悪役令嬢は鼻歌を歌う

さんごさん

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悪役令嬢2

なくならない憎しみ

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「あ…………」

 喉から意図せずに漏れる声と共に、私は足を止めた。

 視線の先には、見慣れた顔。
 黒い髪に碧い瞳の少女。

 半分は私と同じ血が流れているはずなのに、正反対の存在である彼女。

 私の異母妹のナリアが、そこにはいた。

 ここで遭遇するのは偶然だろう。
 朝食を取る時間なんて、そう変わるわけではない。

 実際、食事時に彼女と顔を合わせることは珍しいことではなく、その度に私は頭の中が真っ赤に染まるような感覚と共に、彼女を罵倒していた。

 別に彼女が悪かったわけではない。

 冷静になって考えて、そのことを私は分かってしまったから、今は少し気不味かった。

 本当はたぶん、ナリアに非がないことなんて、ずっと前から知っていた。

 それでも嫉妬を抑えることが出来なくて、罵倒を続けてしまったんだと思う。

 …………謝らなくちゃ。

 そう考えた私は、口を開いて言葉を発しようとするが、いつまでたっても喉から言葉が出て来なかった。

 間抜けに開いたままの口を、奥歯を噛み締めて無理やり閉じて、ナリアの存在を無視するように食堂に入る。

 ナリアは条件反射なのか、怯えたように身を竦ませていた。

 私が席に着くと、それを見届けるようにしてからナリアも反対側の席に座る。

 会話はない。

 ナリアは私と目が合わないように、視線を下げてテーブルを見ている。

 私はもう、ナリアを罵倒しようとは思わない。

 マリアがいてくれるから、きっちり割り切ることが出来るようになったのだ。

 私が父に愛されていないことを、受け入れることが出来るようになったのだ。

 だからもう、彼女を罵倒する理由はない。

 それでも……。

 それでも謝れないのは、嫉妬が、なくなったわけではないから。

 愛されないことを受け入れたからといって、愛されたくないわけではない。

 親に、唯一の父親に、愛してほしかった。

 私には母親がいないから、せめて父に、甘えてみたかった。

 ナリアに流れている血は、半分は私と同じなのに、全部持っているのが許せなかった。

 両親の愛に恵まれて育った彼女が、両親に愛されなかった私にはまだ、憎たらしかった。

 彼女が悪かったわけではないことを知っているから、もう罵倒をしようとは思わないけれど、謝ることだけは、私のプライドが許さなかった。

 なんて嫌な人間なのだろう。なんて意地悪な人間なんだろう。

 自己嫌悪に陥りそうになる。

 出された前菜を、てきぱきと食べる。

 さっさと食べて彼女との時間を終わりにしたかった。

 無言の食事が続く。

「……あの、お姉さま」

 ナリアから声を掛けられたのは、私が食事を終える直前だった。

 彼女から声を掛けてくるなんて珍しい。

 それもそうで、いつもは彼女の姿を見つける度に、私は彼女を怒鳴りつけていた。

 私から声を掛けないことがなかったので、彼女が声を掛けるタイミングもなかったのだろう。

「なにかしら?」

 意図せず、尖った声が出た。
 私はまだ、彼女が憎いのだ。

 マリアのおかげで苦しくはなくなったけれど、それですべてが解決したわけではない。

 私はまだ、浅ましくも、非のない妹を憎んでいる。

 私の声が尖っていたからか、ナリアは怯えたように黙り込んでしまった。

 少し待ってもナリアは口を開かなかったので、食事を終えた私は、さっさと席を立つことにした。

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