満腹令嬢はそれでも食べるのをやめません!

真岡鮫

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17.二人の出会い

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「カミロ様が覚えていないのも当たり前です。だって、子供の頃のことですから」
「子供の頃?」
「以前母に連れられて感謝祭に参加したことあるって、お話ししたことありましたよね?」

 記憶を手繰るよう遠くに視線を向けながら、ベリーナは静かに口を開いた。

「母はあの通り賑やかな人で色々なところに出かけるのが好きだったので、あの日も私を連れてこちらの感謝祭に参加していたんです」
「確かに昔は他領からもたくさんの人が遊びに来てたな」
「ええ、私はこんなに大きなお祭りに来たのは初めてで、見るもの全てが新鮮でした」

 思い出すように目を閉じたベリーナ。

「街中に飾られた色とりどりの旗と踊り出したくなるような音楽。遠くからでもよく聞こえる活気ある人々の声に、何よりも広場に並んだたくさんのお料理は私の目を奪いました」
「その頃から食べることが好きだったのか」

 揶揄うようにカミロがそう聞くと、ベリーナは少し不満そうに口を尖らせた。

「好きではありましたけど、今ほどたくさんは食べて……いえ、今も別に変わりませんけど」
「まぁ、そういうことにしておこう。すまない、続けてくれ」
「はい……ここに着いてすぐ、母はご友人を見つけて立ち話を始めてしまって。そうなったらもうしばらくはそこを動きません」
「……想像はつくな」
「始めはそばにいましたが、まだ小さかった私は退屈してしまって。母の目を盗んでこっそりそばを離れたんです」
「一人で?」
「はい、最初は近くを見てすぐに戻ってくるつもりだったんです。でも、感謝祭があまりに魅力的で」

 嬉しそうに語るベリーナが、パッと目を見開く。

「色々な所から漂ってくる食欲を誘う香りに誘われるように屋台を覗いては隣の屋台へ、そしてまた次の屋台に……と、夢中になって広場を回りました。そんな中でも一際目を引いたのが、あの『ミエル』のお菓子です」
「確か、思い出があると言っていたな」
「ええ。周りにも漂う芳しい甘い香りに誘われて、お店を覗くと、そこには綺麗に形の整えられたお菓子がずらりと並んでいました」

 『ミエル』の菓子は、厳選された材料を用い一流の職人が丁寧に作り上げることで出来上がる至高の菓子だ。
 そのため、素朴ではあるものの艶やかなその姿に、目を奪われる者も少なくない。

「もうそのお菓子があまりにも美味しそうで、どうしても食べたくて行列に並んだんです。少しずつ列が進んでいって、ようやく私の番になって……」

 目の前に並ぶ色々な種類の焼き菓子の中で、少女ベリーナが目に留めたのは、赤いジャムが乗った焼き菓子。

「そのジャムがまるで宝石みたいにキラキラしていて、気づいたら言っていたんです『これください』って。でも、なかったんです」
「売り切れていたのか?」
「いえ、一人だったからお金を持ってなかったです」
「なるほど、それでどうしたんだ?」
「どうしていいかも分からず戸惑っていたら、目の前にそっと硬貨が置かれたんです」

『支払いはこれでお願いします』
 そう店主に声をかけたのは、ベリーナよりも少し年上の男の子。

「髪の毛は紳士のようにきちんと整えられていたけど、お顔にはまだ幼さが残る男の子でした。背丈も私とあまり変わらなかったけれど、落ち着いたその話し方がとても印象的で、その時の私にはとても頼もしく思えたんです」

 カミロを見つめ優しく微笑むベリーナに、彼の古い記憶が少しずつ浮かび上がってきた。

 『ミエル』の菓子を前に、落ち着かない様子で手を握り締め辺りを見回していた女の子。

「でも、すごく複雑でした。もちろんその男の子にはお金を返すって伝えたんです。でも、それはプレゼントだからと、断られてしまって」

 確かにカミロ少年は断っていた。
 目の前の可愛い女の子にカッコつけたかったから、なんて今は口が裂けても言えないが。

「だから、言ったんです。『半分にして一緒に食べましょう』って。そうしたら何て言われたと思います?」
「あっ、いや……それは」

 ベリーナはわざとらしく声を抑え、眉を吊り上げた。

「美味しいものを食べたら幸せになれるんだよ。だから二人とも幸せだね……って。こんなこと、今のカミロ様なら想像できませんものね」
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