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執事
忠誠の在処
しおりを挟む父親に愛情を向けられない少女が、父親に愛情を向けられる妹を他人のように見続けるというのはどういう気持ちなのか。
不憫だし、健全でもないのでそれとなく旦那様に苦言を呈したことがある。
『何が悪い?』
旦那様には、親に甘えたい子供の気持ちは理解出来ないのだ。
理解出来ないのは何も、シルティーナお嬢様の気持ちだけではない。
シルティーナお嬢様には冷たいのに、自分にだけ愛情を注ぐ父親を見て、ナリアお嬢様も旦那様に壁を作っているように見えた。
賢い彼女は気づいてしまったのだろう。
旦那様の愛情が『娘』に向けられているのではなく、ナリアお嬢様の中にある『才能』にしか向けられていないことに。
けれど人の気持ちを理解出来ない旦那様は、壁を作られていることにすら気付かない。
シルティーナお嬢様に対する冷遇で心が離れているというのに、シルティーナお嬢様を冷遇するほどにナリアお嬢様から愛されると勘違いされているかのように、冷たくし続けた。
今回のこともそうだろう。
第三王子を婚約者にしたのは、旦那様なりのナリアお嬢様への献身なのだ。
王家から打診されたわけでもないのに、悪魔憑きの第三王子をシルティーナお嬢様に宛がう必要はない。
それをわざわざ、こちらから打診して成約させるなど、子供を持つ親としては、理解の出来ないことだった。
しかしこれについて、私は反対しなかった。
旦那様は、あわよくばシルティーナお嬢様が亡くなり、ナリアお嬢様が跡目を継ぐことを願っている。
その願いは、私の中にもあった。
私は旦那様のように、ナリアお嬢様を愛しているわけではない。
それでも、ナリアお嬢様に公爵家を継いでほしいという思いがある。
もちろんその理由は『才能』だ。
究極的な話し、私は旦那様に仕えているわけではない。
ナリアお嬢様に仕えているわけでも、シルティーナお嬢様に仕えているわけでもない。
ましてや隠居なされた大旦那様に仕えているわけでもない。
ならば何に仕えているかと言えば、『フェリエール公爵家』という、この家そのものに仕えているのだ。
私にとって大切なのは、この家が存続し、繁栄すること。
そのために必要なのは、有能な当主だ。
確かにシルティーナお嬢様は不憫だと思うが、それだけだ。
家督争いが起こることは避けなければならないが、混乱なくナリア様が当主になるのであれば、それが最もこの家にとって望ましい。
だから第三王子との婚約は、人としては非道だと思えたが、フェリエール公爵家に仕える執事として、同意することになった。
シルティーナお嬢様が、旦那様が思われているような無能でないことは私も知っている。
だが、中途半端に有能な人間と比べて、ナリアお嬢様の優秀さは眩しすぎるのだ。
ああ、もしかすると私も、ナリアお嬢様の『才能』に惚れてしまったのかもしれない。
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