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男爵令息
恋愛ってなんだ?
しおりを挟む今日のようなパーティは、いかに時間を潰すか。
俺にとってはそれが全てで、出席自体が無駄だと思っている。
それでも出席しないとならないのは、付き合いのある貴族の誕生パーティだからで、ここで不義理をしても良いことはない。
ただ、そんな無駄な時間の中でも小さな楽しみというものがある。
食事だ。
立食式の、絢爛豪華な食事は、貧乏男爵家の俺にとっては滅多に食べられない御馳走だ。
鴨肉など、こういう場でしか食えない。
「あまりがっつくと女性に嫌われるよ」
ルーランが果実水を飲みながら肩を竦める。
「どうせ誰も寄ってこない」
「そういう小さな積み重ねが、女性を遠ざけるんだよ」
「どうだかな」
一度身体がでかいだけで避けられる気分を味わってみれば良い。
女に媚びようなんて気分は一瞬でなくなるだろう。
女に媚びて何も得られないなら、女に媚びないで好きなだけ鴨肉を食べた方が良い。
「フレイは顔は悪くないんだから、紳士になれば好かれるんじゃないかな」
「俺は十分に紳士だ」
「顔が怖い」
「顔は悪くないんじゃなかったのか?」
生まれつきこういう顔なんだ。
好きで怖くなったわけじゃない。
「そういうお前はどうなんだよ。真実の愛とやらは……ルーラン?」
真実の愛、などと言いながら、多数の女と交友関係を広げているだけにしか見えないルーランをからかってやろうと口を開くが、言葉を途中で止める。
様子がおかしかったからだ。
果実水の入ったグラスを持ったまま、目を見開いて固まっている。
そちらに視線を向けると、一人の少女がこちらに向かって歩いて来るところだった。
「…………天使だ」
ルーランが呟く。
そう簡単に天使は降りてこないことを懇切丁寧に説明してやろうかとも思ったが、それどころではない。
おい、待て。
おい、まさかお前……。
「お兄ちゃん!」
そう言って手を振る妹が、早足に俺の方へと歩いて来る。
シェリルが俺に向かって歩いて来る道を遮るように、ルーランが前に出る。
道を塞がれて戸惑った様子のシェリル。
それに気付いてか気付かずか、ルーランはマイペースに話しだす。
「お初にお目に掛かります、レディ」
そう言って軽く手を振ると、その手の中には一輪の薔薇が現れる。
簡単な手品だが、ルーランがこの手品のためにあちこちに薔薇の造花を仕込んでいるのを知っているので、俺は冷めた目で見ていた。
「私はルーラン・トリトリンデと申します。お名前を伺っても?」
「え? あ、うん。シェリル・アルビオルです」
「シェリル様と仰られるのですか。何と可憐な響きだ」
どこか恍惚とした表情で、ルーランはシェリルに薔薇を握らせる。
というか、アルビオルを名乗っている時点で、シェリルが俺の妹だということには気づいてるんだよな、こいつ?
「無粋な質問で申し訳ないが、シェリル嬢に婚約者は?」
「え? いない……けど……」
まだ振られたばかりで傷が癒えていないのだろう、シェリルの表情に翳が落ちる。
ただ、次の瞬間にはその表情が驚愕に変わっていた。
ルーランがシェリルの前に跪いたからだ。
会場中の注目を一身に集めている。
ルーランは妹の手を取って、見上げながら言う。
「では、私と婚約してはいただけませんか?」
俺とルーランはそれなりに親しいが、シェリルとは初対面のはずだった。
初対面で、よくそこまで出来るな。
唐突な婚約申込みに、妹は戸惑ったような表情を浮かべている。
目を泳がせて、徐々に頬が赤くなる。
なんだその、まんざらでもない様子は。
「貴女のような天使を、他の男に渡したくない」
歯の浮くようなセリフに、妹の顔が真っ赤に染まった。
「す、少し考えさせてください」
真っ赤に染まった頬を両手で挟んで、逃げるように去っていく妹。
この場合の『考えさせてください』は前向きにってことだよな?
前の男は、もういいのか?
分からない。
恋愛ってなんだ?
一つだけ分かることがある。
妹の男の趣味は、壊滅的に悪いってことだ。
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