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11.いざ勝負!
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ついにその日はやってきた。
程よく温められ湯気の立ったポタージュを手に、ジョルジュは書斎のドアの前にいる。
「いよいよですね、奥様」
「えぇ……」
隣で少し緊張気味のベリーナが、静かに息を吐いた。
「でも、ここを乗り越えないと次に進めないから頑張らなくちゃ」
「次、ですか?」
「少し考えていることがあるの。でも大丈夫、心配しないで。全てはカミロ様の幸せのためよ」
まっすぐに自分を見つめるベリーナに、ジョルジュは小さく頷くと三回ドアをノックした。
返事がないのはいつものこと。
それを知る彼は、躊躇いなくドアを開け中に入る。
物音に視線を送ることもなくなく仕事に没頭しているカミロ。
「旦那様、夜のドリンクをお持ちしました」
「ありがとう。いただく……ってベリーナ嬢、どうしてここに?」
いるはずのない自分の妻がいきなり目の前に現れ、さすがの彼もこれにはかなり驚いた様子だ。
「カミロ様、突然ごめんなさい。でも、今日はどうしてもお話ししたいことがあって、ジョルジュに連れてきてもらったの」
「話か……少しでよければ今聞くが」
「ありがとうございます。実は、お話っていうのはこのドリンクのことなんです」
「ドリンク……?」
目の前に置かれた白いカップにカミロが視線を向ける。
「これがどうした? おや、いつもと違うな」
明らかな見た目の違いに気付いた彼は、思わず眉を寄せた。
「実は今日お持ちしたのは、私がガレッティ様にお願いして作っていただいたものなんです」
「君がか……わざわざ用意してもらって申し訳ないが、前にも話したように私は食事に全く興味がない。正直に言えば食事をする時間すらもったいないと思っていてね……」
「もったいない?」
案の定、ベリーナの眉間がピクリと歪む。
「だから、あのドリンクも栄養を摂るためだけに仕方なく飲んでいるんだ。つまり……」
「つまり、栄養のためだけにあんな不味いものを飲んでいらっしゃると?」
「まぁ、美味しいかどうかは二の次だからな。むしろ関係ない」
「そうですか。でも、関係ないと仰るくらいであれば、今日のところはそちらで我慢していただけませんか? せっかく貴方の妻が用意したのですから」
完璧な笑みでそう言い切り、ベリーナは目を細めた。
「だが、あれは私が頼んだ特別の……」
「特別だということも存じております、私はこの公爵家の食事を任された人間ですので。もちろんその点こちらもあのドリンク同様全く抜かりがございませんわ。ですから、物は試しと思って飲んでいただけませんでしょうか?」
「……わかった」
全く折れる気配のない彼女に根負けしたカミロは、一度大きく息を吐いてから運ばれてきたカップを手に取った。
冷たいグラスとは違い、カップから染み出してくるような温かさが彼の手にも伝わる。
そして、湯気と共に立ちのぼる甘い香り。
いつもの刺激的なものとは異なり、人を誘う華やかな香りに、カミロは無意識にカップに顔を近付け、小さく喉を鳴らした。
「……美味しい」
思わず発したその一言に、ジョルジュはベリーナの方を振り向き微笑むと、彼女は嬉しそうに彼に目配せした。
「カミロ様、どうです? お気に召しましたでしょうか」
「あぁ、悪くなかった」
「悪くない? 私には『美味しい』と聞こえたのですが」
「確かにこれは美味しい。だが、先ほどから言っているだろう。私が必要としてるのは栄養だと、味は関係ないんだ」
「あら、むしろ関係ないと言うのなら美味しくてもいいではありませんか」
穏やかに微笑みながらも決して引かないベリーナに、ついにカミロが痺れを切らした。
「だが、材料が違うだろう? それでは困るんだ」
「いえ、同じですわ」
「えっ……」
目を見開き固まるカミロと表情を一切変えることなく微笑むベリーナ。
「このスープは、あのドリンクと全く同じ材料で作ったものです」
「そんなわけない。だって味が違いすぎる」
「そうです、あまりにも違いますわ。ですが、これが料理というものです」
唖然とするカミロを見つめたまま、ベリーナは満面の笑みでそう言い切った。
程よく温められ湯気の立ったポタージュを手に、ジョルジュは書斎のドアの前にいる。
「いよいよですね、奥様」
「えぇ……」
隣で少し緊張気味のベリーナが、静かに息を吐いた。
「でも、ここを乗り越えないと次に進めないから頑張らなくちゃ」
「次、ですか?」
「少し考えていることがあるの。でも大丈夫、心配しないで。全てはカミロ様の幸せのためよ」
まっすぐに自分を見つめるベリーナに、ジョルジュは小さく頷くと三回ドアをノックした。
返事がないのはいつものこと。
それを知る彼は、躊躇いなくドアを開け中に入る。
物音に視線を送ることもなくなく仕事に没頭しているカミロ。
「旦那様、夜のドリンクをお持ちしました」
「ありがとう。いただく……ってベリーナ嬢、どうしてここに?」
いるはずのない自分の妻がいきなり目の前に現れ、さすがの彼もこれにはかなり驚いた様子だ。
「カミロ様、突然ごめんなさい。でも、今日はどうしてもお話ししたいことがあって、ジョルジュに連れてきてもらったの」
「話か……少しでよければ今聞くが」
「ありがとうございます。実は、お話っていうのはこのドリンクのことなんです」
「ドリンク……?」
目の前に置かれた白いカップにカミロが視線を向ける。
「これがどうした? おや、いつもと違うな」
明らかな見た目の違いに気付いた彼は、思わず眉を寄せた。
「実は今日お持ちしたのは、私がガレッティ様にお願いして作っていただいたものなんです」
「君がか……わざわざ用意してもらって申し訳ないが、前にも話したように私は食事に全く興味がない。正直に言えば食事をする時間すらもったいないと思っていてね……」
「もったいない?」
案の定、ベリーナの眉間がピクリと歪む。
「だから、あのドリンクも栄養を摂るためだけに仕方なく飲んでいるんだ。つまり……」
「つまり、栄養のためだけにあんな不味いものを飲んでいらっしゃると?」
「まぁ、美味しいかどうかは二の次だからな。むしろ関係ない」
「そうですか。でも、関係ないと仰るくらいであれば、今日のところはそちらで我慢していただけませんか? せっかく貴方の妻が用意したのですから」
完璧な笑みでそう言い切り、ベリーナは目を細めた。
「だが、あれは私が頼んだ特別の……」
「特別だということも存じております、私はこの公爵家の食事を任された人間ですので。もちろんその点こちらもあのドリンク同様全く抜かりがございませんわ。ですから、物は試しと思って飲んでいただけませんでしょうか?」
「……わかった」
全く折れる気配のない彼女に根負けしたカミロは、一度大きく息を吐いてから運ばれてきたカップを手に取った。
冷たいグラスとは違い、カップから染み出してくるような温かさが彼の手にも伝わる。
そして、湯気と共に立ちのぼる甘い香り。
いつもの刺激的なものとは異なり、人を誘う華やかな香りに、カミロは無意識にカップに顔を近付け、小さく喉を鳴らした。
「……美味しい」
思わず発したその一言に、ジョルジュはベリーナの方を振り向き微笑むと、彼女は嬉しそうに彼に目配せした。
「カミロ様、どうです? お気に召しましたでしょうか」
「あぁ、悪くなかった」
「悪くない? 私には『美味しい』と聞こえたのですが」
「確かにこれは美味しい。だが、先ほどから言っているだろう。私が必要としてるのは栄養だと、味は関係ないんだ」
「あら、むしろ関係ないと言うのなら美味しくてもいいではありませんか」
穏やかに微笑みながらも決して引かないベリーナに、ついにカミロが痺れを切らした。
「だが、材料が違うだろう? それでは困るんだ」
「いえ、同じですわ」
「えっ……」
目を見開き固まるカミロと表情を一切変えることなく微笑むベリーナ。
「このスープは、あのドリンクと全く同じ材料で作ったものです」
「そんなわけない。だって味が違いすぎる」
「そうです、あまりにも違いますわ。ですが、これが料理というものです」
唖然とするカミロを見つめたまま、ベリーナは満面の笑みでそう言い切った。
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