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緑LEDは点めつする(1)
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ただでさえ灰色の空は重く感じるのに、紫水晶の一件はさらにわたしの心に重くのしかかった。
「イチカ。気にする必要はない」
リュウジくんは何度もそう声をかけてくれるけれど、やっぱりどこかもやもやとしている。
「イチカ、これは有名税っていうやつだよ」
ガシャコンガシャコンとランドセルが音を立てる。
「有名税? 新しい税金? 小学生でも払うの??」
そんな税金の制度を聞いたことがない。
「ちがうちがう」
どことなくリュウジくんの声が、明るさをはらんでいるように聞こえた。そんなに面白いことを言ったのだろうか。わたしは、真面目に答えたつもりなのに。
むぅとくちびるをとがらせる。
「ごめんごめん。有名税は、お金を払う税金とはちがうよ」
いつものようにリュウジくんは落ち着いている。
「例えば、ほら。テレビに出るような有名人とか。ああいった人たちは、ボクたちの知らないところで嫌がらせとか、困ったこととかされることもあるんだよ。有名になるのと引き換えに、そういった問題を税金に例えて、有名税っていうんだ。まぁ、有名になることでいろんな人から注目されて、私生活を脅したり、いろいろ嫌がらせされたりするってことかな」
「うん。なんとなくわかった」
たまにお母さんが見ているワイドショーでは、俳優の誰々がどうのこうのと言っていて、その俳優が『申し訳ありませんでした』なんて、謝っていた。
別に、彼の生活は彼のものだから、わざわざワイドショーで言う必要があるのかなと思っていたのだけれど、それが『有名税』と呼ばれるものなのだろう。
リュウジくんの話を聞いて、すとんと胸のつかえがとれたような気がした。
「え、と。それで、その有名税がどうしたの?」
わたしとリュウジくんは、紫水晶の話をしていた。話をすれば気分がまぎれるかと思った。だけど、そうじゃなかった。
少しずつ不安の種が育っていき、芽を出そうとしている。それがふた葉になって本葉になって実ができたら。
そう考えるだけでも怖かった。
だけど、リュウジくんはそんなわたしの気持ちを察してくれたのだろう。だからこその『有名税』なのだ。
「だから、前も言ったと思うけれど。この世界のどこかに、国が立ち上げた『理科ばなれを阻止する政策』を嫌っている人間がいるんだ」
ガシャコン、ガシャコン――。
ランドセルの中のペンケースが音を立てている。
「つまり、こういった計画を阻止したいと思う人間がいるというのは、それだけこの政策が『有名』であり『重要』だからだよね」
それは、前回のうさぎのときにもリュウジくんが口にしていた。
「それだけ、ボクたちも注目を浴びる存在になってきたってことなんだよ。特設理科倶楽部としての活動は、月に一回だけ。だけどボクたちは、毎日理科室で好きなことをやっている」
「え、と。それって……」
「考えてみたんだけど。多分、月一回の理科倶楽部くらいの活動だけでは、理科ばなれが阻止できるとは思えないんだ。興味を持つ人はいると思うけれど」
それはわたしも思っていた。四年生と五年生は、楽しそうに実験に参加してくれるけれど、それは遊びの延長のような、そんな感覚に近いだろう。
山口先生は、それが理科を好きになる第一歩だとは言っていたけれど、理科倶楽部二年目になる五年生の中に、わたしたちのような『興味のある分野』を見つけられた人たちがいないのが、不思議だなと思っていた。
「山口先生が言うには、ボクたち六年生は豊作らしい」
「そうなの?」
「そりゃそうだよ。四年生のうちから理科倶楽部に入って、そしてこうやって自主的に学んでいる。国彩小学校なんて、一学年二クラスしかない小さな小学校だろ?」
多分、確率の話をしたら、その確率は高いにちがいない。
「でも、わたしたちは自分の好きなことをしているだけなのにね」
「イチカ。気にする必要はない」
リュウジくんは何度もそう声をかけてくれるけれど、やっぱりどこかもやもやとしている。
「イチカ、これは有名税っていうやつだよ」
ガシャコンガシャコンとランドセルが音を立てる。
「有名税? 新しい税金? 小学生でも払うの??」
そんな税金の制度を聞いたことがない。
「ちがうちがう」
どことなくリュウジくんの声が、明るさをはらんでいるように聞こえた。そんなに面白いことを言ったのだろうか。わたしは、真面目に答えたつもりなのに。
むぅとくちびるをとがらせる。
「ごめんごめん。有名税は、お金を払う税金とはちがうよ」
いつものようにリュウジくんは落ち着いている。
「例えば、ほら。テレビに出るような有名人とか。ああいった人たちは、ボクたちの知らないところで嫌がらせとか、困ったこととかされることもあるんだよ。有名になるのと引き換えに、そういった問題を税金に例えて、有名税っていうんだ。まぁ、有名になることでいろんな人から注目されて、私生活を脅したり、いろいろ嫌がらせされたりするってことかな」
「うん。なんとなくわかった」
たまにお母さんが見ているワイドショーでは、俳優の誰々がどうのこうのと言っていて、その俳優が『申し訳ありませんでした』なんて、謝っていた。
別に、彼の生活は彼のものだから、わざわざワイドショーで言う必要があるのかなと思っていたのだけれど、それが『有名税』と呼ばれるものなのだろう。
リュウジくんの話を聞いて、すとんと胸のつかえがとれたような気がした。
「え、と。それで、その有名税がどうしたの?」
わたしとリュウジくんは、紫水晶の話をしていた。話をすれば気分がまぎれるかと思った。だけど、そうじゃなかった。
少しずつ不安の種が育っていき、芽を出そうとしている。それがふた葉になって本葉になって実ができたら。
そう考えるだけでも怖かった。
だけど、リュウジくんはそんなわたしの気持ちを察してくれたのだろう。だからこその『有名税』なのだ。
「だから、前も言ったと思うけれど。この世界のどこかに、国が立ち上げた『理科ばなれを阻止する政策』を嫌っている人間がいるんだ」
ガシャコン、ガシャコン――。
ランドセルの中のペンケースが音を立てている。
「つまり、こういった計画を阻止したいと思う人間がいるというのは、それだけこの政策が『有名』であり『重要』だからだよね」
それは、前回のうさぎのときにもリュウジくんが口にしていた。
「それだけ、ボクたちも注目を浴びる存在になってきたってことなんだよ。特設理科倶楽部としての活動は、月に一回だけ。だけどボクたちは、毎日理科室で好きなことをやっている」
「え、と。それって……」
「考えてみたんだけど。多分、月一回の理科倶楽部くらいの活動だけでは、理科ばなれが阻止できるとは思えないんだ。興味を持つ人はいると思うけれど」
それはわたしも思っていた。四年生と五年生は、楽しそうに実験に参加してくれるけれど、それは遊びの延長のような、そんな感覚に近いだろう。
山口先生は、それが理科を好きになる第一歩だとは言っていたけれど、理科倶楽部二年目になる五年生の中に、わたしたちのような『興味のある分野』を見つけられた人たちがいないのが、不思議だなと思っていた。
「山口先生が言うには、ボクたち六年生は豊作らしい」
「そうなの?」
「そりゃそうだよ。四年生のうちから理科倶楽部に入って、そしてこうやって自主的に学んでいる。国彩小学校なんて、一学年二クラスしかない小さな小学校だろ?」
多分、確率の話をしたら、その確率は高いにちがいない。
「でも、わたしたちは自分の好きなことをしているだけなのにね」
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