カンナと田舎とイケメンの夏。~子供に優しい神様のタタリ~

猫野コロ

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第6話 素直な若者カンナ。涼しくなってしまいそうなイケボ。

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「いま、頭にコツンってかたいものが……」

 私はそう答えながら、その場にしゃがんでみた。ぶつかったものが落ちているかと思ったのだ。うーん……。砂利道じゃりみちしか見えない。

 考えてみれば、まったく痛くなかった。きっと、すごく小さなものだったからだろう。砂利道で小さな落とし物を見つけるのはむずかしい。あきらめるしかなさそう。

 立ち上がり、待っていてくれた彼らと歩き出す。

「田舎ってたまに何か降ってくるよね」

 ベッカムくんは『あるよねぇ』みたいな感じでうなずいた。なんでもかんでも『田舎だから』ですませていいのだろうか。

「そう……ですかねぇ。『何か』ってなんですか?」

「えー。こっちにいるとたまにコツってぶつかるやつのことだって。ミィちゃんもあるよね? ヒョウみたいな。冷たいやつ」

「あるんじゃねーの」

 ミィちゃん名前あきらめたんですか?
 コイツに諦めさせんのがめんどくせぇ。
 諦める気はないけどめんどくせぇは言い過ぎだと思うんだよね。それよりヒョウとアラレの違いってなに?

 スマホ置いて来たんで答え分かったら教えてください。
 田中カンナ一ミリも考える気ないじゃん。ミィちゃん答え教えて。
 自分で調べろよ。

 木陰こかげというにはすずしくない森の中。私たちはとりとめのない会話をしながら、砂利道をダラダラと進んで行った。実は全員スマホを家に置いて来た、という事実を確認しつつ。



「わー。たきってはじめて見ました。小さくても感動しますねぇ」

 私は生まれて初めての滝に、言葉通り感動していた。
 ざぁざぁとドドドの中間みたいな音。キラキラな水飛沫みずしぶき。風でれる枝。葉のれるザァ――という音。植物の緑と湿しめった土のにおい。

 都会とかいでは感じられないかがやきみたいなものが、そこにはぎゅっとまっていた。
 とにかく田舎最高! って感じだ。

「若いっていいね。うん。いいと思うよ。ちゃんと感動を味わえるのは」

 イケメンベッカムが『若者と年長者』を比べるおじさんみたいなことを言い始めた。
 きみとは感じ方が違う……。みたいに。
 まさか、滝に不満でもあるのだろうか。この素晴らしい景色に。

「ミィちゃん、ベッカムくんが、こんなに素敵な滝にいいがかりを……」

「ああ。こいつに滝を見る資格しかくはねぇな」

「イヤイヤ。滝に文句があるわけじゃなくて。え? いいがかりつけられてるの俺じゃない? えーと、……なんていうかさぁ。ここまで歩いてきたわりに、すごい変化はないよね」

 ベッカムくんは当たりさわりのない言葉を探そうとして、けっこうそのまま言った。
 暑くて逃げてきたのにそんなにすずしくないといいたいのだろう。たぶん。

「でも家の前に立ってたときよりは涼しくないですか? ほら、見た目だけでも……あれ、あの看板って、もしかして滝の名前とか書いてあるんですかね」

 私はベッカムくんにこの滝の良さを伝えようとあたりを見回し、ちょっとボロい木の看板かんばんを発見した。ついでに、凄い伝説が書かれていたりしないだろうか。
 足元に気を付けながら、さっそく近付いてみる。

 小さな滝の周りは、ここへ来るまでの砂利道と違って、大きくてごつごつした石が多かった。いなかTシャツ、短パン、夏用の涼しいスニーカーという装備そうびでは心もとない。

 底が見えるくらい浅く見える川でも『カンナちゃん、夏の水場は気を付けなさいねぇ』とおばあちゃんから言われているのだ。そのあとにちょっとだけ怖い話が続いたけれど、今は思い出さない方がいいような気がする。

「看板……?」

 私の背中へミィちゃんのダルそうなイケボがかけられた。

「そんなもんあったか?」と。
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