13 / 22
GKBRロックンロール
12:わがたつそまに
しおりを挟む
深夜。物音、プレハブ内。
私が感じた違和を連慈も感じたのか目を覚まし起き上がった。
足音、プレハブのドアが開き人影が一つ。
連慈はギョッとする。
私も同様であった。
その人影は、豊明である。
「こんな時間に、なんでそんな所にいるんですかい?」
連慈は反射的に携帯の電源を押す。
示される時間は、深夜のど真ん中の時間。
キョロついていた豊明は、わずかに顔をしかめたが、ちょうど良い、と言うと、我々の疑問を無視し連慈に向かって問う。
「あいつはどこだ?」
「あいつ? 絵瑠と編花なら中ですぜ…… 見たと思いますが。灯さんでしたら、地下じゃないですか?」
「いや、そいつらじゃない」
「あー、遊人のことですかい? 遊人でしたら……」
「上野だ」
私の助け舟に、そこだ、と連慈は手を打つ。
「どうやって行けばいい?」
「……はぁ?」
ありえない疑問に対し、今度は連慈が顔をしかめる。
しかし、豊明もまた本気なのか、答えを待っている。
「この時間だと…… タクシー捕まえた方が早いと思いますが……」
豊明は、ふむ。と唸り、そうする。というとその場を後にした。
「なんだったんだ?」
「わからん。豊明もたまにわけわからんことをするからな」
連慈は、そうだな。とクツクツと笑うと大あくびをし、寝袋の上に横になる。
そのまま、数十分、あるいはもう少し経ったろうか。
連慈は、ガバッと起き上がる。
「やっぱ、おかしいだろ!」
その声に私の意識も明瞭となる。
私達は、ずっとここにいたのだ。
豊明がプレハブに入った記憶などない。
プレハブの中には、絵瑠と編花しかいないはずなのだ。
同様の思考だったのか、連慈は枕元の円匙を片手にプレハブに駆け込む。
中では、絵瑠もまた、顔を青くしていた。
「編花ちゃんがいないわ!」
「落ち着け! 豊明先生を見たか?」
「いえ、なぜか灯さんがいたんだけど」
「くっそ! なにがどうなってやがる!」
「とりあえず、灯と豊明に連絡したらどうだ?」
私の提案に二人はすぐさま電話を取り出す。
「灯さん? さっきプレハブにいました? ……そうですか。いえ、編花ちゃんがいないんです! はい、今そちらに向かいます」
「豊明先生か? さっき研究所に…… そうですか。すいません。はい、編花が消えました。わかりました」
二人は向かい合うとお互いに首を振る。
「とりあえず、ロビーで灯さんが待ってるわ」
緑色した非常口を示す電灯の傍を抜けると、自動ドア付近に警備員の斎藤と薄い紺のナイトウェアを着た灯が立っていた。
「斎藤さんも、あなた達と同じこと言ってるわ。私が、外に出て行ったと。私が出られるはずないのに」
それについて、斎藤はとにかく頭を下げて謝り倒している。
「誘拐ですかいね?」
連慈の疑問に灯が首を振る。
「いえ、ありえないわ。研究所に侵入者がいれば気づくから」
それについては私も概ね同意だ。
灯と私に気づかれずあの部屋に侵入するのは不可能であろう。
「なら、編花ちゃんが幻術か何かを使って勝手に出て行ったことになりますわ?」
「それについては、こちらが謝罪するわ。あの子の父は、変化の異能持ちだったのよ。とはいえ、まともな変化はできなかったらしいんだけどね。まさか、あの子が、違和感すらないほどに知人に化けられるとは思ってなかったのよ」
「違和感がなかった訳じゃないですぜ。少なくとも俺は、違和感がありましたからねぇ。ところが、それでも信じた。あの偽物を本物だと信じこんでました」
「私も。あの時私は、違和感を感じてたのに疑いは一切持たなかった……」
「灯よ、私も出くわしたから、同意見だ。考えてみろ。ただ上手に姿形を変えた所で、いないはずの人間が部屋から出てきたら流石に止める」
私の言葉に斎藤もうなずいた。
「そうね」
私の意見に、灯は少し首をひねる。
「侵入者に関してはこちらでもう少し調査するとして……」
「偽物は、俺に遊人の居場所を聞いてきましたぜ。何か気になりませんかいね?」
灯と絵瑠が、また首を捻ったときであった。
二人の思考は鳴りだした携帯によって中断される。
灯は目配せするとスマホを取り出した。
「ええ、その辺りは…… 遊人の居場所を…… そうね。二人共出すわよ。また後でかけるわ」
電話を耳から下ろすとボタンを操作する。
「二人共着替えてきなさい」
二人はお互いを見やる。
連慈は、いつも通り、奇抜なデザインのパーカーに黒いカーゴパンツを履いている。
センス抜群とまではいかないが、今すぐ出発することに問題はないであろう。
絵瑠の方もまた、戦闘向きだ。
紅色の伸縮性抜群な生地をふんだんに使用した服。
胸部は、窮屈に押し込まれ、そこには「3―2 咲上」と書かれている。
「絵瑠、いくらなんでも中学校の時のジャージじゃ行かせられないわ。ねぇ、斎藤さん」
「ええ、娘が同じ格好で寝ていたら泣くかもしれません」
「ら、楽なんだからいいじゃないですか!」
絵瑠はそういうと走りだしていた。
「全く、あの胸を持ってどこが楽なんだか。あれかしら、自慢か何かかしら」
「あれが昔は普通に着られてたんだから、成長ってのは恐ろしいもんですねぇ。ところで灯さんの成長期は」
連慈のくだらない疑問は、途中で文字通り切られた。
私が感じた違和を連慈も感じたのか目を覚まし起き上がった。
足音、プレハブのドアが開き人影が一つ。
連慈はギョッとする。
私も同様であった。
その人影は、豊明である。
「こんな時間に、なんでそんな所にいるんですかい?」
連慈は反射的に携帯の電源を押す。
示される時間は、深夜のど真ん中の時間。
キョロついていた豊明は、わずかに顔をしかめたが、ちょうど良い、と言うと、我々の疑問を無視し連慈に向かって問う。
「あいつはどこだ?」
「あいつ? 絵瑠と編花なら中ですぜ…… 見たと思いますが。灯さんでしたら、地下じゃないですか?」
「いや、そいつらじゃない」
「あー、遊人のことですかい? 遊人でしたら……」
「上野だ」
私の助け舟に、そこだ、と連慈は手を打つ。
「どうやって行けばいい?」
「……はぁ?」
ありえない疑問に対し、今度は連慈が顔をしかめる。
しかし、豊明もまた本気なのか、答えを待っている。
「この時間だと…… タクシー捕まえた方が早いと思いますが……」
豊明は、ふむ。と唸り、そうする。というとその場を後にした。
「なんだったんだ?」
「わからん。豊明もたまにわけわからんことをするからな」
連慈は、そうだな。とクツクツと笑うと大あくびをし、寝袋の上に横になる。
そのまま、数十分、あるいはもう少し経ったろうか。
連慈は、ガバッと起き上がる。
「やっぱ、おかしいだろ!」
その声に私の意識も明瞭となる。
私達は、ずっとここにいたのだ。
豊明がプレハブに入った記憶などない。
プレハブの中には、絵瑠と編花しかいないはずなのだ。
同様の思考だったのか、連慈は枕元の円匙を片手にプレハブに駆け込む。
中では、絵瑠もまた、顔を青くしていた。
「編花ちゃんがいないわ!」
「落ち着け! 豊明先生を見たか?」
「いえ、なぜか灯さんがいたんだけど」
「くっそ! なにがどうなってやがる!」
「とりあえず、灯と豊明に連絡したらどうだ?」
私の提案に二人はすぐさま電話を取り出す。
「灯さん? さっきプレハブにいました? ……そうですか。いえ、編花ちゃんがいないんです! はい、今そちらに向かいます」
「豊明先生か? さっき研究所に…… そうですか。すいません。はい、編花が消えました。わかりました」
二人は向かい合うとお互いに首を振る。
「とりあえず、ロビーで灯さんが待ってるわ」
緑色した非常口を示す電灯の傍を抜けると、自動ドア付近に警備員の斎藤と薄い紺のナイトウェアを着た灯が立っていた。
「斎藤さんも、あなた達と同じこと言ってるわ。私が、外に出て行ったと。私が出られるはずないのに」
それについて、斎藤はとにかく頭を下げて謝り倒している。
「誘拐ですかいね?」
連慈の疑問に灯が首を振る。
「いえ、ありえないわ。研究所に侵入者がいれば気づくから」
それについては私も概ね同意だ。
灯と私に気づかれずあの部屋に侵入するのは不可能であろう。
「なら、編花ちゃんが幻術か何かを使って勝手に出て行ったことになりますわ?」
「それについては、こちらが謝罪するわ。あの子の父は、変化の異能持ちだったのよ。とはいえ、まともな変化はできなかったらしいんだけどね。まさか、あの子が、違和感すらないほどに知人に化けられるとは思ってなかったのよ」
「違和感がなかった訳じゃないですぜ。少なくとも俺は、違和感がありましたからねぇ。ところが、それでも信じた。あの偽物を本物だと信じこんでました」
「私も。あの時私は、違和感を感じてたのに疑いは一切持たなかった……」
「灯よ、私も出くわしたから、同意見だ。考えてみろ。ただ上手に姿形を変えた所で、いないはずの人間が部屋から出てきたら流石に止める」
私の言葉に斎藤もうなずいた。
「そうね」
私の意見に、灯は少し首をひねる。
「侵入者に関してはこちらでもう少し調査するとして……」
「偽物は、俺に遊人の居場所を聞いてきましたぜ。何か気になりませんかいね?」
灯と絵瑠が、また首を捻ったときであった。
二人の思考は鳴りだした携帯によって中断される。
灯は目配せするとスマホを取り出した。
「ええ、その辺りは…… 遊人の居場所を…… そうね。二人共出すわよ。また後でかけるわ」
電話を耳から下ろすとボタンを操作する。
「二人共着替えてきなさい」
二人はお互いを見やる。
連慈は、いつも通り、奇抜なデザインのパーカーに黒いカーゴパンツを履いている。
センス抜群とまではいかないが、今すぐ出発することに問題はないであろう。
絵瑠の方もまた、戦闘向きだ。
紅色の伸縮性抜群な生地をふんだんに使用した服。
胸部は、窮屈に押し込まれ、そこには「3―2 咲上」と書かれている。
「絵瑠、いくらなんでも中学校の時のジャージじゃ行かせられないわ。ねぇ、斎藤さん」
「ええ、娘が同じ格好で寝ていたら泣くかもしれません」
「ら、楽なんだからいいじゃないですか!」
絵瑠はそういうと走りだしていた。
「全く、あの胸を持ってどこが楽なんだか。あれかしら、自慢か何かかしら」
「あれが昔は普通に着られてたんだから、成長ってのは恐ろしいもんですねぇ。ところで灯さんの成長期は」
連慈のくだらない疑問は、途中で文字通り切られた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる