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「いかがでしょう。まずはこの美しさをご覧ください」
カウンターに並べられた華やかな異国の品々を前に、ターニャは興味を隠すことも忘れ熱心に見入っていた。
「こちらは?」
「そちらはブレスレットでございます。何でもこれを付けるだけで、異性からのお誘いが格段に増えるのだとか」
「……なら、こちらはどう?」
「異性の気を引くことができる香水です。香りはもちろんのこと、瓶の細工がとても素敵でして。お試しになりますか」
「えぇ……」
興味は人を素直にする。
目の前でそれが証明されるこの時が、ラゴールにとって最高の瞬間だ。
本心を上手に隠し飾り立てるばかりの貴族達が、自らの欲の片鱗を見つけた途端、手に入れるがために我を忘れる。
人とは元来こんなにも自由なものなのだと、その事実を目の当たりにすることで、ラゴールはこの上なく歓喜するのだ。
「思ったより爽やかなのね。もう少し甘いのかと思ったわ」
「分かりやすく誘う香りは飽きやすいものですから。それに付ける人によって変わりますし」
軽くひと吹き手首に馴染ませてから、ラゴールはそっと自分の手をターニャの前に差し出す。
「ほら、私の香りと相まって変化したでしょう?」
「確かに……こちらの方が落ち着いて心地良いわ」
「ならば、私が貴女様に気に入っていただけているということかもしれませんね」
「ラゴール!」
自分の狙い通りあっさりと心を乱すターニャの言動は、はっきり言ってラゴールにとって面白みが薄い。
他人にあっさりと見抜かれてしまう恋心。
身の丈にそぐわないと理解できない経験の無さ。
そして、何よりラゴールを信じ簡単に店に足を踏み入れるその純粋さ。
どれを取っても彼にとっては赤子をあやすより容易だろう。
だが、日々汚い腹の探り合いに付き合わされるラゴールにとっては、何も考えず揶揄う相手というのはひどく貴重なのかもしれない。
「お待たせいたしました。香水も先ほどの髪飾りと一緒にお包みさせていただきました」
「ありがとう」
「ご紹介したい品がまだまだございますので、ぜひまたお越しくださいませ」
「気が向いたら来るわ」
そう一言だけ言い残し店を後にするターニャ。
だが、ドアが閉まる間際に見せた彼女のご満悦な笑顔に、ラゴールは堪えきれずお腹を抱えた。
「……ったく、先が思いやられる。ターニャ様は私に一体いくら貢がれるおつもりかな」
辛辣なその言葉とは裏腹に、店にはラゴールのひどく嬉しそうな笑い声が響いていた。
「なんだ、あんたでも声を上げて笑うことなんてあるんだな」
ギシリと悲痛な音で床が軋む。
そこには男が一人、何の感情も見せぬまま立っていた。
「これはこれは、お久しぶりでございます。もう別の商人に心変わりされたのかと、このラゴール悲しみにくれておりました」
「心にもないことを言うな。こんな物を買い取るのは貴方くらいしかいないのに」
「確かに。御令嬢方からの贈り物を金に換えるなど、私以外の商人なら躊躇するでしょう……ましてや、お相手がレオナルド様ともなればね」
そんな嫌味にも眉一つ動かすことなく、公爵家の嫡男は乱暴に包みをカウンターに投げた。
「無駄口はいい。早く仕事したらどうだ」
「これは失礼……今回はタイピンですか。これはまた見事に全て同じデザインでございますね」
「無用な争いを避けるためだ。こうすれば手元に一つ残しておくだけで、どの御令嬢も自分が贈ったものだと喜ぶだろう?」
「なるほど。さすがはレオナルド様といったところでしょうか」
ラゴールが微笑みかけると、彼は分かりやすく顔を歪め舌打ちをする。
「お前が言うと盛大な嫌味にしか聞こえんがな……ん? なんだこのやけに鼻につく香りは」
「おや、お気に召しませんでしたか? それは申し訳ございません。少々問題が起こりましてね」
「問題?」
「虫除けでございますよ。入り込んだ悪い虫が可憐な花を手折らないように……」
カウンターに並べられた華やかな異国の品々を前に、ターニャは興味を隠すことも忘れ熱心に見入っていた。
「こちらは?」
「そちらはブレスレットでございます。何でもこれを付けるだけで、異性からのお誘いが格段に増えるのだとか」
「……なら、こちらはどう?」
「異性の気を引くことができる香水です。香りはもちろんのこと、瓶の細工がとても素敵でして。お試しになりますか」
「えぇ……」
興味は人を素直にする。
目の前でそれが証明されるこの時が、ラゴールにとって最高の瞬間だ。
本心を上手に隠し飾り立てるばかりの貴族達が、自らの欲の片鱗を見つけた途端、手に入れるがために我を忘れる。
人とは元来こんなにも自由なものなのだと、その事実を目の当たりにすることで、ラゴールはこの上なく歓喜するのだ。
「思ったより爽やかなのね。もう少し甘いのかと思ったわ」
「分かりやすく誘う香りは飽きやすいものですから。それに付ける人によって変わりますし」
軽くひと吹き手首に馴染ませてから、ラゴールはそっと自分の手をターニャの前に差し出す。
「ほら、私の香りと相まって変化したでしょう?」
「確かに……こちらの方が落ち着いて心地良いわ」
「ならば、私が貴女様に気に入っていただけているということかもしれませんね」
「ラゴール!」
自分の狙い通りあっさりと心を乱すターニャの言動は、はっきり言ってラゴールにとって面白みが薄い。
他人にあっさりと見抜かれてしまう恋心。
身の丈にそぐわないと理解できない経験の無さ。
そして、何よりラゴールを信じ簡単に店に足を踏み入れるその純粋さ。
どれを取っても彼にとっては赤子をあやすより容易だろう。
だが、日々汚い腹の探り合いに付き合わされるラゴールにとっては、何も考えず揶揄う相手というのはひどく貴重なのかもしれない。
「お待たせいたしました。香水も先ほどの髪飾りと一緒にお包みさせていただきました」
「ありがとう」
「ご紹介したい品がまだまだございますので、ぜひまたお越しくださいませ」
「気が向いたら来るわ」
そう一言だけ言い残し店を後にするターニャ。
だが、ドアが閉まる間際に見せた彼女のご満悦な笑顔に、ラゴールは堪えきれずお腹を抱えた。
「……ったく、先が思いやられる。ターニャ様は私に一体いくら貢がれるおつもりかな」
辛辣なその言葉とは裏腹に、店にはラゴールのひどく嬉しそうな笑い声が響いていた。
「なんだ、あんたでも声を上げて笑うことなんてあるんだな」
ギシリと悲痛な音で床が軋む。
そこには男が一人、何の感情も見せぬまま立っていた。
「これはこれは、お久しぶりでございます。もう別の商人に心変わりされたのかと、このラゴール悲しみにくれておりました」
「心にもないことを言うな。こんな物を買い取るのは貴方くらいしかいないのに」
「確かに。御令嬢方からの贈り物を金に換えるなど、私以外の商人なら躊躇するでしょう……ましてや、お相手がレオナルド様ともなればね」
そんな嫌味にも眉一つ動かすことなく、公爵家の嫡男は乱暴に包みをカウンターに投げた。
「無駄口はいい。早く仕事したらどうだ」
「これは失礼……今回はタイピンですか。これはまた見事に全て同じデザインでございますね」
「無用な争いを避けるためだ。こうすれば手元に一つ残しておくだけで、どの御令嬢も自分が贈ったものだと喜ぶだろう?」
「なるほど。さすがはレオナルド様といったところでしょうか」
ラゴールが微笑みかけると、彼は分かりやすく顔を歪め舌打ちをする。
「お前が言うと盛大な嫌味にしか聞こえんがな……ん? なんだこのやけに鼻につく香りは」
「おや、お気に召しませんでしたか? それは申し訳ございません。少々問題が起こりましてね」
「問題?」
「虫除けでございますよ。入り込んだ悪い虫が可憐な花を手折らないように……」
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