すれ違いのその先に

ごろごろみかん。

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最後の夜 3

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レイルは私と目が合うと少しだけその瞳を和らげた。その目で微笑まれるのが好きだった。好きだと、愛していると言ってくれているような目。

ーーーそれも、私の勘違いだったのだけど

今までそう勘違いしていたことがすごく恥ずかしい。だけどレイルのその瞳で見られるのは未だに好きで、胸が悲しいような切ないような、ひどい嵐に見舞われた。好きなのに。好きなのに、やっぱり届かなかった。大好きなのに、どうしたって彼は私のものにはならない。彼はずっとただ一人だけを見ているのだ。
こんなに近くても、とても遠い。

「リーフェ、可愛い。どうしたの?泣きそうな顔してる」

「レイル………お願い、もう」

苦しくて悲しくて切なくて、もうそれが欲しかった。私のお腹いっぱいにそれを入れて、そしてもう何も考えられなくして欲しかった。その幸せな充足感を感じて、もう終わりにするから。言うと、レイルはどこか複雑そうな、何か言いたげな、なんとも言えない顔になった。そして小さく呻く。

「っ、んー………ぁ~………いや、ほんと………リーフェは………」

レイルが何を言おうとしているか分からない。私が彼を見ると、レイルはやはり優しい瞳をして、そしてどこか困ったような顔をして、私の目の下に触れた。やはり手は熱かった。

「しょうがないな。俺はリーフェに弱いんだよ。そうやってお強請りされたら何も考えられなくなる」

「レイル………」

その言葉全て、取り繕われたものなのだと思うと涙がこぼれそうになる。だけど、絶対に泣かない。泣けない。
レイルは私のまぶたにキスを落とすと、そのまま手をお腹の上に滑らせた。そしてレイル自身も少し下に下がり、太ももに唇を落とされた。
ぴくりと体が反応する。レイルはそんな私を見ながら甘噛みを繰り返す。体がはねる。
ベッドサイドの明かりはいつもかなり絞られている。そのせいで、レイルの瞳も光の当たり加減で今は海底のように暗かった。

レイルの力強い、いつもより暗く見える海の底のような色の瞳に絡め取られて、私は息を飲んだ。

「っ………」

「はは、リーフェ。こうするとすっごく可愛い顔するよね。嬉しいな。俺の目、好きなんだっけ?こうやって舐められるの、好き?」

そう言ってレイルはそのまま太ももを舌でなぶっていく。時折甘噛みされて思わぬ感触にびくりと体がはねる。

「すっ………き、好き、なの、レイル………」

あなたのことが、どうしようもなく、好き。
それを言えたらどんなにいいか。だけどその言葉は隠して、私は手をぎゅっと握った。レイルは私の言葉に少し嬉しそうに口元を緩めた。そしてぢゅっときつく太ももに何度か吸い付くと、ようやく体を起こした。

「ん、綺麗についた。次はこれが消えないうちにリーフェを抱くから。というか、毎日でも抱きたいくらいなんだけどね。でもさすがにそれはリーフェが嫌だよね?………自重するしかないよなぁ」

だから仕事にあけくれてるんだけど。何やってんだか、俺。

独り言のようにそう呟かれて、ああ、レイルはこんな時まで取り繕ってくれるのかとそう感じた。最近帰りが遅くなった理由をこうやって誤魔化し、嘘を並べ、私に安心をくれる。今までの私はそれを疑わず信じていたし、だからこそレイルにも愛されていると信じきっていた。だけど、それも嘘なのだ。レイルが私のためについてくれた、優しい嘘。
それを知って胸が痛くて、切なくて、悲しくなる。

レイルが不意に薄布を捲りあげる。頼りない寝衣がたくしあげられ、秘部を覆う布に指先を差し込まれた。見なくてもわかる。くちゅり、というたしかな水音が響き耳まで熱くなる。隠しきれない情欲を見つけられ、たまらなくなった。恥ずかしい、切ない、早く、早く、抱いて欲しい。浅ましくもみっともなくてもそう思った。レイルは人差し指を一本中にいれてぐるりと弧を描くようにナカをかきまぜた。その感触だけで星が飛ぶように思考が瞬いた。

「あっ、ひゃ、ぅ………」

「良かった、濡れてるね」

確認するように言われてレイルにまぶたを口付けられた。レイルはキスが好きだ。レイルは好きでもない私にキスをする。私だったらすきでもない人にキスをするなど到底無理な話だ。だけどレイルはそれを無理に押しとどめて、私が妻だから、妃だからキスをするのだ。本当にキスをしたい相手は違うはずなのに。
だからレイルに口付けをされるのは申し訳なくて、罪悪感が押し寄せて、私は思わず顔を逸らしてしまった。それに気づいたレイルが僅かに目を細めた。

「リーフェ?」

「あの、レイル。私………」

何をいえばいいのだろう。
レイルを見るとじわじわと押し寄せる快感と切なさと触れられる歓喜に涙が滲み、心臓が高鳴った。レイルは何か考えるように不意に視線をちらりと逸らしたが、しかしナカに埋められた指はそのままとんとん、と私の敏感な部分を押し上げた。それだけでぞくりと背筋が震え、どうしようもなく身がくねる。
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