〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。

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灯台もと暗し

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 いつまでも森に潜んでいる訳にもいかない。
 回復したとはいえ、まだ歩くことすらままならない。
 今の状況が全く分からないロベートはどう動くべきなのか考えあぐねていた。
 ティナに言って、村人から近くの辺境駐屯所に伝令を出してもらうべきか。彼がそう考えていた時だった。
 
 彼の部下が現れ、木の幹にもたれかかるロベートを見て安堵のあまり膝をついた。
 あれから、残った部下のひとりが単独行動を行い、辺境伯領まで戻ると護衛を引き連れて、ロベートを捜索していたとのことだった。王城にも報せを届け、父王もロベートの安否を気にしているだろう、と彼は続ける。
 
「賊は取り逃しましたが、もうあのような遅れは二度ととりません。参りましょう、ロベート殿下」
 
 部下の言葉にロベートは頷こうとしたが、なにか気がかりでもあるように黙り込んでしまう。
 
「殿下?」
 
「……明日の昼でも構わないか?しばらく、馬車旅になるだろう?少しでもいいから休息を取っておきたい」
 
 それは無茶苦茶な意見だと自分でもわかっていた。休息を取るなら、こんな野外ではなく馬車の中で横になった方がいい。辛いのなら、馬車を飛ばして近くの宿に向かい、休息を取ればいい。
 分かっていたが、どうしてもロベートは最後にティナに別れの挨拶を告げたかった。
 初めての友達に楽しげに話す彼女に別れを言うこともせず、ここを去るのは気が咎めたのだ。
 ロベートの言葉に部下は考え込むような顔をしたが、やがてため息をついた。
 
「……分かりました。お別れの挨拶は済ませてくださいね」
 
 どうやら、彼の部下は彼が何をしたいのかもお見通しのようだった。その日のうちに、ロベートは暖かい服を用意され、ティナの作った怪しげな薬もどきではなく、正規品の高い傷薬と解熱剤を口にした。部下が近くで火を起こし、簡単に夕食も作ってくれる。
 ここ数日に比べれば、かなりの高待遇だ。
 
 だが、ロベートは高い薬より、ティナの小さな手でせっせっと怪しげな葉を塗りつけてくれる方が好きだし、美味い料理より、咀嚼に時間のかかる黒パンの方が良かった。
 
 しかし無理を言って明日まで待たせているのはロベートの方だ。
 森という環境下で、それでも出来るうる環境を整えてくれる部下に彼は礼を言った。部下は驚いた顔をしたがすぐに「殿下のためですから」と短く返した。
 
 ロベートはその時初めて気がついた。自分は、周り全員を敵だと思いこみ、壁を作っていたが、ロベートを大切に思うものは彼が考える以上に多くいるのだ。それを知ると、今までの態度が恥ずかしくなってくる。きっと、部下たちからしたら、ロベートのひねくれた態度は少年期の反抗期に見えたことだろう。
 
 その日は、近くで部下が見張りをする中、彼は眠りについた。明日、ティナに会えたら王都に戻ることを伝えよう。
 そして、また必ず会いに来ることも。
 だからその時を待っていて、と彼は伝えるつもりだった。伝えようと思っていたのだ。
 
 しかし次の日。
 いくら待ってもティナは来なかった。
 陽が傾き、昼を過ぎても兎耳の少女は現れない。ぎりぎりまでロベートはティナを待っていたが、部下に声をかけられてようやくその場を離れた。
 毎日昼にはロベートに会いに来ていた彼女だが、彼女にだって生活がある。なにか用事があったのだろう。ロベートは、彼女に手紙を残していきたかったが、ティナはきっと文字が読めない。
 ティナが訪れるまで待ちたかったが、既に無理を言って出発を遅らせれている。
 それに、昨夜からロベートは発熱していた。昼になり、多少熱は下がったものの、また夜を迎えればさらに発熱は酷くなるだろう。
 これ以上引き伸ばすのは無理だと思った彼は、結局ティナに何も残すことが出来ずにそのまま森を去った。
 
 馬車に乗り込み、案の定熱が上がり始めた。
 彼は背もたれに背を預けながらも、今後の予定を頭に描き始めていた。まずは、ティナだ。
 村娘に過ぎない彼女を迎えるには、じゅうぶんな環境が必要になる。そのためには、ロベートは力が必要だった。
 侮られないだけの力が。
 
 王城に戻ると、ロベートは母に泣かれ父からは強い抱擁を受けた。顔を合わせた兄はほっとしており、家族に心配をかけたことは一目瞭然だ。
 彼は確かに狐の獣人で、他者から侮られ、軽んじられているが、家族からは確かに愛されているのだ。それを強く自覚したロベートは、三人に頭を下げた。
 
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。今後このようなことは無いよう、私自身、剣の腕を磨き、体術を身につけ、知識を己がものとするよう精進いたします」
 
 彼らは驚いたようだった。
 ロベートは表面上、言いつけに逆らうことはなく命じられた通りに行動する王子だったが、いつも返事は不貞腐れていて、「はい」「分かりました」の二択だったのだ。表立って王子らしからぬ振る舞いをすることはなかったが、いつだって彼はなにかに腹を立て、自身を取り囲む全てを敵と見ているようなところがあった。
 その彼が、心を入れ替えたように優秀な返答をしたことに彼らだけではなく、控えていた騎士やメイドすら驚いていた。
 
 それから、ロベートは自身の言葉通りまずは自身の近衛騎士に稽古をつけてもらい、自身も騎士団に入団し、新人と共に下積みから訓練を重ねた。帝王学や政治の勉強にも身を入れ、歴史と政策を正しく把握していく。
 彼は、王城に居場所を作らねばならなかった。
 いつまでも、国王の息子である王子、という立場には甘えていられない。
 いずれティナを迎えに行くことを考えたら、彼は彼自身が社交界に居場所を作り、その存在を認めさせる必要があった。
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