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第6話 素直な若者カンナ。涼しくなってしまいそうなイケボ。
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「いま、頭にコツンってかたいものが……」
私はそう答えながら、その場にしゃがんでみた。ぶつかったものが落ちているかと思ったのだ。うーん……。砂利道しか見えない。
考えてみれば、まったく痛くなかった。きっと、凄く小さなものだったからだろう。砂利道で小さな落とし物を見つけるのは難しい。諦めるしかなさそう。
立ち上がり、待っていてくれた彼らと歩き出す。
「田舎ってたまに何か降ってくるよね」
ベッカムくんは『あるよねぇ』みたいな感じで頷いた。なんでもかんでも『田舎だから』ですませていいのだろうか。
「そう……ですかねぇ。『何か』ってなんですか?」
「えー。こっちにいるとたまにコツってぶつかるやつのことだって。ミィちゃんもあるよね? ヒョウみたいな。冷たいやつ」
「あるんじゃねーの」
ミィちゃん名前あきらめたんですか?
コイツに諦めさせんのがめんどくせぇ。
諦める気はないけどめんどくせぇは言い過ぎだと思うんだよね。それよりヒョウとアラレの違いってなに?
スマホ置いて来たんで答え分かったら教えてください。
田中カンナ一ミリも考える気ないじゃん。ミィちゃん答え教えて。
自分で調べろよ。
木陰というには涼しくない森の中。私たちはとりとめのない会話をしながら、砂利道をダラダラと進んで行った。実は全員スマホを家に置いて来た、という事実を確認しつつ。
◇
「わー。滝ってはじめて見ました。小さくても感動しますねぇ」
私は生まれて初めての滝に、言葉通り感動していた。
ざぁざぁとドドドの中間みたいな音。キラキラな水飛沫。風で揺れる枝。葉の擦れるザァ――という音。植物の緑と湿った土の匂い。
都会では感じられない輝きみたいなものが、そこにはぎゅっと詰まっていた。
とにかく田舎最高! って感じだ。
「若いっていいね。うん。いいと思うよ。ちゃんと感動を味わえるのは」
イケメンベッカムが『若者と年長者』を比べるおじさんみたいなことを言い始めた。
きみとは感じ方が違う……。みたいに。
まさか、滝に不満でもあるのだろうか。この素晴らしい景色に。
「ミィちゃん、ベッカムくんが、こんなに素敵な滝にいいがかりを……」
「ああ。こいつに滝を見る資格はねぇな」
「イヤイヤ。滝に文句があるわけじゃなくて。え? いいがかりつけられてるの俺じゃない? えーと、……なんていうかさぁ。ここまで歩いてきたわりに、凄い変化はないよね」
ベッカムくんは当たり障りのない言葉を探そうとして、けっこうそのまま言った。
暑くて逃げてきたのにそんなに涼しくないといいたいのだろう。たぶん。
「でも家の前に立ってたときよりは涼しくないですか? ほら、見た目だけでも……あれ、あの看板って、もしかして滝の名前とか書いてあるんですかね」
私はベッカムくんにこの滝の良さを伝えようとあたりを見回し、ちょっとボロい木の看板を発見した。ついでに、凄い伝説が書かれていたりしないだろうか。
足元に気を付けながら、さっそく近付いてみる。
小さな滝の周りは、ここへ来るまでの砂利道と違って、大きくてごつごつした石が多かった。いなかTシャツ、短パン、夏用の涼しいスニーカーという装備では心もとない。
底が見えるくらい浅く見える川でも『カンナちゃん、夏の水場は気を付けなさいねぇ』とおばあちゃんから言われているのだ。そのあとにちょっとだけ怖い話が続いたけれど、今は思い出さない方がいいような気がする。
「看板……?」
私の背中へミィちゃんのダルそうなイケボがかけられた。
「そんなもんあったか?」と。
私はそう答えながら、その場にしゃがんでみた。ぶつかったものが落ちているかと思ったのだ。うーん……。砂利道しか見えない。
考えてみれば、まったく痛くなかった。きっと、凄く小さなものだったからだろう。砂利道で小さな落とし物を見つけるのは難しい。諦めるしかなさそう。
立ち上がり、待っていてくれた彼らと歩き出す。
「田舎ってたまに何か降ってくるよね」
ベッカムくんは『あるよねぇ』みたいな感じで頷いた。なんでもかんでも『田舎だから』ですませていいのだろうか。
「そう……ですかねぇ。『何か』ってなんですか?」
「えー。こっちにいるとたまにコツってぶつかるやつのことだって。ミィちゃんもあるよね? ヒョウみたいな。冷たいやつ」
「あるんじゃねーの」
ミィちゃん名前あきらめたんですか?
コイツに諦めさせんのがめんどくせぇ。
諦める気はないけどめんどくせぇは言い過ぎだと思うんだよね。それよりヒョウとアラレの違いってなに?
スマホ置いて来たんで答え分かったら教えてください。
田中カンナ一ミリも考える気ないじゃん。ミィちゃん答え教えて。
自分で調べろよ。
木陰というには涼しくない森の中。私たちはとりとめのない会話をしながら、砂利道をダラダラと進んで行った。実は全員スマホを家に置いて来た、という事実を確認しつつ。
◇
「わー。滝ってはじめて見ました。小さくても感動しますねぇ」
私は生まれて初めての滝に、言葉通り感動していた。
ざぁざぁとドドドの中間みたいな音。キラキラな水飛沫。風で揺れる枝。葉の擦れるザァ――という音。植物の緑と湿った土の匂い。
都会では感じられない輝きみたいなものが、そこにはぎゅっと詰まっていた。
とにかく田舎最高! って感じだ。
「若いっていいね。うん。いいと思うよ。ちゃんと感動を味わえるのは」
イケメンベッカムが『若者と年長者』を比べるおじさんみたいなことを言い始めた。
きみとは感じ方が違う……。みたいに。
まさか、滝に不満でもあるのだろうか。この素晴らしい景色に。
「ミィちゃん、ベッカムくんが、こんなに素敵な滝にいいがかりを……」
「ああ。こいつに滝を見る資格はねぇな」
「イヤイヤ。滝に文句があるわけじゃなくて。え? いいがかりつけられてるの俺じゃない? えーと、……なんていうかさぁ。ここまで歩いてきたわりに、凄い変化はないよね」
ベッカムくんは当たり障りのない言葉を探そうとして、けっこうそのまま言った。
暑くて逃げてきたのにそんなに涼しくないといいたいのだろう。たぶん。
「でも家の前に立ってたときよりは涼しくないですか? ほら、見た目だけでも……あれ、あの看板って、もしかして滝の名前とか書いてあるんですかね」
私はベッカムくんにこの滝の良さを伝えようとあたりを見回し、ちょっとボロい木の看板を発見した。ついでに、凄い伝説が書かれていたりしないだろうか。
足元に気を付けながら、さっそく近付いてみる。
小さな滝の周りは、ここへ来るまでの砂利道と違って、大きくてごつごつした石が多かった。いなかTシャツ、短パン、夏用の涼しいスニーカーという装備では心もとない。
底が見えるくらい浅く見える川でも『カンナちゃん、夏の水場は気を付けなさいねぇ』とおばあちゃんから言われているのだ。そのあとにちょっとだけ怖い話が続いたけれど、今は思い出さない方がいいような気がする。
「看板……?」
私の背中へミィちゃんのダルそうなイケボがかけられた。
「そんなもんあったか?」と。
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