悪役令嬢は鼻歌を歌う

さんごさん

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ヒロイン2

頭痛?

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「リコリス・ウルシアさんは少し残ってください」

 入学式が終わり、フレイと共に体育館を出ようとしたところで呼び止められた。

 呼び止めたのは、体育館に入る時に席を教えてくれた先生だ。
 お団子頭で、眼鏡を掛けた、四十手前の女性。

 口調が厳格で、少しだけ怖い。

「な、なんですか?」

 みんなが体育館から出て行くのを、体育館の隅に連れて来られて眺める。

 楽しそうな顔をして出ていくみんなに、先生に連行される私。

 私もあちらに混ざりたいと思うのに、怖い顔をした先生がそれを許してくれない。

 澄ました顔をしていて、表情の変化が乏しいのに、淡々とした口調のせいか、話していると怒られているように感じる。

 怯えながら用件を訊ねると……。

「貴女は遅刻して来ましたね?」

「は、はい……その、すみません」

「謝って済む問題ではありません。幸いにも気づいた生徒はあまりいないようでしたが、入学式に遅刻してくるなど、どれだけ非常識なことをしているのか自覚はありますか? 男爵令嬢のあなたはこの学園では最下位の身分です。下手に見咎められれば、嫌がらせを受けることもあるのですよ? 私たち教師は出来る限りの手を尽くしますが、それでも上位貴族の横暴を止め切れるかというと不安が残ります。入学式に遅刻などして、悪目立ちしていたら三年間ずっと無視や嫌がらせをされ続けたかもしれないのですよ? そもそも……」

 捲し立てるようにお叱りを受ける。

 怒られているように感じるのではなく、実際に怒られているようだった。

 私は「はい。はい」と何度も頷いてその言葉を受け止める。

 この先生は私の教育係でもあるアルティナよりも厳しいかもしれない。

「ここはあなたの住んでいた領地とは違います。上位貴族との付き合い方は自分で考えてください。しっかりと世渡りをしなければ、傷つくのはあなたなのです」

 延々と叱られ続け、半ベソを掻きながら説教が終わる。
 体育館にはもう他の人の姿はなかった。

 先生の言葉はもっともで、反論も出てこない。
 根本的には遅刻した私に対し、『遅刻はいけない』と言ってるだけなのだから、反論出来るはずもないのだ。

 落ち込みながら体育館を出て、校舎に向かう。
 校舎と体育館は離れた位置にあるので、上履きと外履きを履き替えないとならない。

 少し面倒に感じながらも靴を履き替える。
 下駄箱には私の靴だけぽつりと、寂しそうに残されていた。

 校舎に向かって歩き、再び下駄箱で靴を履き替えると、壁に張り出されているクラス分けを確認する。
 クラスはA、B、Cに分かれていて、私はCクラスだ。

 このクラス分けは、特に成績や爵位で分けられているわけではないようで、Cクラスだからと言って私の成績が悪いわけではない。
 たぶん。

 この学園には八十年の歴史があるが、とてもそうは思えないほどピカピカに磨き上げられたフローリングを歩み、一年のCクラスに向かって歩く。

 一階が一年生、二階が二年生、三階が三年生と、分かり易く分けられているようだ。
 教室は手前からA、B、Cと並んでいて、Cクラスは一番奥になる。

 すでにみんな教室に入ったのだろう、人気のない廊下を歩いていると、ふと、一人の少年が蹲っているのが見えた。

 どうしたのだろう?

 見えるのは後姿だが、こちらからでは何をしているのか分からない。
 彼の近くまでたどり着いて、そっと前方を覗き込んでも、特に何かをするでもなく、涙目で頭を押さえているだけだ。

「大丈夫……?」

 具合でも悪いのかと思って声を掛けると、「だだ、大丈夫に決まってるだろっ!」拗ねたように顔を背ける。

 慌てたように立ち上がった姿を見て驚く。
 蹲っている姿でも小柄なのは分かっていたが、思っていた以上に小さかった。

 私の身長は百六十センチちょうどだけど、彼は私より十センチくらい小さい。
 顔立ちも幼くて、年下に見える。

 私は一年生だから、私より年下の子がこの学園にいるはずがないのだけれど。

「どうしたの……?」

 頭が痛いのだろうか?

 まさか頭を叩かれて背が縮んだわけでもないと思うけど……。

「どうもしねぇよ! 危ない目に遭いたくなければ、金輪際俺様に関わるんじゃねぇぞっ!」

 ビシッと右手の人差し指を突き付けてくる。
 左手で頭を押さえたままだというのが恰好が付かない。

「う、うん」

 首を傾げながら返事をする。

 彼は頭を押さえたまま、ガニ股で歩きだす。
 頭以外に足も怪我していたのかもしれない。

 本当に大丈夫だろうか。

 彼はそのままCクラスの教室に入って行く。
 同じクラスらしい。

 私もその背を追いかけるようにして教室に入ると、すでに席は埋まっていて、一つだけ机が余っている。

 余っている席に向かうと、『リコリス・ウルシア』という張り紙がしてあって、これが私の席なのだと分かる。

 このクラスは私を含めて十五人だろうか。

 横五列、縦三列の一番左の最後列。
 窓際が私の席だった。

 席につき、ちらりと隣を見る。
 さっきのちっちゃい子がいた。

 彼も唖然としたようにこちらを見ていて、「また会ったね」と手を振ったら、「うるせぇ!」と顔を真っ赤にして叫んだ。


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