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第7話 あやしい看板。消えかけの文字と真面目なイケメン。
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「ありますよー。ここに」
「ミィちゃん知ってると思うけど俺ホラー系ぜんぜん好きじゃないからそこんとこよろしくね」
私が振り向きながら看板を指すと、ほぼ同時にベッカムくんから早口の苦情が飛んだ。
『あるはずのないボロボロの看板が――』という何かを想像してしまったらしい。
ミィちゃんが来ていないあいだに立てられただけかもしれないのに、そんなに怯えられると私まで怖くなってしまう。
「ベッカムくん体温下げるのうまいですね」
「怖がり過ぎだろ」
ちょっとだけ涼しかったです、と私が言い、ミィちゃんはチラリと微妙に離れた場所にいるベッカムくんを見た。
文字を読んでみようとしたら、ちょっとびっくりするくらいかすれていて、ほとんど読めない。
『――た――は――し――しょう』
とりあえず、はっきり見える文字だけ音読してみる。
「えーと、『た、は、し、しょう』……ですね。かすれすぎてっていうか、他の文字は消えてて読めないです。うーん。『た』がひらがなだから、ひらがなで二文字……? まさか小さいのに『おおたき』とか?」
『た』の次の『は』の前も、二文字くらい抜けている。『し』の前も同じくらい、二文字分抜けているように見える。『し』と『しょう』のあいだだけ、隙間は一文字分だ。
私が「うーん。全然わからないですねー」と頭を悩ませていると、離れた場所から回答者ベッカムくんの声がした。
「間違いなく『タカハシショウ』でしょ」
「看板見てから言えよ」
ミィちゃんの鋭いツッコミには思わず同意してしまうけれど、私はベッカムくんのせいで困ったことになってしまった。
「『タカハシショウ』って言われたら、他の言葉がまったく浮かんでこなくなっちゃったんですけど」
私の苦情に、ベッカムくんは「えー」と言った。
そしてちょっとだけ嫌そうな顔をしたまま、こっちに歩いてくる。ようやく看板を見る気になったらしい。
「ああー、確かに『タカハシショウ』だと文字数が合わないかも……。っていうかさぁ、これ消えた部分が漢字だったらお手上げだよね。立てた人に『大体消えてました』って報告したほうがいいんじゃない?」
「えっ……。ベッカムくんが真面目な人みたいなことを……」
「ああ、コイツ学校では真面目なフリしてるからな」
「いやそこは『真面目なフリしてる』じゃなくて『コイツ学校でも真面目な優等生だからな』って答えるとこでしょ」
私は少しだけ驚いた。真面目な顔をしているベッカムくんは、ダルそうに畳に転がっていたときのベッカムくんの十倍くらいイケメンに見えた。
そもそも出会ったのが二時間前くらいだから、私がベッカムくんの何を知っているのかといえば、『何も知らない』と答えるしかないのだけれど。もしかしたら、学校ではアイドルみたいにキャーキャー騒がれてたりするのかな。
そちらも気になるといえば気になる。でも、私が解明したい謎はやはり、『かすれた看板にはなんと書かれているのか』ということ。
こういうのは、早めに正解を探すに限る。
そして『はー、なるほどー。スッキリした!』と笑顔で帰りたい。
「裏側とかって普通は何も書いてないですよねー」
と言いつつ、後ろに回りこむ。
「え?」
「『えっ』ってなに? 微妙に怖い感じ?」
「……何だこれ、矢印?」
「ミィちゃん知ってると思うけど俺ホラー系ぜんぜん好きじゃないからそこんとこよろしくね」
私が振り向きながら看板を指すと、ほぼ同時にベッカムくんから早口の苦情が飛んだ。
『あるはずのないボロボロの看板が――』という何かを想像してしまったらしい。
ミィちゃんが来ていないあいだに立てられただけかもしれないのに、そんなに怯えられると私まで怖くなってしまう。
「ベッカムくん体温下げるのうまいですね」
「怖がり過ぎだろ」
ちょっとだけ涼しかったです、と私が言い、ミィちゃんはチラリと微妙に離れた場所にいるベッカムくんを見た。
文字を読んでみようとしたら、ちょっとびっくりするくらいかすれていて、ほとんど読めない。
『――た――は――し――しょう』
とりあえず、はっきり見える文字だけ音読してみる。
「えーと、『た、は、し、しょう』……ですね。かすれすぎてっていうか、他の文字は消えてて読めないです。うーん。『た』がひらがなだから、ひらがなで二文字……? まさか小さいのに『おおたき』とか?」
『た』の次の『は』の前も、二文字くらい抜けている。『し』の前も同じくらい、二文字分抜けているように見える。『し』と『しょう』のあいだだけ、隙間は一文字分だ。
私が「うーん。全然わからないですねー」と頭を悩ませていると、離れた場所から回答者ベッカムくんの声がした。
「間違いなく『タカハシショウ』でしょ」
「看板見てから言えよ」
ミィちゃんの鋭いツッコミには思わず同意してしまうけれど、私はベッカムくんのせいで困ったことになってしまった。
「『タカハシショウ』って言われたら、他の言葉がまったく浮かんでこなくなっちゃったんですけど」
私の苦情に、ベッカムくんは「えー」と言った。
そしてちょっとだけ嫌そうな顔をしたまま、こっちに歩いてくる。ようやく看板を見る気になったらしい。
「ああー、確かに『タカハシショウ』だと文字数が合わないかも……。っていうかさぁ、これ消えた部分が漢字だったらお手上げだよね。立てた人に『大体消えてました』って報告したほうがいいんじゃない?」
「えっ……。ベッカムくんが真面目な人みたいなことを……」
「ああ、コイツ学校では真面目なフリしてるからな」
「いやそこは『真面目なフリしてる』じゃなくて『コイツ学校でも真面目な優等生だからな』って答えるとこでしょ」
私は少しだけ驚いた。真面目な顔をしているベッカムくんは、ダルそうに畳に転がっていたときのベッカムくんの十倍くらいイケメンに見えた。
そもそも出会ったのが二時間前くらいだから、私がベッカムくんの何を知っているのかといえば、『何も知らない』と答えるしかないのだけれど。もしかしたら、学校ではアイドルみたいにキャーキャー騒がれてたりするのかな。
そちらも気になるといえば気になる。でも、私が解明したい謎はやはり、『かすれた看板にはなんと書かれているのか』ということ。
こういうのは、早めに正解を探すに限る。
そして『はー、なるほどー。スッキリした!』と笑顔で帰りたい。
「裏側とかって普通は何も書いてないですよねー」
と言いつつ、後ろに回りこむ。
「え?」
「『えっ』ってなに? 微妙に怖い感じ?」
「……何だこれ、矢印?」
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