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悪役令嬢4
少しずつ前向きに
しおりを挟む「午後から顔合わせだ」
父にそう言われて驚く。
またしても唐突な話だ。
王族を迎えるのが当日決まるなんて、おおよそ想像も出来ないので、たぶんこれも、父からの嫌がらせの一環なのだろう。
きっと父は知っていて、それでいて黙っていたのだ。
私は、本当に嫌われてるんだな……。
自嘲が浮かびそうになるのを堪えて、「分かりました」と執務室を後にする。
部屋から出ても、鼻にはまだ煙草の臭いがこびりついているかのようだ。
煙草臭いドレスを着て王族に会うわけにもいかないから、着替えもしなければならない。
着替えをするなら、髪や化粧もやり直しだろう。
せっかくマリアがやってくれたのに。
「お嬢様!」
執務室からある程度離れたところで、堪え切れないというようにマリアが叫んだ。
「どうかしたの?」と白々しく応えるしか出来ない。
マリアがなんで取り乱しているのか。なんで悔しそうな顔をしているのか。
私は知っているのに。
マリアが私を心配してくれていることは分かっているのに。
彼女の心に触れてしまえば泣き喚くことしか出来なくなりそうで、気づかない振りをする。
マリアを促して自室に戻ると、早速着替えをすることになった。
クローゼットにずらりと並ぶドレスから、どれを着るかを選ぶ。
第三王子、ロイド殿下にお目どおりするので、あまり質素なものではいけない。
婚約者としては初めて会うので、はしたなくない程度には女性としての魅力をアピールしなければならないだろう。
ドレスを選ぶ作業は、それだけでかなりの時間を潰せてしまいそうなほど楽しいのに、心には靄が掛かったようだった。
せっかく今日はいい日になりそうだったのに……。
マリアとの距離が近づいて、久しぶりに、気分の良い一日を過ごせるかもしれないと期待していたのに、その日の内にこんなことになるなんて思わなかった。
ううん、違う。
私は首を振って気分を切り替える。
いい日になりそうだった、で終わらせてはいけない。いい日にするんだ。
悪魔憑きのことがあるから、この婚約が良いものだとは思えないけれど、第三王子殿下自身のことを、私は知らない。
婚約自体をなかったことには出来ない以上、俯いていたって仕方ない。
「第三王子殿下に会うんだもの、物凄く派手にしてしまいましょう!」
私はポンと手を打ってそう言った。
俯き加減だったマリアは戸惑ったように顔を上げる。
「私の専属侍女は貴女しかいないのだもの。忙しくなるわよ」
私がそう促すと、暗い気分でいたくないという意図が伝わったのだろう、マリアは「はい」と明るく返事をして、支度を手伝ってくれた。
マリアとドレスを選んだり、髪型を考えたりする時間はとても楽しかった。
今の私はこんなことでも幸せを感じていられる。
昨日よりは確実に、前向きになれてる。
だからきっと、今回のことも乗り越えられる。
悪魔がなんだ。
そんなもの、今までの私の悪夢に比べれば痛くも痒くもない。
悪魔程度で絶望なんてしてやるものか。
悪魔なんかに、今日という日を、暗い思い出になんてさせない。
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