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5.結果的に感謝しています
4話:結果的に感謝しています
「……ああ。それなら、その場にいた僕が手当に当たった。傷は深くなかったし、問題は無いでしょう」
「……どうなるかしら」
あれ以降、王女殿下は陛下の言葉通り身分を失った。
そして、身分を失った元王女殿下を、ローガンは見捨てた。
それどころか、彼はあちこちで王女殿下の陰口を叩き始めたのだ。それは酷いもので、人づてに聞いた私ですら不快になるものだった。
そうしているうちに、元王女殿下がどうやってかはわからないけれど、夜会に乗り込んできて──あの騒ぎだ。
ローガンは、元王女殿下に刺され、その場は騒然となったらしい。
身分を失った王女殿下は、もはや平民だ。
平民が公爵令息を刺したのだから、当然罪は重たくなる。
だけどローガンがそれを庇った。
彼らの関係は意味不明だ。
私が、ローガンに想いを寄せていたのは事実だ。
だけどそれはもう過去の話。
今はもう、彼と関わりたくない。
どこか私の知らないところで幸せになっていればいいと思うほどには、彼への感情は薄れていたし、無関心だった。
契約書の存在もあり、あれ以来、私と彼は会っていない。
ふと、沈黙に気がつく。
見れば、書類を確認する手が止まっている。
それに、彼が何か誤解していることに気が付き、苦笑した。
「何も無いわ。……ただ、あの二人はなかなか大変そうだから」
「……本当に?あの男のことは、もうあなたの中で過去になっている?」
「もちろんよ。あなたが、そうさせてくれたんでしょう?」
私が茶目っ気を含ませて言うと、リュミエールがため息を吐いた。
「……すまない。余裕がなくて」
「ううん。私の方こそ、配慮がなかったわ。ごめんなさい」
私の言葉に、リュミエールが首を横に振った。さらさらと、彼の薄金色の髪が揺れる。
「デライラとローゼンハイム卿のことだけど、彼は身分を手放すそうだよ」
「えっ……!?」
「まあ、あの騒ぎだしね。このままデライラを見捨てるんじゃ、外聞が悪いと思ったんだろう。あの二人は、どう生きていくだろうね」
呟くような彼は、まるで教会の神父様のようだった。
穏やかな彼の声を聞きながら、目を閉じる。
あの夜の事件から、ちょうど1年が経つ。
あの夜を経て、私の世界はぐるりと一変した。全てが変わってしまった。
夢も、恋も、希望も、全て失った。
その後、裏切りを受けて、絶望した。
デライラが恨めしかった。
私から、ローガンを奪ったあの女が、嫌いだった。
私を捨てたローガンも、恨めしくて仕方なかった。
だけど、今になって思う。
(いえ、今だからこそ、思うのかしら。 )
彼女には、お礼を言いたいと思ったのだ。
むしろ、感謝している。
『奪ってくれてありがとう。結果的に、感謝しています』と。
だって今、私はとても満たされているもの。
幸せだと思う。
あの日。泣いて泣いて泣いて──もう一生分泣き尽くしたと思ったあの夜。
まさかこんなに穏やかな生活が待っているとは、思いもしなかった。
デライラにも、ローガンにも、感謝している。
結果的には、ね。
もう二度と、こんな揉め事には巻き込まれたくないけれど。
リュミエールは、信じられる。
信じたいと思える。彼は誠実な人だ。
それに私も、今度は私自身を丸ごと投げ出すような真似はしないと決めていた。
相手に依存する恋ではない。互いに支え合う愛にしたいと……そう思っている。
後ろで、グレースが「ぐるぐるぐる……」と鳴いた。
その声を聞きながら、私は彼女の背に頭を預ける。
そよそよと、柔らかな風が春のおとずれを知らせていた。
fin.
「……どうなるかしら」
あれ以降、王女殿下は陛下の言葉通り身分を失った。
そして、身分を失った元王女殿下を、ローガンは見捨てた。
それどころか、彼はあちこちで王女殿下の陰口を叩き始めたのだ。それは酷いもので、人づてに聞いた私ですら不快になるものだった。
そうしているうちに、元王女殿下がどうやってかはわからないけれど、夜会に乗り込んできて──あの騒ぎだ。
ローガンは、元王女殿下に刺され、その場は騒然となったらしい。
身分を失った王女殿下は、もはや平民だ。
平民が公爵令息を刺したのだから、当然罪は重たくなる。
だけどローガンがそれを庇った。
彼らの関係は意味不明だ。
私が、ローガンに想いを寄せていたのは事実だ。
だけどそれはもう過去の話。
今はもう、彼と関わりたくない。
どこか私の知らないところで幸せになっていればいいと思うほどには、彼への感情は薄れていたし、無関心だった。
契約書の存在もあり、あれ以来、私と彼は会っていない。
ふと、沈黙に気がつく。
見れば、書類を確認する手が止まっている。
それに、彼が何か誤解していることに気が付き、苦笑した。
「何も無いわ。……ただ、あの二人はなかなか大変そうだから」
「……本当に?あの男のことは、もうあなたの中で過去になっている?」
「もちろんよ。あなたが、そうさせてくれたんでしょう?」
私が茶目っ気を含ませて言うと、リュミエールがため息を吐いた。
「……すまない。余裕がなくて」
「ううん。私の方こそ、配慮がなかったわ。ごめんなさい」
私の言葉に、リュミエールが首を横に振った。さらさらと、彼の薄金色の髪が揺れる。
「デライラとローゼンハイム卿のことだけど、彼は身分を手放すそうだよ」
「えっ……!?」
「まあ、あの騒ぎだしね。このままデライラを見捨てるんじゃ、外聞が悪いと思ったんだろう。あの二人は、どう生きていくだろうね」
呟くような彼は、まるで教会の神父様のようだった。
穏やかな彼の声を聞きながら、目を閉じる。
あの夜の事件から、ちょうど1年が経つ。
あの夜を経て、私の世界はぐるりと一変した。全てが変わってしまった。
夢も、恋も、希望も、全て失った。
その後、裏切りを受けて、絶望した。
デライラが恨めしかった。
私から、ローガンを奪ったあの女が、嫌いだった。
私を捨てたローガンも、恨めしくて仕方なかった。
だけど、今になって思う。
(いえ、今だからこそ、思うのかしら。 )
彼女には、お礼を言いたいと思ったのだ。
むしろ、感謝している。
『奪ってくれてありがとう。結果的に、感謝しています』と。
だって今、私はとても満たされているもの。
幸せだと思う。
あの日。泣いて泣いて泣いて──もう一生分泣き尽くしたと思ったあの夜。
まさかこんなに穏やかな生活が待っているとは、思いもしなかった。
デライラにも、ローガンにも、感謝している。
結果的には、ね。
もう二度と、こんな揉め事には巻き込まれたくないけれど。
リュミエールは、信じられる。
信じたいと思える。彼は誠実な人だ。
それに私も、今度は私自身を丸ごと投げ出すような真似はしないと決めていた。
相手に依存する恋ではない。互いに支え合う愛にしたいと……そう思っている。
後ろで、グレースが「ぐるぐるぐる……」と鳴いた。
その声を聞きながら、私は彼女の背に頭を預ける。
そよそよと、柔らかな風が春のおとずれを知らせていた。
fin.
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