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灯台もと暗し 2
しおりを挟むしかし、頑張りすぎて王位を狙っているのかと勘ぐられては面倒なので、彼は適宜、調整を行う。
国議の見学に行くことはしなかったし、社交界で関わりを持つのも中立派か王政派の人間のみにする。
ロベートを王位に、と企む人間はことごとく王に密告し、然るべき対策を講じるよう忠言する。
その際、何度も「私に王位は不要です」と口にしたことで、王は彼が王位を負担な冠に感じていると思ったのだろう。
その誤解を良いように利用したロベートはさらに「私に玉座はふさわしくありません。ですが、家族として兄を支えるだけの器量はあるつもりです」と囁いた。
三年が経ち、ロベートは十七歳になった。
三年前、辺境の地で彼を襲った賊を捕え、彼は復讐を果たした。捕らえられた男たちを尋問にかけると、彼らはロベートの予想通りの答えを口にした。
獣人は、外の国に売りつければかなりの金額になる。彼らは、攫っても問題になりずらいβの人間ばかり狙っていたが、βは数が少なすぎて見つけるのに時間がかかる。
手間も時間もかかりすぎるβを狙うより、辺境を訪れると耳にした第二王子を|標的(ターゲット)にした方が、得る金もβの比ではなくなる。第二王子といえど、所詮狐の獣人だし、スペアであることも踏まえて大掛かりな捜索がかけられると思わなかったのだろう。
おおむね予想通りの言葉を吐いた男たちを、彼は必要な情報だけ聞き出すとそうそうに処分した。
手を下すのは一瞬だった。それで、彼のあの日の復讐は果たされてしまった。
三年かけて彼はようやく社交界に居場所を作った。
国王の息子ではなく、第二王子ロベート・ロランとして社交界に名を浸透させる。まだ地盤は磐石とは言い難いが、それでも彼女をこれ以上長くあの村に置いてきたくなかった。
ロベートが当時の記憶を頼りに村に行き、ティナを迎えに行くと、しかしそこでは思わない言葉を伝えられた。
「ティナディア……?ああ、あの子ならつい先日、村から出しましたわ」
突然やってきた王子に村長は慌てふためいていたが、Ωの娘を紹介することを忘れない。Ω特有のフェロモンにロベートは眉を寄せて堪えていたが、ティナの所在を尋ねて、ようやくかえってきたのが先の言葉だった。
「出ていった?」
「はい。あの子になにか……?」
呼び出された母親と思わしき中年の女性は、赤子を抱いていた。手を離せない時期なのだろう。えっ、えっ、と泣く赤子からはαを誘惑する甘い香りがした。
──Ωだ。
瞬間、彼は理解した。
ティナは、βだから虐げられていたと話した。彼女の話では、兄弟姉妹が出てくることもなかった。おそらく一人っ子だったのだろう。
しかし、ティナのり両親──夫婦にΩの子が生まれた。Ωが生まれた夫婦は、ティナが成人する前に村から追い出したのだろう。
自分で産んだ子を、たかがβだからと放逐するのか。
ロベートは怒りで視界が真っ赤になった。
すぐに踵を返し、村を去ろうとするロベートを、ティナの母親が引き止めた。
身分ある人間に声をかけるのは礼儀に反する。しかし、こんな人里離れた村ではそんな礼儀も伝わっていないのだろう。
怒りを堪えて振り返るロベートに、何かを思ったのか母親はしきりにまだ赤子の娘を王子に紹介した。その目は、社交界で彼がよく目にする、なにかを期待する目だった。
「……Ωですね」
「ええ!そうなんです。王子様はαとお聞きしました。良かったら少し抱いてやって──」
「ここにティナがいたのなら、私はあなたに娘を貰い受けたいと願い出て、あなたは私の義理の母となっていたかもしれない。それが叶わず残念でなりません」
無表情に吐き捨てたロベートの言葉に固まったのは、ティナの母だけではない。村長も、その横に立つ娘もそうだった。
目を見開く彼らを強く睨みつけると、今度こそロベートは足を止めることなく村を後にした。
ティナが村を出た。行先も分からない。
こんなことなら、もっと早くに迎えに来ればよかった。彼はそう思うが、後悔したところでもうティナは村にいないし、彼女の居場所は分からないのだ。
それでも、彼は諦めることが出来なかった。
彼女に会いたい。その一心で、彼は王に願い出たのだ。
「王族の影である暗殺部隊に入りたい」と。
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