19 / 33
3.殺しても死ななそう
2話:選択の時
しおりを挟む
朝食の後、私は中庭に出た。
出された料理を残すのは申し訳なかったので、あの後何とか胃に詰め込んだのだが、全く味が分からなかった。
(苦しい……)
お腹に手を当てて思う。
先程の話を聞いたために、胃も重たく感じていた。
決して、朝食の食べ合わせが悪かったためではない。
中庭では、グレースが微睡んでいた。
ライオンの姿だった。彼女は私に気がつくと、「ヴァオッ」と鳴いた。
猫で言う「にゃん!」のようなものだと思っている。
つまりこれは、挨拶。
昨日までの私なら
『可愛いわねぇ~~!!』
と文字通り猫可愛がりしていただろう。
だけどさすがに今は、そんなに呑気にしていられなかった。
「こんにちは、グレース。お昼寝?」
「ヴォオ……」
これも威嚇ではない。
威嚇ではない……はず。
少し自信がなくなってくるが、いえ、グレースの目に敵意はないもの!
唸るような声でもなかったし。
私は自分に言い聞かせるようにしながら、彼女の背に体を預けた。
グレースが、ぺろ、と私の頬を舐めた。
「っ……!!」
ザラザラしてる!ザラザラしてる!!
(大事なことなので二回)
やっぱり猫科……!!
思わず、歓喜に頬を抑えそうになった。
いけない、過剰に反応すると動物に嫌われてしまう。
以前──前世、友人に指摘されたことだった。
『あまり構いすぎると、猫に嫌われるわよ』
そういう彼女は、猫に好かれていた。
クールな友人だった。
そのまま、私はグレースにもたれた。
ふわふわしていて、ポカポカしていて、とても暖かい。
(まるで、ひだまりだわ……)
例えるなら、芝生の上で日向ぼっこでもしているかのような、幸福感……。
今の私は間違いなく幸福度が高い。
目を閉じてしばらく考え込んでいたが、すぐにぱちりと目を開けた。
そして、自問自答するように呟いた。
「やっぱり私、このままじゃいけないと思うの」
このままだと、ローガンは殺されることだろう。
それは止めたいと思うし、無実の罪で処刑なんて、あってはならないことだ。
「ヴオオ……」
相槌を打つようにグレースが答えた。
(可愛い……)
癒される。
ふさふさの毛を後頭部に感じながら、私は首を傾げた。
視線を向ければ、グレースは私を見ていた。
まだ、ライオンに触れることには慣れない。
グレースを見る度に『ラ、ライオン!!』と衝撃を覚えてしまう。
それくらい、人間はライオンに馴染みがない。
「でもねぇ?──じゃない」
「ヴヴ……」
「だからね、私思うのよ。──で、──って」
「ヴー……」
……と、私はこんな風にグレースに相談(という名の、一方的な会話)をし、答えを決めた。
「ええ、ありがとう。グレース。とても頼りになったわ!心強かった」
何より、背中に感じる逞しい筋肉と、それに覆われた毛皮。
それに、ポカポカとした体温が私を励ました。
笑みを向けると、心做しかグレースも喜んでくれているようだった。とてもラブリーだ。
猫もとっても可愛いけど、ライオンも可愛い。
(……やっぱり猫科は最強だわ!!)
もちろん犬も可愛いのだけど。
狼も可愛いと思う。
そんなことを考えながら、私はベランダから室内に戻った。最後にちらりと見ると、グレースはふたたび目を閉じて、日向ぼっこに戻っていた。
しかし、耳はこっちを向いていた。
部屋に戻って、執事長のジェラルドに尋ねる。
「伯爵は今どちらにいらっしゃいますか?」
「旦那様でしたら、執務室に」
「ありがとう。では、時間がある時にお話がしたいと、お伝えいただけますか?都合は伯爵に合わせます」
伝言をお願いして、私は自室に向かう。
そして、宛てがわれた部屋に戻ると、スツールに腰を下ろした。
手に持つのは、かぎ針と刺繍糸だ。
昨日、ふたたびリュンガー伯爵に頼まれたのだった。
今度は、刺繍糸を使った手編みコースターを作って欲しい、と。
昨日、孤児院から帰ってすぐのことだ。
子供たちが喜ぶからと、リュンガー伯爵に手編みコースターを頼まれたのだった。
刺繍は高価なものなので、子供たちにはあまり馴染みがない。
そのため、彼らに贈ってあげたいとリュンガー伯爵は言った。
(……そんなふうに言われたら、俄然やる気が出るって言うものよね!!)
何より、昨日のリディアの反応。
あんなに、刺繍を喜ばれたのは人生で初めてだ。
私の刺繍は可もなく不可もなくと言った出来だけど、喜んでくれる人がいるなら──
昨日会って、一緒に遊んだ子供たちの顔を思い出す。
彼らの顔を思い出しながら、私はゆっくりとかぎ針を動かした。
これも、夏の庭園会では、刺繍入りのハンカチと同じくらい、出す人間が多い。
私も、他の令嬢同様今まで練習してきた。
(まあ!手編みコースターよりハンカチに指す方がまだ出来が良いかしら?という具合だったから、ハンカチを出展したんだけどね……!!ほぼ誤差のようなものだけど!)
でも、ハンカチに刺すのと同じくらい、練習してきた。
そのため、こちらも手が動きを覚えている。
既に、心の整理は終わっている。
選択さえしてしまえば、後はそのためにどう動くか……つまり、作戦会議だ。
そして、匿ってもらっている立場上、私一人独断で動く訳にはいかない。
昼過ぎになると、ジェラルドが私を呼びに来た。
「旦那様がお待ちです」
彼の案内で執務室に向かうと、リュンガー伯爵が顔を上げた。
「こんにちは、レディ・キャロライン」
「こんにちは、リュンガー伯爵」
彼はいつも、顔を合わせるとまず挨拶をする。聖職者だった時の名残りだろうか。
(あるいは、彼本来の癖かしら?)
そんなことを考えながら、私は単刀直入に本題に入った。
「今朝の件ですが、私は陛下に会ってこようと思います」
宣言に近い私の発言に、リュンガー伯爵は目を見開いた。
出された料理を残すのは申し訳なかったので、あの後何とか胃に詰め込んだのだが、全く味が分からなかった。
(苦しい……)
お腹に手を当てて思う。
先程の話を聞いたために、胃も重たく感じていた。
決して、朝食の食べ合わせが悪かったためではない。
中庭では、グレースが微睡んでいた。
ライオンの姿だった。彼女は私に気がつくと、「ヴァオッ」と鳴いた。
猫で言う「にゃん!」のようなものだと思っている。
つまりこれは、挨拶。
昨日までの私なら
『可愛いわねぇ~~!!』
と文字通り猫可愛がりしていただろう。
だけどさすがに今は、そんなに呑気にしていられなかった。
「こんにちは、グレース。お昼寝?」
「ヴォオ……」
これも威嚇ではない。
威嚇ではない……はず。
少し自信がなくなってくるが、いえ、グレースの目に敵意はないもの!
唸るような声でもなかったし。
私は自分に言い聞かせるようにしながら、彼女の背に体を預けた。
グレースが、ぺろ、と私の頬を舐めた。
「っ……!!」
ザラザラしてる!ザラザラしてる!!
(大事なことなので二回)
やっぱり猫科……!!
思わず、歓喜に頬を抑えそうになった。
いけない、過剰に反応すると動物に嫌われてしまう。
以前──前世、友人に指摘されたことだった。
『あまり構いすぎると、猫に嫌われるわよ』
そういう彼女は、猫に好かれていた。
クールな友人だった。
そのまま、私はグレースにもたれた。
ふわふわしていて、ポカポカしていて、とても暖かい。
(まるで、ひだまりだわ……)
例えるなら、芝生の上で日向ぼっこでもしているかのような、幸福感……。
今の私は間違いなく幸福度が高い。
目を閉じてしばらく考え込んでいたが、すぐにぱちりと目を開けた。
そして、自問自答するように呟いた。
「やっぱり私、このままじゃいけないと思うの」
このままだと、ローガンは殺されることだろう。
それは止めたいと思うし、無実の罪で処刑なんて、あってはならないことだ。
「ヴオオ……」
相槌を打つようにグレースが答えた。
(可愛い……)
癒される。
ふさふさの毛を後頭部に感じながら、私は首を傾げた。
視線を向ければ、グレースは私を見ていた。
まだ、ライオンに触れることには慣れない。
グレースを見る度に『ラ、ライオン!!』と衝撃を覚えてしまう。
それくらい、人間はライオンに馴染みがない。
「でもねぇ?──じゃない」
「ヴヴ……」
「だからね、私思うのよ。──で、──って」
「ヴー……」
……と、私はこんな風にグレースに相談(という名の、一方的な会話)をし、答えを決めた。
「ええ、ありがとう。グレース。とても頼りになったわ!心強かった」
何より、背中に感じる逞しい筋肉と、それに覆われた毛皮。
それに、ポカポカとした体温が私を励ました。
笑みを向けると、心做しかグレースも喜んでくれているようだった。とてもラブリーだ。
猫もとっても可愛いけど、ライオンも可愛い。
(……やっぱり猫科は最強だわ!!)
もちろん犬も可愛いのだけど。
狼も可愛いと思う。
そんなことを考えながら、私はベランダから室内に戻った。最後にちらりと見ると、グレースはふたたび目を閉じて、日向ぼっこに戻っていた。
しかし、耳はこっちを向いていた。
部屋に戻って、執事長のジェラルドに尋ねる。
「伯爵は今どちらにいらっしゃいますか?」
「旦那様でしたら、執務室に」
「ありがとう。では、時間がある時にお話がしたいと、お伝えいただけますか?都合は伯爵に合わせます」
伝言をお願いして、私は自室に向かう。
そして、宛てがわれた部屋に戻ると、スツールに腰を下ろした。
手に持つのは、かぎ針と刺繍糸だ。
昨日、ふたたびリュンガー伯爵に頼まれたのだった。
今度は、刺繍糸を使った手編みコースターを作って欲しい、と。
昨日、孤児院から帰ってすぐのことだ。
子供たちが喜ぶからと、リュンガー伯爵に手編みコースターを頼まれたのだった。
刺繍は高価なものなので、子供たちにはあまり馴染みがない。
そのため、彼らに贈ってあげたいとリュンガー伯爵は言った。
(……そんなふうに言われたら、俄然やる気が出るって言うものよね!!)
何より、昨日のリディアの反応。
あんなに、刺繍を喜ばれたのは人生で初めてだ。
私の刺繍は可もなく不可もなくと言った出来だけど、喜んでくれる人がいるなら──
昨日会って、一緒に遊んだ子供たちの顔を思い出す。
彼らの顔を思い出しながら、私はゆっくりとかぎ針を動かした。
これも、夏の庭園会では、刺繍入りのハンカチと同じくらい、出す人間が多い。
私も、他の令嬢同様今まで練習してきた。
(まあ!手編みコースターよりハンカチに指す方がまだ出来が良いかしら?という具合だったから、ハンカチを出展したんだけどね……!!ほぼ誤差のようなものだけど!)
でも、ハンカチに刺すのと同じくらい、練習してきた。
そのため、こちらも手が動きを覚えている。
既に、心の整理は終わっている。
選択さえしてしまえば、後はそのためにどう動くか……つまり、作戦会議だ。
そして、匿ってもらっている立場上、私一人独断で動く訳にはいかない。
昼過ぎになると、ジェラルドが私を呼びに来た。
「旦那様がお待ちです」
彼の案内で執務室に向かうと、リュンガー伯爵が顔を上げた。
「こんにちは、レディ・キャロライン」
「こんにちは、リュンガー伯爵」
彼はいつも、顔を合わせるとまず挨拶をする。聖職者だった時の名残りだろうか。
(あるいは、彼本来の癖かしら?)
そんなことを考えながら、私は単刀直入に本題に入った。
「今朝の件ですが、私は陛下に会ってこようと思います」
宣言に近い私の発言に、リュンガー伯爵は目を見開いた。
1,491
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。
四季
恋愛
結婚から数ヶ月が経った頃、夫が裏でこそこそ女性と会っていることを知りました。その話はどうやら事実のようなので、離婚します。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる