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初めての一歩
しおりを挟む朝ごはん、なんだろう。
そんなことを思っていた私の目の前に運ばれてきたのは、いちごの乗ったショートケーキだった。それに円錐の生チョコケーキに、大人の拳ほどあるであろう、モンブランが並ぶ。その後にもフルーツと生クリームに刻みナッツ、薄く切られたイチゴが乗るプリンアラモードが運ばれてくる。その隣には先程焼き上げたばかりなのか、いい匂いを漂わせるワッフルが。
メイプルシロップをたっぷりかけられ、バターと生地を練り込んで作られたワッフルには半がけのチョコレートがかけられている。
私はそれを見て、空いた口が塞がらなかった。
ーーーあ、朝からケーキ!?
だけど直ぐに思い返す。
そうだ、私はずっと起きてからすぐはケーキとか、甘いものを食べていたんだ。これでよく糖尿病にならなかったものだ。私は並んだ宝石のようなケーキたちを眺める。水晶のようなゼリーの中には閉じ込められたオレンジが入っている。飲み物は蜂蜜がたっぷり入ったアールグレイティーだった。
ざっと血の気が引く。
『醜悪だ』
そりゃ、こんな食生活であればあんな体型になるのも納得がいく。夢の中の話だけど、もはや私はあれが現実のことだと半ば思い込んでいた。
「ケ、ケーキはいらないわ!!」
「えっ!?」
驚きすぎて、ローズが手に持ったボウルを落としそうになっている。あの中には砂糖がふんだんに使われた生クリームが入っている。私はケーキの上にあれをふんだんに乗せるのが好きだった。いや、正確には今も好きだ。だけどそれ以上に夢の影響力が凄まじくて食欲など消えうせた。
「い、いらないの…………。そういう気分じゃないのよ………」
「ど、どうかなさったのですか?お医者様をお呼びいたしますか?」
「いい!いらない!あの、そのケーキたちはあなたたちが食べて。多分、すっごく美味しいもの」
「それは存じ上げていますが………」
ローズはやはり困ったような顔をしている。それはそうだろう。私はこのケーキが大好きで一昨日なんかはケーキを落としてしまった侍女を首にしたばかりである。
このケーキは王都で今一番人気のミレランシェフに一から手作りして作ってもらったものだ。
侍女たちはそれを受け取るために毎朝朝早くにミレランシェフの元に行っている。
プレミアムもののケーキは頬がこぼれおちそうなほど美味しい。だからこそ侍女がそれを落とした時はものすごく怒った。侍女たちにとって私の世話は仕事のひとつだ。いや、それが1番の仕事のはず。それを疎かにして何が務まるというのか。そんな考えで私は侍女を追い出した。
今でもその考えはおかしくないと思ってはいるけれど…………
………でも、客観的に見たら私って酷い奴なのかしら。
ここでアンケートをとったらどれくらいの人数が私を悪いと判断するのだろう。私は変わらなきゃいけない。だって、そうしないと死んでしまう。この一つ一つの積み重ねが将来の私に影響を与えるのかもしれない。
「…………一昨日、追い出した、えーと………ライラは………」
「ライラでございますか!?」
ローズが驚いた声を出す。
私はそれに気まずくなりながらもドレスの上で手をギュッと握った。
「あの……ライラ………に」
謝りたい、でいいのだろうか。
でも私は公爵令嬢だ。そんな簡単に謝っていいの?プライドと見栄と、謝るべきタイミングをはかりかねて私はだんだん訳が分からなくなってきた。唇を噛んで、私は怒鳴るようにローズに聞いた。
「今!ライラは何してるの!?」
「えっ………えーと、ライラは今街におりて仕事を探している………と」
「仕事は見つかりそうなの?」
聞くとローズはやはり困ったような、わがまま娘を見る目で私を見た。そして私の方に少しあゆみながら答えてくれる。
「どうなのでしょう。難儀しているかとは思いますが………それよりセシリア様。朝ごはんは召し上がらないのですね?お腹は減っておりませんか?」
「え?お腹………そ、そうね。減ってる…………」
ローズの質問に私は自分の空腹具合を知る。
でも朝ごはんなんて何を食べればいいか分からない。普通の朝ごはんって何かしら。
朝ごはん、と言うとイメージ的にはスクランブルエッグとか、サラダとか、パンとスープのイメージ。私はちらりと時計を見た。お昼ご飯まではあと4時間ほど。
………我慢できるかな?
「お、お昼ご飯食べるから………いい。それより、さっきの。あの、ライラに、も、……………」
それを口にするのは、なかなかに難しい事だった。だって、恥ずかしい。それに、今更って思われそう。プライドと見栄が邪魔をして、小さな声になってしまった。ローズの顔が見れない。
「戻ってきて…………ほしい」
「え!?」
「そう、伝えて!!おきゅ、お給料とか、お金のことはお父様に何とかしてもらうわ!!」
「えっ、あの、セシリア様!」
「私、蔵書室に行ってくる!!」
ローズの顔を見ることが出来ず、私はそのまま部屋を飛び出した。食堂を出ると近くの廊下を濡れ布巾で拭いていた侍女がびっくりした顔でこちらを見ていた。この侍女は…………。綺麗な金髪で、それが『夢の中の』私は羨ましくて、レイは金髪が好きなのかもしれないと何故か焦って、彼女の髪を切ったことがある………。
それに気づいて私は青ざめた。
侍女は不思議そうな顔をしている。私はなんていえばいいのか分からず、逃げるようにその場を立ち去った。
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