悪役令嬢は鼻歌を歌う

さんごさん

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悪役令嬢4

自己紹介

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 殿下を応接間に通し、しばらく歓談する。
 時候の挨拶の続きのような、実のない、取り留めのない話を父とレイチェルが繰り返す。

 今回の婚約に、政治的な意図はあまり含まれていない。
 もともと第三ということで重要な立場でない王子と、公爵家である我が家が縁を結ぶことに、少なくともフェリエール公爵家としては利益がない。

 王家との結びつきを強く出来ると言えばそうなのかもしれないが、悪魔憑きの殿下は王家の中でも立場が危うく、下手をすれば王家との縁が薄まる可能性すらあった。

 第三王子という駒では、政治的優位を作り出すことは難しいので、父と王子の話も自然と上滑りするような、取り留めないものになるのだ。

 平和と言えばそうなのだろうが、大貴族の当主と王家の人間が顔を合わせて、こんなにも政治的な話にならないのはいっそ不自然と思えるくらいだった。

 私とナリアはそれを眺めているだけで、口を挟むこともない。
 ナリアは何故か、殿下ではなく、私の方を見ている。

 それでいて目が合うと、怯えたように逸らしてしまうから、どういう心境なのかよく分からない。

 なるべく気にしないように、退屈な父たちの会話に耳を傾ける。

 父とレイチェルとの会話を卒なくこなす殿下はとても穏やかで、まだ十三歳の少年であるとは思えなかった。

 悪魔が憑いているようにも見えない。

「殿下に娘と婚約していただき、とても光栄です」

「こちらこそ、このような美しい女性と婚約を交わせて嬉しく思います」

 一通り世間話を終えると、父は本題である私との婚約に話を向けた。
 殿下はさらりと応える。

 さりげなく褒められた。
 褒められたけれど、嬉しくはない。

 女性を見たら美しいと褒めるのが貴族というものだ。王族だって同じだろう。
 褒められ慣れていると言ったら傲慢かもしれないけれど、褒め言葉が本心とは限らないことくらいは、私だって知っていた。

「それでは、我々は席を外しますので」

 そう言って二人きりにされた。
 二人きりと言っても、私の背後にはマリアが控えているし、王子殿下の後ろにも、使用人の男性が控えている。

 もっと言えば、他にも公爵家のメイドたちが、応接のために何人も控えている。

 けれど彼女たちは、私と殿下の世話をするためにここにいるだけなので、この場合は二人きり、という表現は間違っていない。

「改めて名乗ろう。私はロイドという」

 殿下は座ったまま名乗った。

「シルティーナと申します」

 仰々しい礼は必要ないということなのだろうと、私も座ったまま応える。
 殿下が家名を名乗らなかったので、私も同じように名乗る。

 殿下の家名は国の名前と同じく『ルインクルード』なので、名乗るまでもなく知ってはいたが、知っているから名乗らなくてもいいというものではない。

 礼儀を求める場では必ず名乗らなければならず、家名を名乗らないということは、ある程度気安くて良いという意思表示になるのだ。

 婚約者同士で堅苦しいのも、周囲に不仲という印象を与えてしまうので、最初からある程度気安い関係を演出しておきたいのだろう。

「私のことはロイドと呼んでくれていい」

「では、私のこともシルティーナと」

 呼び方も気安いものになった。
 とは言っても、さすがに王子殿下をロイド、と呼び捨てにするわけにはいかないので、ロイド様と呼ぶことになる。
 ロイド様の方は、呼び捨てか、嬢を付けて呼ぶことになるだろう。


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