すか許さないかを決めるのは、ティアです。ユニバーサル様でも、シェリ様でもありません」

「……ふふ、リーゼ様は最初から、私を警戒していましたね。どうして、私の正体を知っていらっしゃるんですか?」

「っ!」

 体がビクッと反応する。
 揺さぶりだ、闇の魔女の正体はまだ誰にもバレていない。これは、私がユニバーサル様の正体に気付いているか、探りをかけているだけ。

「何のことですか? ユニバーサル様は、ただのロスナイ教会の司教様、ですよね?」

 私に正体がバレていると知ったら、何を仕出かすか分からない。だから笑顔で、誤魔化した。

「……あら、私の勘違いかしら? ごめんなさいね。気にしないで下さいませ」
「あはは」

 恐怖! 怖い! 早く帰りたい! 私は何の力も持たない、ただの当て馬的モブ悪女なんです! 直接戦って勝てるはずがないんです!

「お待たせしました、リーゼ。行きましょう」
「あ、はい」

 大司教であるゲル様との話を終え、馬車置き場に戻って来たフェルナンド様に続き、馬車に乗り込む。

「このままお別れするのが、とても残念ですわぁ。また、お会い出来るのを楽しみにしておりますね」

 別れ際、ユニバーサル様にそう言われたけど、正直、二度と会いたくない。
 そう思ったのに、馬車で隣り合わせに座ったフェルナンド様からは、絶望的な言葉が聞こえた。

「宴には参加することになりました」

 ティアを歓迎するために開かれる予定の宴。
 滞在は免除されたけど、大司教であるゲル様の要望で、宴だけは参加することになったらしい。私は不参加で! と、伝えたけど、今回は名指しで私も招待されたらしく、参加は必須だと言われた。

 何で私まで!? 当て馬的モブ悪女なんて、放っておいてくれればいいのに!

「宴では、俺から離れないで下さい」
「え……あの、ティアは?」
「ティアはある程度、光の魔法を使えるようになっています。守ることに関して言うなら、俺よりも優秀でしょう」
「そこまで成長してるんですか!?」

 小説とは比べ物にならないスピードで成長してる! 物語のスピードもだけど、全体的に早い!

(これなら、ティアが闇の魔女に打ち勝つのも、そう遠くないかもしれない!)

「ところで、リーゼは、俺に何か隠し事をしていますか?」
「へぇ!? いえ、何も」

 気付いたら、至近距離で体が触れ合うくらい距離が縮まっていて、息を飲む。と言うか、何で私とフェルナンド様が同じ馬車!? 今までは、私はジークと一緒だったのに!

「嘘が下手ですね」
「う、嘘じゃありません!」
「へぇ? では、俺が好きだと言うのも、嘘じゃありませんよね?」
「それは……っ」

 私がリーゼになり切ろうと、当て馬的モブ悪女を目指していた頃の話です!

「最近は仕事が忙しくて構えなかったので、今日の夜は、部屋に伺いますね」
「えーーっと、そんなに無理なさらなくても、いいんですよ? お疲れでしょうし、また、今度で」
「お気になさらず」
「気に――んっ」

 会話の途中で、唇を塞がれる。
 いつの間にか、この人とのキスに慣れてしまっている自分がいて、嫌になる。だから、早く離婚したかったのに。


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