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悪役令嬢6
婚約者との関係
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私が妹に嫉妬することも、父の愛情を求めることもやめてから一年と半年が経った。
いつの間にか背も伸びて、以前はマリアの首ほどまでしかなかった身長も、彼女と同じか、少し追い越したかもしれない。
私の成長期は、他人より少し遅かったようだ。
心境の変化が、身体にまで影響を及ぼしたようでもあった。
あの日から、私の人生は大きく変わった。
規則正しい生活を送り、ちょっとしたことに幸せを感じられるようになって、傍にマリアがいてくれるから、自分を悲観しなくて良くなった。
悪魔憑きの婚約者は、悪魔が憑いているという不安を除けば優しくて、穏やかで、一緒にいて苦痛じゃない人だったので、彼の婚約者になったことを、不幸だと思わずに済んだ。
だからだろうか、家にいることがとても、窮屈に感じられるようになった。
相変わらず妹にばかり愛情を注ぐ父を見るのも、私をいない物として扱う義母も、いまだに私に怯えている妹も。
以前は辛かったそれらを、ただ、居心地が悪いと感じるだけになった。
家族だと考えていた彼らを、他人だと思ってしまえば自分だけ愛されないことを苦痛に思うことはなくなったけれど、他人の家で、他人の家族がべたべたしているのを見せつけられているような、何とも言えない居心地の悪さだけが残った。
だから、こうして家を離れ、学園の寮に入ることが、どこか清々しくて、穏やかな春の風が吹き抜けるのも、心地よく感じられる。
もしも私が一人だったら、初めて家を離れて暮らすことに不安もあったのだろうけれど、ここにはマリアが一緒だから。
たった一人しか使用人を連れていけないというルールがあるみたいだけれど、私にとってはマリアがいれば、それで十分だ。
マリアは荷物を持って、寮の私の部屋の整理に向かってしまったので、入学式には一人で出席した。
指定された最前列の席で入学式を眺める。
途中、婚約者が新入生代表として挨拶をしていた。
たまに王族に現れる珍しい銀髪と銀の瞳はいつ見ても美しいけれど、その奥に潜む影のような物が、いつも気になる。
もう、婚約してから一年半にもなるのに、ロイド様の瞳から、影が消えることはなかった。
そのせいなのか、彼はどこか一線を引いているようで、私と彼の関係は、婚約者というにはあまりにも、他人行儀なまま、今日までを過ごしてしまった。
もう少し近づいた方がいいのだろうか。
何度もそう考えたけれど、今まで他人と上手く関係を築けたことがなかったので、どうやって歩み寄れば良いのか、私には分からなかった。
あれから何度か一緒に出かけたりもしたけれど、そこには見えない壁があるようで、踏みこむことを拒絶されているようにすら感じた。
私は、嫌われているのかもしれない。
いつも紳士で優しい人だから口に出さないだけで、本当は私との関係なんて、彼にとっては迷惑なのかもしれない。
それでも私たちは、自分の意志で婚約を解消することが出来ないのだから、いずれ夫婦になるものとして、もう少し親しくなれたら嬉しい。
それともロイド様は、仮面夫婦のような関係を望んでいるのだろうか。
それだったら少し寂しいけれど、仕方ないのだろう。
私には、彼に愛されるだけの魅力がないのだから。
いつの間にか背も伸びて、以前はマリアの首ほどまでしかなかった身長も、彼女と同じか、少し追い越したかもしれない。
私の成長期は、他人より少し遅かったようだ。
心境の変化が、身体にまで影響を及ぼしたようでもあった。
あの日から、私の人生は大きく変わった。
規則正しい生活を送り、ちょっとしたことに幸せを感じられるようになって、傍にマリアがいてくれるから、自分を悲観しなくて良くなった。
悪魔憑きの婚約者は、悪魔が憑いているという不安を除けば優しくて、穏やかで、一緒にいて苦痛じゃない人だったので、彼の婚約者になったことを、不幸だと思わずに済んだ。
だからだろうか、家にいることがとても、窮屈に感じられるようになった。
相変わらず妹にばかり愛情を注ぐ父を見るのも、私をいない物として扱う義母も、いまだに私に怯えている妹も。
以前は辛かったそれらを、ただ、居心地が悪いと感じるだけになった。
家族だと考えていた彼らを、他人だと思ってしまえば自分だけ愛されないことを苦痛に思うことはなくなったけれど、他人の家で、他人の家族がべたべたしているのを見せつけられているような、何とも言えない居心地の悪さだけが残った。
だから、こうして家を離れ、学園の寮に入ることが、どこか清々しくて、穏やかな春の風が吹き抜けるのも、心地よく感じられる。
もしも私が一人だったら、初めて家を離れて暮らすことに不安もあったのだろうけれど、ここにはマリアが一緒だから。
たった一人しか使用人を連れていけないというルールがあるみたいだけれど、私にとってはマリアがいれば、それで十分だ。
マリアは荷物を持って、寮の私の部屋の整理に向かってしまったので、入学式には一人で出席した。
指定された最前列の席で入学式を眺める。
途中、婚約者が新入生代表として挨拶をしていた。
たまに王族に現れる珍しい銀髪と銀の瞳はいつ見ても美しいけれど、その奥に潜む影のような物が、いつも気になる。
もう、婚約してから一年半にもなるのに、ロイド様の瞳から、影が消えることはなかった。
そのせいなのか、彼はどこか一線を引いているようで、私と彼の関係は、婚約者というにはあまりにも、他人行儀なまま、今日までを過ごしてしまった。
もう少し近づいた方がいいのだろうか。
何度もそう考えたけれど、今まで他人と上手く関係を築けたことがなかったので、どうやって歩み寄れば良いのか、私には分からなかった。
あれから何度か一緒に出かけたりもしたけれど、そこには見えない壁があるようで、踏みこむことを拒絶されているようにすら感じた。
私は、嫌われているのかもしれない。
いつも紳士で優しい人だから口に出さないだけで、本当は私との関係なんて、彼にとっては迷惑なのかもしれない。
それでも私たちは、自分の意志で婚約を解消することが出来ないのだから、いずれ夫婦になるものとして、もう少し親しくなれたら嬉しい。
それともロイド様は、仮面夫婦のような関係を望んでいるのだろうか。
それだったら少し寂しいけれど、仕方ないのだろう。
私には、彼に愛されるだけの魅力がないのだから。
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