〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。

文字の大きさ
2 / 4

2

しおりを挟む
オリビア・バーンズ。
バーンズ伯爵家の娘として生まれた私のそばには、幼い頃からひとりの男の子の姿があった。

名前を、ウィリアム・ベケット。
幼い頃は、よく一緒に遊んだ。
彼と一緒に、同じ絵本を読んだりして。
日向ぼっこをして、青空を見たりもした。

ウィリアムは、優しいひとだった。

『ねえ、オリビア。僕、パブリックスクールに入ることになったんだ』

『そうなの?』

『うん。……不安だなぁ』

出来る長男と比較されることの多いウィリアムは、それを少しコンプレックスに思っているようだった。
悩んだ彼を励ましたくて、私は彼の手を取っていった。

『大丈夫よ!ウィリアムなら、きっと!絶対!』

『……ほんとう?なんだか、オリビアがそう言うならそんな気がしてきた』

はにかむ彼に、私はホッと安心した。
それと同時に、彼がパブリックスクールに入ってしまうということは、なかなか会えなくなることだと思った。
実際、彼がパブリックスクールに入ってからは、ますます彼と会う機会は減っていった。

それでも、ウィリアムとはいつか結婚するだろうな、と思っていた。

お父様同士が旧友で、付き合いも長い。
だから、きっと。

そう思っていたのだけど。
お父様からその報告を聞いた時、私は唖然とした。

『ウィリアムに恋人……?だって今まで、そんなこと』

『相手は使用人だそうだ。遊びだろう』

お父様はそう言ったが、私は悩んだ。
あのウィリアムが、遊びで女性と付き合うだろうか。
いや、そんなことはしない。
きっと、本気だ。
彼は本気で、その使用人と──。

私とウィリアムの婚約が正式に決まった。
だけど、ウィリアムは変わらずその使用人と付き合いを続けているようだ。
ついにベケット伯爵がウィリアムに使用人との関係を清算するよう命じた。

だけどウィリアムはそれに抵抗しているという。

ウィリアムは、私と会っても目を逸らし、気まずそうな顔を見せるようになった。

なんとも、ハッキリしない状況が続き、ある日私はその使用人に会ってみよう、と思った。

ベケット伯爵家に向かい、その使用人を呼び出してもらう。
ウィリアムは不在だというが、そのうち戻ってくるだろう。

使用人は、赤毛の少女だった。
ウィリアムより、二、三ほど年上だろうか。
童顔に、可愛らしい雰囲気。そばかすが白い頬に浮かんでいる。
名前は、ルシア。

私は、ルシアに、ウィリアムと別れるよう頼んだ。
ルシアは、私に呼び出された以上、その話だと予想していたのだろう。
泣くだろうか。
そう思っていたら、ルシアは涙目になりながらもハッキリと言った。

「ウィリアム様が結婚されても、私はそばにいます。彼が、望むなら」

少し、驚いた。
気の弱そうな少女に見えたから。
それと同時に、私は不快感に襲われた。

結婚してもそばにいる。
ウィリアムが望むなら。

そうすることで、彼女は想い人が結婚する辛さを耐えると、そう言いたいのだろう。

【例え、恋人がほかのひとと結婚しても、それでも私はそばにいる。彼のために。私が、そばにいたいから。そばで支えたいから】

ずいぶん、悲観的な考えだ。
悲劇に酔っている様子に、冷笑した。

可哀想な自分に浸って楽しんでいるところ悪いけど。
ねえ、それなら私はどうなるの?

「では、あなたは自分のせいで悲しむ人間がいても構わない、と……そう仰るのね」

そして、冒頭に戻るのである。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします

ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。 マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。 それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。 ※複数のサイトに投稿しております。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...