悪女だと言うのなら、その名に相応しくなってみせましょう

ごろごろみかん。

文字の大きさ
12 / 12

あの方 2

しおりを挟む
「きみはシューザルトのご令嬢でしたね。付き添い人は?」

「え、ええ……」

何がええ、なのか分からないが、未だに混乱冷めやまないミレイユは唖然としたまま顔を上げていたが、すぐに状況を理解したように顔を伏せた。
あれだけ警戒して避けようとしていたのに、よりによってスティール公爵と接点を持ってしまった。ロザリアに知られたら後がめんどうだ。

「はぐれてしまいまして。先程はありがとうございました」

「そうか。一階に行けばいたるところに侍女と侍従がいるだろう。声をかけて連れて行ってもらうといい」

「はい」

ミレイユはひとまず笑みを作ってその場を抜け出すように彼の脇を通り過ぎた。スティール公爵はミレイユを一階まで連れていこうとしているのか、彼女の後ろを歩いた。
ミレイユは内心歯噛みしていた。二階席があんなみだらな会場になっていたとは知らなかったが、どうにかしてあの場にいるであろう男爵を探さなければならない。ミレイユはふと、どうせならとスティール公爵に尋ねることにした。

「公爵」

「?」

スティール公爵はちらりとミレイユを見るのみで返事はしなかった。ミレイユは続けた。

「ブレイソン男爵がどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」

「ブレイソン男爵ですか?失礼ですが、彼に何か用が?」

要するに、用がないなら近づくなと言いたいのだろう。ブレイソン男爵の女癖と酒癖の悪さは社交界でも有名だった。ミレイユは首を振って答える。

「いいえ。あの方は怖いので……近くに行かないようにしなければと。どちらにいらっしゃるの?」

「彼は一階席の奥の方で賭博でもやってることだろう。しばらく会場には顔を出さないんじゃないか?」

「そうなのですね。ありがとうございます」

ミレイユの狙いは外れていた。
スティール公爵に聞いてよかった。彼に聞いたのは、どうせこの後も接点などないのだし、聞けるなら聞いとこうと思った結果であり、対して期待はしていなかったのだが、思いがけない情報を入手した。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

彼女は彼の運命の人

豆狸
恋愛
「デホタに謝ってくれ、エマ」 「なにをでしょう?」 「この数ヶ月、デホタに嫌がらせをしていたことだ」 「謝ってくだされば、アタシは恨んだりしません」 「デホタは優しいな」 「私がデホタ様に嫌がらせをしてたんですって。あなた、知っていた?」 「存じませんでしたが、それは不可能でしょう」

この世で彼女ひとり

豆狸
恋愛
──殿下。これを最後のお手紙にしたいと思っています。 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

処理中です...