27 / 42
男爵令息
練習試合
しおりを挟む「お兄ちゃん、勝負しよう」とシェリルが言った。
珍しい、と俺は思う。
あれからシェリルは、吹っ切れたように剣を握っていた。
もちろん、父親に見つかると怒られるので、いない時にこっそりとではあったが。
それでも、彼女はあくまでも俺の練習に付き合っているだけで、自分から剣を握っているわけではないというスタンスを崩してはいなかった。
それなのに今日は、堂々と『勝負』という言葉を使った。
何か心境の変化でもあったのか。
表情を伺っても、いつも通りの笑顔を見せるだけだ。
どこか腑に落ちないものを感じながらも、俺は頷いた。
剣を構えて向かい合う。
剣士としての妹は強い。
幼い頃から剣を握って来たので技術面はもちろんだが、才能も飛びぬけている。
剣士の家系であるアルビオルの血、と言ってしまいたいところだが、実際には彼女はイレギュラーだ。
シェリルはアルビオルの血統では珍しく、魔法の才能を持っていた。
魔法の才能と言っても大したものではないらしく、魔法使いとして食っていくことが出来るほどのものではないとのことだ。
ただ、身体強化が出来るので、単純な打ち合いなら俺を凌駕するほどだ。
魔法の制御は難しいので、普通に剣術をするようには使えないそうだが、打ち込みの瞬間や、鍔迫り合いのタイミングで身体強化を使われるとかなり厄介だ。
向き合うと即座にシェリルが仕掛けてくる。
始まりの合図などない。
俺はシェリルの剣を避けながら、少しずつ下がる。
下がらなければ当たってしまう。
下がり続ければ壁に当たってしまうので、捌けそうなものだけ受け流す。
ただ、その度に押し込まれるような感覚を味わう。
相変わらず凄い力だ。
俺は身体がでかい。
でかい分、力も強いのだが、それでも押し負ける。
これでシェリルがゴリラみたいな身体をしてるってなら納得も出来るのだが、彼女の見た目はどこにでもいる十三歳の少女だ。
俺の身体のでかさは親父からの遺伝だが、妹は平均より少し高い程度の身長しか受け継いでいない。
壁際に追い込まれる。
シェリルの太刀には、いつになく気合いが入っているような気がした。
俺に負けたら罰ゲームでもあるのか?
俺がいつもの練習試合としか捉えていないこの戦いに、シェリルは真剣勝負の決意を持って臨んでいる。
そんな感じがした。
だからって負けてやるわけにはいかない。
俺は剣士だ。
良くも悪くも、俺には剣しかない。
負けなければ妹が死ぬとかいうならさすがに練習試合くらいは負けてやるが、そうでないなら嘘は付けない。
壁際に追い込んだことで欲が出たのだろう、シェリルが溜めを作る。
溜めを作ること自体は悪いことでもないが、状況による。
態勢も崩れていないのに強撃を放つ溜めを許してやるほど、俺は甘くない。
一歩足を踏み出す。
間合いをずらしながら、シェリルの剣の根元に打ち込む。
シェリルにとっては態勢も不十分、振り始めた剣の根元で起こる鍔迫り合いは、身体強化を使ったとて踏みとどまれるものではない。
バランスを崩した妹が必死に下がろうとするところにもう一歩踏み込み、溜めを作って強撃を放つ。
カン!
乾いた音を立てて妹の剣が手から滑り落ちた。
ピタリと、胴体の手前に剣を持って行けば、俺の勝利が確定した。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
逆ハーレムを完成させた男爵令嬢は死ぬまで皆に可愛がられる(※ただし本人が幸せかは不明である)
ラララキヲ
恋愛
平民生まれだが父が男爵だったので母親が死んでから男爵家に迎え入れられたメロディーは、男爵令嬢として貴族の通う学園へと入学した。
そこでメロディーは第一王子とその側近候補の令息三人と出会う。4人には婚約者が居たが、4人全員がメロディーを可愛がってくれて、メロディーもそれを喜んだ。
メロディーは4人の男性を同時に愛した。そしてその4人の男性からも同じ様に愛された。
しかし相手には婚約者が居る。この関係は卒業までだと悲しむメロディーに男たちは寄り添い「大丈夫だ」と言ってくれる。
そして学園の卒業式。
第一王子たちは自分の婚約者に婚約破棄を突き付ける。
そしてメロディーは愛する4人の男たちに愛されて……──
※話全体通して『ざまぁ』の話です(笑)
※乙女ゲームの様な世界観ですが転生者はいません。
※性行為を仄めかす表現があります(が、行為そのものの表現はありません)
※バイセクシャルが居るので醸(カモ)されるのも嫌な方は注意。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる