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あの方
しおりを挟む会場入りすれば周りの探るような視線がミレイユを突き刺したが、ミレイユは毅然と前を向いていた。ロザリアと夫人は挨拶回りをしに行ったが、ロザリアはひとり残された。
ロザリアはパーティ会場を見渡した。流石に盛大な夜会なだけあって、二階席まで用意されているようだ。広さも普通の夜会の二倍はある。
ここから例の男爵を探すのは骨が折れるが、ミレイユはあたりを付けて二階席へと向かった。
たいてい、こういう二階席が設けられている場合、二階席は貴族と女優が楽しむ場になることが多い。男爵はそこにいるだろうと踏んで見てみると、しかし意外にも男爵がそこにいるかは分からなかった。分からない、というのも二階席自体があやしげな雰囲気を醸し出しており、恥ずかしげもなく女優はましろい太ももをあらわにしている。つまり、行為のための場となっているのだ。初めて二階席を訪れたミレイユはまさか会場でそんな淫猥なことが行われているとは思わなかったので、息を飲んだ。
照明がギリギリまで落とされ、一階からは手すりの辺りしか見えないような設計になっているためか、奥まったボックス席では男女の絡み合いと息遣いが聞こえてくる。
固まったミレイユに気がついたのは、ミレイユ同様に二階席へと上がってきた貴族だった。
「ん?女優にしては随分地味な格好だが……きみは?」
「私は……」
この中で男爵を探すのは難しいどころか、ミレイユもまたこの淫猥な場に巻き込まれかねない。ミレイユが困っていた時、第三者の声がした。
「私の連れです。どうやら迷い込んでしまったようで」
「え?あ、ああ!スティール公爵。あなたが?ここに?」
その名前に驚いたのはミレイユも同じだった。
振り返れば、フロアから二階席に入り込んでくる例の公爵がいた。彼はミレイユをちらりと見ると、口元にだけ笑みを浮かべた。
「彼女を探していたんです。見つけてくださって感謝します、ミスター……?」
姓を探るようなスティール公爵の言葉にミレイユに声をかけた男は慌てたように言った。
「いやいや、それなら良かった。では私はこれで」
こんな場で名前を知られるなど冗談ではない、といった様子で男は急いで二階席の奥へと消えていく。残されたミレイユはぽかんとしながらスティール公爵を見上げた。彼は男が居なくなると、ミレイユを見て目を眇めた。夜会で女性相手によく見る、感情の籠ってない視線だ。
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