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あの方 2
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「きみはシューザルトのご令嬢でしたね。付き添い人は?」
「え、ええ……」
何がええ、なのか分からないが、未だに混乱冷めやまないミレイユは唖然としたまま顔を上げていたが、すぐに状況を理解したように顔を伏せた。
あれだけ警戒して避けようとしていたのに、よりによってスティール公爵と接点を持ってしまった。ロザリアに知られたら後がめんどうだ。
「はぐれてしまいまして。先程はありがとうございました」
「そうか。一階に行けばいたるところに侍女と侍従がいるだろう。声をかけて連れて行ってもらうといい」
「はい」
ミレイユはひとまず笑みを作ってその場を抜け出すように彼の脇を通り過ぎた。スティール公爵はミレイユを一階まで連れていこうとしているのか、彼女の後ろを歩いた。
ミレイユは内心歯噛みしていた。二階席があんなみだらな会場になっていたとは知らなかったが、どうにかしてあの場にいるであろう男爵を探さなければならない。ミレイユはふと、どうせならとスティール公爵に尋ねることにした。
「公爵」
「?」
スティール公爵はちらりとミレイユを見るのみで返事はしなかった。ミレイユは続けた。
「ブレイソン男爵がどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
「ブレイソン男爵ですか?失礼ですが、彼に何か用が?」
要するに、用がないなら近づくなと言いたいのだろう。ブレイソン男爵の女癖と酒癖の悪さは社交界でも有名だった。ミレイユは首を振って答える。
「いいえ。あの方は怖いので……近くに行かないようにしなければと。どちらにいらっしゃるの?」
「彼は一階席の奥の方で賭博でもやってることだろう。しばらく会場には顔を出さないんじゃないか?」
「そうなのですね。ありがとうございます」
ミレイユの狙いは外れていた。
スティール公爵に聞いてよかった。彼に聞いたのは、どうせこの後も接点などないのだし、聞けるなら聞いとこうと思った結果であり、対して期待はしていなかったのだが、思いがけない情報を入手した。
「え、ええ……」
何がええ、なのか分からないが、未だに混乱冷めやまないミレイユは唖然としたまま顔を上げていたが、すぐに状況を理解したように顔を伏せた。
あれだけ警戒して避けようとしていたのに、よりによってスティール公爵と接点を持ってしまった。ロザリアに知られたら後がめんどうだ。
「はぐれてしまいまして。先程はありがとうございました」
「そうか。一階に行けばいたるところに侍女と侍従がいるだろう。声をかけて連れて行ってもらうといい」
「はい」
ミレイユはひとまず笑みを作ってその場を抜け出すように彼の脇を通り過ぎた。スティール公爵はミレイユを一階まで連れていこうとしているのか、彼女の後ろを歩いた。
ミレイユは内心歯噛みしていた。二階席があんなみだらな会場になっていたとは知らなかったが、どうにかしてあの場にいるであろう男爵を探さなければならない。ミレイユはふと、どうせならとスティール公爵に尋ねることにした。
「公爵」
「?」
スティール公爵はちらりとミレイユを見るのみで返事はしなかった。ミレイユは続けた。
「ブレイソン男爵がどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
「ブレイソン男爵ですか?失礼ですが、彼に何か用が?」
要するに、用がないなら近づくなと言いたいのだろう。ブレイソン男爵の女癖と酒癖の悪さは社交界でも有名だった。ミレイユは首を振って答える。
「いいえ。あの方は怖いので……近くに行かないようにしなければと。どちらにいらっしゃるの?」
「彼は一階席の奥の方で賭博でもやってることだろう。しばらく会場には顔を出さないんじゃないか?」
「そうなのですね。ありがとうございます」
ミレイユの狙いは外れていた。
スティール公爵に聞いてよかった。彼に聞いたのは、どうせこの後も接点などないのだし、聞けるなら聞いとこうと思った結果であり、対して期待はしていなかったのだが、思いがけない情報を入手した。
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