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15.感謝祭①
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早速、領地内に感謝祭の開催が伝えられると、人々は大きな喜びに湧いた。
準備は当時の様子をよく知るジョルジュの協力を得てカミロが中心となって行われたが、彼はベリーナにも積極的な参加を願い出た。
特に広場に出す屋台の選定やバザーに並べる特産物の決定は、彼女に一任した。
「いいのですか? カミロ様」
「もちろん。料理や特産物のことなら私より貴女の方が遥かに詳しい。それに口を出したくてウズウズしていたのだろう?」
「あら……うまく隠してたつもりなんですが」
「そんなに目を輝かせていたら流石にわかる。頼めるかな」
「喜んで」
今まで決して人任せにすることがなかった彼の采配はジョルジュを大いに驚かせたが、ベリーナと結婚してから少しずつ良い方向に向かっている主人の変化を彼は温かい目で見守っていた。
「カミロ様、失礼いたします」
着々と準備を進めていたある日の夜、ベリーナがカミロの書斎にやってきた。
「どうした? ベリーナ嬢」
「広場の屋台ですが、公爵家からも出店したいのですがよろしいでしょうか?」
「それはどういうことだ?」
「もし可能であれば、カミロ様が飲んでいる特製の……」
「あの劇的にマズいものを出すというのか」
目を見開き、カミロは椅子から飛び上がった。
「違います、ポタージュの方です」
「そっ、そうだ。あれはもうないんだったな……すまない、続けてくれ」
「あれはもうお互い忘れましょう。では、気を取り直して……」
ベリーナはわざと一度咳払いをしてから、改めて話を切り出した。
「この前、準備を手伝ってくださった方々にポタージュの話をしていたんです。そうしたら、皆さん飲んでみたいと言ってくださって」
「なるほど、それで公爵家から屋台を……いいんじゃないか、あれは君の自信作だから、皆にも味わってもらうことにしよう。そちらもお願いしていいだろうか?」
「もちろんです、ありがとうございます。早速ガレッティ様とご相談して参りますわ」
一瞬で輝くような笑顔になったベリーナは軽くお辞儀をしてから、跳ねるように書斎を後にした。
「今日も元気だな……たくさん食べているようで何より」
ふと飛び出したその言葉に、カミロは思わず笑みを溢した。
こう思うのは、もう何度目だろう。
食事なんてどうでもいいと思っていた自分が、契約上とはいえ妻の機嫌を食事の量で伺うなど、想像すらしていなかったことだ。
「彼女のせいだな。あまりに食べることにこだわるせいで、いつの間にかこちらまで巻き込まれる……本当困ったものだ」
そう大げさにため息をついたカミロの手には、少し冷めたポタージュがあった。
ついに、感謝祭当日がやってきた。
公爵邸はどこも朝から大忙しで、感謝祭の準備に追われる者はもちろん、家事を任された者もいつもよりハイペースで淡々と仕事をこなしていた。
「奥様、何をなさっていらっしゃるんですか! それは私達がやりますので」
「いいのよ。仕事はみんなでやった方が早く終わるもの」
「いや、でも!」
「これは私からの命令よ。早く仕事を終わらせて全員で感謝祭を楽しむこと。そのために奥様でもなんでも使いなさい」
洗濯物を干しながらベリーナは満面の笑みでそう言い切った。
「ナタリー、貴女も掃除は本当に軽くでいいわよ。今日くらいさぼっても変わらないもの」
「でも、奥様……」
「だから、これは命令なの。今日は家のことなんてどうでもいいの。みんなで感謝祭を楽しむことが一番なんだから」
「そうではなくて……うっ、後ろに旦那様が」
「後ろ? カミロ様、いらしたんですか!」
まさに仁王立ちでベリーナの後ろにいたカミロ。
その場の使用人達が慌てて頭を下げると、彼は静かにそれを制した。
「私には気にせず続けてくれ。なんせ感謝祭を楽しむことが、私の妻からの命令だからな。だがベリーナ、君は大切なことを忘れていないか?」
「大切なこと?」
「キッチンの方でガレッティが貴女を探していたようだが」
「いけない! お味見を頼まれていたんだったわ。ごめんなさい、みなさん後はお願いしてもいい?」
「もちろんです。奥様、ありがとうございました」
「気にしないで。それより早く終わらせてみんなで楽しみましょう」
手を振りながら颯爽とキッチンに向かうベリーナをカミロは使用人達と共に見送る。
「今日も元気いっぱいだな」
「はい、いつもよりさらにお元気かと。感謝祭をとても楽しみにされていらっしゃいましたから」
「そうか……皆も今日は妻に倣って一日楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
軽く手を上げカミロがその場を去ると、使用人達は驚きのあまり顔を見合わせた。
「もしかして旦那様、今笑っていらした?」
「やっぱりそうよね。唇がこうニッと上がって」
「眉間にシワも寄ってなかった!」
もう一度彼女達は顔を見合わせ、イタズラっぽく顔を綻ばせた。
「私達もあんな結婚してみたいよね!」
「それならまず相手からでしょ?」
「それは言わないでー!」
準備は当時の様子をよく知るジョルジュの協力を得てカミロが中心となって行われたが、彼はベリーナにも積極的な参加を願い出た。
特に広場に出す屋台の選定やバザーに並べる特産物の決定は、彼女に一任した。
「いいのですか? カミロ様」
「もちろん。料理や特産物のことなら私より貴女の方が遥かに詳しい。それに口を出したくてウズウズしていたのだろう?」
「あら……うまく隠してたつもりなんですが」
「そんなに目を輝かせていたら流石にわかる。頼めるかな」
「喜んで」
今まで決して人任せにすることがなかった彼の采配はジョルジュを大いに驚かせたが、ベリーナと結婚してから少しずつ良い方向に向かっている主人の変化を彼は温かい目で見守っていた。
「カミロ様、失礼いたします」
着々と準備を進めていたある日の夜、ベリーナがカミロの書斎にやってきた。
「どうした? ベリーナ嬢」
「広場の屋台ですが、公爵家からも出店したいのですがよろしいでしょうか?」
「それはどういうことだ?」
「もし可能であれば、カミロ様が飲んでいる特製の……」
「あの劇的にマズいものを出すというのか」
目を見開き、カミロは椅子から飛び上がった。
「違います、ポタージュの方です」
「そっ、そうだ。あれはもうないんだったな……すまない、続けてくれ」
「あれはもうお互い忘れましょう。では、気を取り直して……」
ベリーナはわざと一度咳払いをしてから、改めて話を切り出した。
「この前、準備を手伝ってくださった方々にポタージュの話をしていたんです。そうしたら、皆さん飲んでみたいと言ってくださって」
「なるほど、それで公爵家から屋台を……いいんじゃないか、あれは君の自信作だから、皆にも味わってもらうことにしよう。そちらもお願いしていいだろうか?」
「もちろんです、ありがとうございます。早速ガレッティ様とご相談して参りますわ」
一瞬で輝くような笑顔になったベリーナは軽くお辞儀をしてから、跳ねるように書斎を後にした。
「今日も元気だな……たくさん食べているようで何より」
ふと飛び出したその言葉に、カミロは思わず笑みを溢した。
こう思うのは、もう何度目だろう。
食事なんてどうでもいいと思っていた自分が、契約上とはいえ妻の機嫌を食事の量で伺うなど、想像すらしていなかったことだ。
「彼女のせいだな。あまりに食べることにこだわるせいで、いつの間にかこちらまで巻き込まれる……本当困ったものだ」
そう大げさにため息をついたカミロの手には、少し冷めたポタージュがあった。
ついに、感謝祭当日がやってきた。
公爵邸はどこも朝から大忙しで、感謝祭の準備に追われる者はもちろん、家事を任された者もいつもよりハイペースで淡々と仕事をこなしていた。
「奥様、何をなさっていらっしゃるんですか! それは私達がやりますので」
「いいのよ。仕事はみんなでやった方が早く終わるもの」
「いや、でも!」
「これは私からの命令よ。早く仕事を終わらせて全員で感謝祭を楽しむこと。そのために奥様でもなんでも使いなさい」
洗濯物を干しながらベリーナは満面の笑みでそう言い切った。
「ナタリー、貴女も掃除は本当に軽くでいいわよ。今日くらいさぼっても変わらないもの」
「でも、奥様……」
「だから、これは命令なの。今日は家のことなんてどうでもいいの。みんなで感謝祭を楽しむことが一番なんだから」
「そうではなくて……うっ、後ろに旦那様が」
「後ろ? カミロ様、いらしたんですか!」
まさに仁王立ちでベリーナの後ろにいたカミロ。
その場の使用人達が慌てて頭を下げると、彼は静かにそれを制した。
「私には気にせず続けてくれ。なんせ感謝祭を楽しむことが、私の妻からの命令だからな。だがベリーナ、君は大切なことを忘れていないか?」
「大切なこと?」
「キッチンの方でガレッティが貴女を探していたようだが」
「いけない! お味見を頼まれていたんだったわ。ごめんなさい、みなさん後はお願いしてもいい?」
「もちろんです。奥様、ありがとうございました」
「気にしないで。それより早く終わらせてみんなで楽しみましょう」
手を振りながら颯爽とキッチンに向かうベリーナをカミロは使用人達と共に見送る。
「今日も元気いっぱいだな」
「はい、いつもよりさらにお元気かと。感謝祭をとても楽しみにされていらっしゃいましたから」
「そうか……皆も今日は妻に倣って一日楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
軽く手を上げカミロがその場を去ると、使用人達は驚きのあまり顔を見合わせた。
「もしかして旦那様、今笑っていらした?」
「やっぱりそうよね。唇がこうニッと上がって」
「眉間にシワも寄ってなかった!」
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