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信じることと理由
「あんたのような女って?」
「少なくとも、俺の知る彼女は大人しく、静かでーーー雨のような人だった」
「雨って」
詩的なのかなんなのか。思わず呆れた声を出すと、しかしすぐにルアヴィスは私を睨むように見た。どうやら疑われているようである。
まあ、確かにルアヴィスの言う通りよね。前までは『静かで大人しくて夫の言葉に全て従う良妻』を演じていたのだもの。夫の前とは限らずこの十七年間ずっとそう生きてきた。
だからこそ、私は変わりたかった。それがいいことなのか悪いことなのかまだ分からない。今はこうする以外私はすべを知らない。
「それはつまり、暗かったって言いたいのかしら」
「違う。静かで穏やかで、いつも凪いだ目をしていた。しっとりとした雰囲気の、全てを受けいれそうな。そんなあんたが俺は………」
「何よ?」
不意に言葉を切るルアヴィスに思わず聞くと、ルアヴィスは苦虫を噛み潰したような声で続けた。
「嫌いじゃなかったよ。………だけど今のあんたからはそういう雰囲気を感じられない。見た目はそっくりだが………あんたは誰だ?」
いや、本当に?私を疑ってるわけ?
これは私が過去の自分と決別したという証拠なのか、それともそれほどまでに私は変わってしまったのか。いいことなのか悪いことなのか………。いや、いい事ということにしておこう。自分が変わらなければ何も変わらない。私は足掻いてても未来を変えてみせる。
「全く、失礼ね。私はテレスティア・レベーゼよ。確かに過去、そういう風に装ったことがあるわ。だけどあれ全部、演技よ」
「は………?」
「あなたが“嫌いじゃなかった”テレスティアはもういないの。ここにいるのは自分本位で自分勝手なテレスティア・レベーゼよ。私は自分の目的のためなら手段を選ばないわ。そうやってみすみす死にたくないの」
「………?悪いけど、あんたが何を言っているかさっぱりわからない」
ルアヴィスの訝しむような、疑うような視線が突き刺さる。私はそれに苦笑して足を組んだ。時刻はもう夕飯前だ。そろそろ邸に戻らないと怪しまれてしまう。
「別にそれはいいのよ、それより。さっき言ってたわね。一箇所爆破すると、それだけで王都が崩れかねない部分………それはどこ?」
「それを答えて、あんたに悪用されない保証がどこにある?」
「確かにそれは無いけど、ひとつ確実なのは私があなたの秘密を知っているということ。信じて、とは言わないわ。だから、私は無理矢理にでもあなたから聞き出す」
言うと、ルアヴィスは迷うように瞳を揺らした。
そして、長い沈黙の後つぶやくように答えた。
「【第三聖技術棟】。………あそこには、代々国の防波堤を作る結界の礎が置かれている。あの部分を爆破でもされようなら王都は乱れかねないな」
「意外とあっさり答えるのね」
私が意外そうに言うと、ルアヴィスは顔を上げた。その拍子にフードが僅かに落ちる。彼の空色の瞳と、まつ毛にかかる黒色の前髪が見える。仮面を着用しているせいか、ルアヴィスの肌はとても白い。そして彼は中性的な美貌を併せ持っている。黒玉色の長いまつ毛に、切れ長の瞳。
仮面なんてしてなければ別の意味で有名人となっていただろう。
ともすれば髪型を少しかえ、お化粧をしたら女性でも通用するのではないかと言うほどには………いや、背があるから無理かしらね。
そんなことを考える私に、ルアヴィスはつぶやくように言った。
「別にあんたを信じたわけじゃない。………ただ、あんたの話に思うところがあっただけだ」
「……あら、思うところって?」
「あんたの話が本当だとして、納得のいくところが一つだけあった。ただそれだけだ」
「ああ、そう」
それ以上ルアヴィスは言うつもりはなさそうだったので、それで私も引き下がった。
その日は、すぐに娼館を出て、街の途中でシェリアと合流し邸宅へと戻った。久しぶりの外出は、とても疲れた。
「少なくとも、俺の知る彼女は大人しく、静かでーーー雨のような人だった」
「雨って」
詩的なのかなんなのか。思わず呆れた声を出すと、しかしすぐにルアヴィスは私を睨むように見た。どうやら疑われているようである。
まあ、確かにルアヴィスの言う通りよね。前までは『静かで大人しくて夫の言葉に全て従う良妻』を演じていたのだもの。夫の前とは限らずこの十七年間ずっとそう生きてきた。
だからこそ、私は変わりたかった。それがいいことなのか悪いことなのかまだ分からない。今はこうする以外私はすべを知らない。
「それはつまり、暗かったって言いたいのかしら」
「違う。静かで穏やかで、いつも凪いだ目をしていた。しっとりとした雰囲気の、全てを受けいれそうな。そんなあんたが俺は………」
「何よ?」
不意に言葉を切るルアヴィスに思わず聞くと、ルアヴィスは苦虫を噛み潰したような声で続けた。
「嫌いじゃなかったよ。………だけど今のあんたからはそういう雰囲気を感じられない。見た目はそっくりだが………あんたは誰だ?」
いや、本当に?私を疑ってるわけ?
これは私が過去の自分と決別したという証拠なのか、それともそれほどまでに私は変わってしまったのか。いいことなのか悪いことなのか………。いや、いい事ということにしておこう。自分が変わらなければ何も変わらない。私は足掻いてても未来を変えてみせる。
「全く、失礼ね。私はテレスティア・レベーゼよ。確かに過去、そういう風に装ったことがあるわ。だけどあれ全部、演技よ」
「は………?」
「あなたが“嫌いじゃなかった”テレスティアはもういないの。ここにいるのは自分本位で自分勝手なテレスティア・レベーゼよ。私は自分の目的のためなら手段を選ばないわ。そうやってみすみす死にたくないの」
「………?悪いけど、あんたが何を言っているかさっぱりわからない」
ルアヴィスの訝しむような、疑うような視線が突き刺さる。私はそれに苦笑して足を組んだ。時刻はもう夕飯前だ。そろそろ邸に戻らないと怪しまれてしまう。
「別にそれはいいのよ、それより。さっき言ってたわね。一箇所爆破すると、それだけで王都が崩れかねない部分………それはどこ?」
「それを答えて、あんたに悪用されない保証がどこにある?」
「確かにそれは無いけど、ひとつ確実なのは私があなたの秘密を知っているということ。信じて、とは言わないわ。だから、私は無理矢理にでもあなたから聞き出す」
言うと、ルアヴィスは迷うように瞳を揺らした。
そして、長い沈黙の後つぶやくように答えた。
「【第三聖技術棟】。………あそこには、代々国の防波堤を作る結界の礎が置かれている。あの部分を爆破でもされようなら王都は乱れかねないな」
「意外とあっさり答えるのね」
私が意外そうに言うと、ルアヴィスは顔を上げた。その拍子にフードが僅かに落ちる。彼の空色の瞳と、まつ毛にかかる黒色の前髪が見える。仮面を着用しているせいか、ルアヴィスの肌はとても白い。そして彼は中性的な美貌を併せ持っている。黒玉色の長いまつ毛に、切れ長の瞳。
仮面なんてしてなければ別の意味で有名人となっていただろう。
ともすれば髪型を少しかえ、お化粧をしたら女性でも通用するのではないかと言うほどには………いや、背があるから無理かしらね。
そんなことを考える私に、ルアヴィスはつぶやくように言った。
「別にあんたを信じたわけじゃない。………ただ、あんたの話に思うところがあっただけだ」
「……あら、思うところって?」
「あんたの話が本当だとして、納得のいくところが一つだけあった。ただそれだけだ」
「ああ、そう」
それ以上ルアヴィスは言うつもりはなさそうだったので、それで私も引き下がった。
その日は、すぐに娼館を出て、街の途中でシェリアと合流し邸宅へと戻った。久しぶりの外出は、とても疲れた。
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