悪女だと言うのなら、その名に相応しくなってみせましょう

ごろごろみかん。

文字の大きさ
7 / 12

悪女

しおりを挟む

リアの毒婦、毒花。
税を使い潰す天才。
欲深い思想家。
鈴蘭令嬢。

そして、自身に愛を向けられないミレイユを揶揄して魔女メディアとも彼女は密かに笑われた。彼女が夜会に出席すればご機嫌取りのように擦り寄ってはくるものの、彼女のいないサロンや音楽会、舞踏会、パーティでは彼女の名をあえてそのようにして蔑んだ。
褒められた人生ではなかっただろう。
聖女かと言われれば、それは恐れこそ抱けどその通りと答えられるはずがない。

「どうせ一度は捨てた身ですもの」

愛を追い求めて死んだミレイユ。
それならば次は、愛など求めなければいい。
やり直しをするのが神の慈悲だと言うのなら、その慈悲の心を持ってして、ミレイユは雪辱を果たすべきだ。
彼女はじっと立ち尽くし、長いこと考えをめぐらせていたが、やがて決意する。

「みなが私を悪女だと言うのなら。よろしいわ。その名に相応しくなってみせましょう」

ミレイユは呟くと、そのまま聖堂へと向かった。
内気で大人しく、気も弱い彼女は神に誓わなければうっかり意志を曲げてしまいかねないからだ。悪女になるのだと、決めた。それに付随する覚悟と気合い、そしてそれに求められる度量は彼女の想像以上かもしれない。だけど、やるしかないのだ。
そのために、ミレイユは時戻りをしたのだから───。

その日のミレイユの食事はロザリアが騒ぎ立てたように無いものとなった。腹は空いたが、これで泣き寝入りをしていれば元の阿弥陀だ。何も変わらないことになる。
ミレイユは飛び出しかねない心臓を抑えて、使用人の集う支度部屋へと向かった。彼女がそこに向かうのは初めてのことだ。彼女は寒々しい廊下を歩きながら、誰も彼もがミレイユを批判しているような、彼女の行動を責めるような目をしているような気がしてならなかった。気弱で神経の細い彼女は興奮のあまり、自分が舞台女優にでもなったかのような錯覚にすら陥った。しかし、この時ばかりはそれで良かったのだろう。
自分が悪女役を担うミレイユだと思えば、何だかなんでも出来るような気がしたのだ。やるのはミレイユではない。彼女に命を吹き込まれた、名もない悪女。
ミレイユはそっと支度部屋を覗いた。薄明かりの中、誰もいなかった。そのことにミレイユは肩を落とした。女であれば彼女の役は果たせないが、男すらいなかったのは計算違いだったのだ。予想外のシナリオは悪女に与えていない。
ミレイユがふう、と息を吐いたときだった。

「支度部屋になにかご用事ですか?」

「きゃ……」

驚きのあまり手に持っていたランプを落としそうになったミレイユはそれを抱え込むようにして、振り返る。そこにいたのはミレイユと同年代だろう、青年が立っていた。
ミレイユがいることに怪訝な顔をしている。当然だ。
彼女は震えそうになる冷たい手を握りしめて、彼に話しかけた。

「あなた、お名前は?」

「ユンヴィーノです」

ランプをやや掲げて持つと、上背のある青年の顔が鮮明になる。光に照らされた彼は眩しそうに顔を顰めた。
明かりが反射して色が分からないが、整った顔立ちをしている。巻き毛の彼は童顔で、もしかしたらミレイユよりもずっと年上かもしれなかった。

「ユンヴィーノ。私を助けて」

「一体何を……」

「このままでは私はこの家に殺されるわ。あなたも知っているでしょう。この家の人たちは普通じゃないの。お母様が亡くなってから、私の居場所はなくなってしまったわ……」

ミレイユが突然身の上話をすれば、ユンヴィーノは焦ったようにあたりを見回した。

「落ち着いてください。こんなところ、奥様やお嬢様に見られたら困るのはミレイユ様の方でしょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載しております。

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

愛されなくても、大丈夫!

夕立悠理
恋愛
――だって、私が一番、私を愛しているから。  望まれて嫁いだはずだった。  小国の第三王女である、ビアンカは帝国の皇帝リヴェンに嫁ぐ。この婚姻は帝国側から、ビアンカをわざわざ指名してのものだ。  そのため、皇帝はビアンカを望んでいるのだと考えていた。  しかし、結婚式を終えて迎えた、初夜。  皇帝はビアンカに告げる。 「――お前を愛することはない。だから、俺からの愛を望むな」  ……でも、そんなことを言われてもビアンカは全然平気だった。  なぜなら、ビアンカは―― 「私の神もひれ伏す美しさに恐れおののいたのかしら? まぁ、いいわ。私以上に私を愛せる人など、やはりいなかったわね」 超がつくほどナルシストだった!  そんなナルシストな皇后ビアンカのハッピー新生活。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

侯爵夫人は離縁したい〜拝啓旦那様、妹が貴方のこと好きらしいのですが〜

葵一樹
恋愛
伯爵家の双子姫の姉として生まれたルイ―サは、侯爵である夫との離縁を画策していた。 両家の架け橋となるべく政略結婚したものの、冷酷な軍人として名高い夫は結婚式以来屋敷に寄りつかず、たまに顔を合せても会話すらない。 白い結婚として諦めていたルイーサだったが、夫を伴い渋々出席した実家の夜会で驚くべき事態に遭遇する。 なんと夫が双子の妹に熱い視線を送り、妹の方も同じように熱い視線を夫に向けていたのだ。 夫の興味が自分に無いことは残念だったけれど、可愛い妹の恋路は応援したい! ならば妻の座を妹と交代し、自分はひっそりと、しかし自由に生きていこうではないか。 そうひっそりと決心したルイーサは、一通の書置きと妹に宛てた書簡を残し姿を消そうと試みた。 幸いにも自分には相続した領地があり、そこに引きこもれば食うに困ることはないだろう。 いざとなれば畑でも耕して野菜でも作り、狩りをして暮らそう。 しかしいざ屋敷を抜け出そうとすると、屋敷の主である侯爵が追いかけてくる。 自分に興味もなく忙しいくせになんで邪魔をするのかと怒るルイーサ。 あの手この手で脱走を試みるルイーサだったが、次第に侯爵の不器用さに気づき始め――。 果たしてルイーサは脱走を成功させることができるのか。 じれじれ両片思いの行方はどうなるのか。

処理中です...