悪役令嬢は鼻歌を歌う

さんごさん

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ヒロイン2

自信

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『入学式は先生の話が長かった記憶しかない』

 そう言ったのは知り合いの男爵令嬢だ。

 私のような下級貴族でも、パーティや茶会に出る機会はちらほらあって、そこで知り合ったのが五つ年上のサラ・ミシュリーという名前の男爵令嬢だった。

 男爵家の嫡男と結婚したから、次期男爵夫人といった方が正しいかもしれない。

 彼女はこの、ルインクルード王立学園の卒業生だ。
 今年から私はこの学園に通うことになったので、彼女に学園についていろいろと聞いておいた。

 入学式の印象は、とにかく先生たちの話が長くて中身がないということだった。

 中身がないかどうかはともかく、長いのは間違っていなかった。

 それに、眠たくなる。
 長い話は眠たくなる。

 生徒たちは退屈を持て余したのか、ひそひそと、近くの席の人と小声で雑談をしている。
 誰も先生の話なんて聞いてない。

 こんなことならもうちょっと猫ちゃんと遊んでいれば良かった、なんて、そんなことを少し考えてしまう。

 だから私も、眠ってしまわないように、隣の男の子に話しかけてみることにした。

「私はリコリス・ウルシアっていうの。よろしくね」

「…………フレイ・アルビオルだ」

 フレイは、戸惑ったような顔をしながら応えた。

「身長、何センチあるの?」

「前に測った時は195だったな」

「まだ、伸びるのかな?」

「どうだろうな、これ以上伸びても困るが」

 ぶっきらぼうな口調だったけれど、話し掛けるとちゃんと応えてくれる。

 確かに、フレイの身長がこれ以上伸びたら、体育館の屋根を突き破ってしまうかもしれない。
 フレイが屋根を突き破って暴れまわるのを想像すると、ちょっと楽しかった。

 私が視線を天井に向けていたからだろう、「いくらなんでもそこまでは伸びねぇよ」と呆れたような口調で言われる。

 確かにそれは、人間を超えているかもしれない。

「何かスポーツやってるの?」

 身体が大きい人はスポーツをやっているイメージがある。
 偏見だろうか。

 けどフレイの場合は筋肉質な体つきをしているから、鍛えてはいるのだろう。

「ああ、家が剣術道場をやってるんだ。俺も子供の頃から習ってる」

「ほへぇ……」

 貴族の男子が剣術を学んでいる割合は高い。
 剣術は貴族の嗜みだ。

 でも、家が剣術道場をやっている貴族家はさすがに少ないだろう。

 きっと強いのだろうと想像する。
 おっきいし。

「強いの?」

「…………自信はある」

「すごいね」

「本当に強いかは分からないけどな。道場では強かったが、井の中の蛙かもしれない」

「ううん、そうじゃない」

 実際に彼が強いかどうかっていうのは大事なことなんだろうけど、それ以上に私が凄いと思うのは……。

「自分の得意な事に、自信があるって言い切れるのって、すごいなって」

 自信があるって言い切れるのは、きっと大切なことだ。

 私が得意なことなんて、絵を描くことぐらいだけど、それだって自信があるかって言われたら、たぶん言い切れない。
 私より絵が上手な人なんてたくさんいるから、当然と言えば当然なんだけど、それだけじゃない。

 誰かより劣ってたって、自分はこれが良いんだって自信を持って言える人はいる。

 フレイはきっと、それだけの努力を積み重ねて来たんだ。

 きっとそれは、私が趣味で絵を描くのとは、比べ物にならないほどの、血の滲むような努力を。

 たまに根拠もないのに自信を持ってる人もいるけど、フレイの持つ雰囲気は、そういう人とは違う。

 少し、羨ましい。

 自分の一番得意なことを、自信があると言い切れるのが。

 いつか私にもそういう物が出来るのだろうか。
 今の私にはそこまで打ち込めるものはないから、とりあえず絵の練習をもうちょっと頑張ってみよう。

 フレイの自信は、私のやる気を後押ししてくれた。

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