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五話
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「はぁ……はぁ……」
「苦しいの?」
「平気……お兄ちゃんのだから、平気だよ」
僕の性器に密着してくるマユの膣内は温かい……いや、熱いくらいだった。ぴくぴくと脈打つマユの鼓動が僕に伝わってくる。
このとき、僕とマユはひとつだった。
「お兄ちゃん、マユ……ずっとこのままで居たいよ……」
「大丈夫、ずっとこのままだよ」
僕達はひとつになったままでじっと見詰め合う。
紅潮しているマユの頬、潤んだ瞳……破瓜の衝撃のためにマユは泣いていた。
「今日はここまでにしよう、ね?」
「うん…………」
僕はそっとマユを目を閉じる。
マユは泣き止まなかった。
……僕はいつのまにか眠っていた。
眠りの中でマユの夢を見た。
僕は、マユと一緒に公園で遊んだ。マユの小さな背中を押してあげると、低いブランコが大きく揺れる。
「アハハ! お兄ちゃん、もっと押して!」
僕は、マユに言われるままに、大きく大きくブランコを揺らしてあげる。
そのたびにマユは僕のもとから遠ざかり、また近づいてくる。
両脚をバタつかせて、楽しそうにしているマユ。僕は最後にもうひと押しする。
ブランコが高く上がって、マユの小さな背中がいっそう小さくなった。そして――
「お兄ちゃん、そろそろお家に帰ろうよ」という声が聞こえた。
振り向いたときのマユの顔は……。
……次の瞬間に僕は夢から覚めていた。
耳障りな音。真夜中のはずなのに、電話が鳴り響いているのだ。きっと間違い電話だろう、そう思った僕は布団を頭までかぶって無視を決め込もうとした。
しかし、相手のしつこさは僕の睡眠にかける情熱をはるかに上回り、とても無視出来そうではなかった。僕は眠い目をこすりながら受話器を取った。
「あ、エイジ!? アンタは、ほんとにいつかけても出ないんだから!」
「……なんだ、母さんかよ。こんな時間に何? 勉強だったらちゃんとしてるよ」
「何を言ってるのアンタは! 手紙を読んだでしょう!?」
「手紙……? 手紙って何?」
「……まあ、呆れて物も言えないよ……こんなときに、アンタって子は」
「ちょっとまってよ、手紙だろ……?」
受話器を置いて、僕は床に散らばったままになっている封筒をかき集めた。
よくよく見ると、中には見慣れない封筒がある。たぶん請求書と勘違いして、放りっぱなしになっていたのだろう。眠気を追い払いつつ封筒を開いた……。
……そこでようやく、僕はマユがいなくなっていることに気がついた。
「…………」
僕が手紙を読んでいる間も、受話器からは声が漏れてくる。
母さんが何を言いたいのかは分かっていた。
なぜなら手紙には……『アユ』が、僕の妹が交通事故に遭った。1人で公園で遊んだ帰り道、車に轢かれて意識不明の重態だと書いてあるからだ。
「……ちょっとエイジ、聞いてるの? アユがね、アユが……」
母さんは感情のまま、同じ言葉を何度も僕に伝えようとしている。
アユが息を引き取った。
僕が知らないでいるうちに、昨晩死んじゃったんだって……。
……電話を切った後も、僕はしばらく呆然と突っ立っていた。
辺り構わずぶっ壊してやりたかった。
だって、ついさっきまでマユはここにいたんだ。マユの暖かさは夢や幻なんかじゃなかったんだ……。
そうだ、きっとまた会えるはずだ。
2人で遊んだ公園でいつものように待ってる。そうしたら僕はマユを抱きしめて、絶対にその手を離したりはしないのに……。
涙が込み上げてきた。あのときのマユと同じ涙が。
……僕と妹がずっと幼かった頃。
日暮れの公園。棒っ切れで、アユが地面に名前を書いている。
僕がそれを覗き込むと、ちょっと首を傾げてアユが訪ねてきた。
――お兄ちゃん、わたしってマユなの、それともアユ?
――アユだろ……だけど、オマエが書いてるのはマユに見えるな。
――うん、じゃあマユでいいや。
「苦しいの?」
「平気……お兄ちゃんのだから、平気だよ」
僕の性器に密着してくるマユの膣内は温かい……いや、熱いくらいだった。ぴくぴくと脈打つマユの鼓動が僕に伝わってくる。
このとき、僕とマユはひとつだった。
「お兄ちゃん、マユ……ずっとこのままで居たいよ……」
「大丈夫、ずっとこのままだよ」
僕達はひとつになったままでじっと見詰め合う。
紅潮しているマユの頬、潤んだ瞳……破瓜の衝撃のためにマユは泣いていた。
「今日はここまでにしよう、ね?」
「うん…………」
僕はそっとマユを目を閉じる。
マユは泣き止まなかった。
……僕はいつのまにか眠っていた。
眠りの中でマユの夢を見た。
僕は、マユと一緒に公園で遊んだ。マユの小さな背中を押してあげると、低いブランコが大きく揺れる。
「アハハ! お兄ちゃん、もっと押して!」
僕は、マユに言われるままに、大きく大きくブランコを揺らしてあげる。
そのたびにマユは僕のもとから遠ざかり、また近づいてくる。
両脚をバタつかせて、楽しそうにしているマユ。僕は最後にもうひと押しする。
ブランコが高く上がって、マユの小さな背中がいっそう小さくなった。そして――
「お兄ちゃん、そろそろお家に帰ろうよ」という声が聞こえた。
振り向いたときのマユの顔は……。
……次の瞬間に僕は夢から覚めていた。
耳障りな音。真夜中のはずなのに、電話が鳴り響いているのだ。きっと間違い電話だろう、そう思った僕は布団を頭までかぶって無視を決め込もうとした。
しかし、相手のしつこさは僕の睡眠にかける情熱をはるかに上回り、とても無視出来そうではなかった。僕は眠い目をこすりながら受話器を取った。
「あ、エイジ!? アンタは、ほんとにいつかけても出ないんだから!」
「……なんだ、母さんかよ。こんな時間に何? 勉強だったらちゃんとしてるよ」
「何を言ってるのアンタは! 手紙を読んだでしょう!?」
「手紙……? 手紙って何?」
「……まあ、呆れて物も言えないよ……こんなときに、アンタって子は」
「ちょっとまってよ、手紙だろ……?」
受話器を置いて、僕は床に散らばったままになっている封筒をかき集めた。
よくよく見ると、中には見慣れない封筒がある。たぶん請求書と勘違いして、放りっぱなしになっていたのだろう。眠気を追い払いつつ封筒を開いた……。
……そこでようやく、僕はマユがいなくなっていることに気がついた。
「…………」
僕が手紙を読んでいる間も、受話器からは声が漏れてくる。
母さんが何を言いたいのかは分かっていた。
なぜなら手紙には……『アユ』が、僕の妹が交通事故に遭った。1人で公園で遊んだ帰り道、車に轢かれて意識不明の重態だと書いてあるからだ。
「……ちょっとエイジ、聞いてるの? アユがね、アユが……」
母さんは感情のまま、同じ言葉を何度も僕に伝えようとしている。
アユが息を引き取った。
僕が知らないでいるうちに、昨晩死んじゃったんだって……。
……電話を切った後も、僕はしばらく呆然と突っ立っていた。
辺り構わずぶっ壊してやりたかった。
だって、ついさっきまでマユはここにいたんだ。マユの暖かさは夢や幻なんかじゃなかったんだ……。
そうだ、きっとまた会えるはずだ。
2人で遊んだ公園でいつものように待ってる。そうしたら僕はマユを抱きしめて、絶対にその手を離したりはしないのに……。
涙が込み上げてきた。あのときのマユと同じ涙が。
……僕と妹がずっと幼かった頃。
日暮れの公園。棒っ切れで、アユが地面に名前を書いている。
僕がそれを覗き込むと、ちょっと首を傾げてアユが訪ねてきた。
――お兄ちゃん、わたしってマユなの、それともアユ?
――アユだろ……だけど、オマエが書いてるのはマユに見えるな。
――うん、じゃあマユでいいや。
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