悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。

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何もかも、嫉妬で片付ける旦那様


「はぁ……だから、お前のそれは、つまるところ嫉妬だろ?僕はお前と結婚した。それでいいだろ。それでも不満か?」

(……はあ?)

その瞬間、私の中に微かに残っていた何かが確実に失われた。ぷちん、とほんの僅かに張り詰めていたそれが、切れたのだ。

それと同時に、理解もした。た。
ああ、このひとは私を分かろうとする気は無いんだわ、と。
そもそも対話する意味が無い。

「──……」

彼の言葉になにか返そうと思っていたのだが、それすらもばからしくなってくる。

私は今、旦那様の公的行事での振る舞いについて指摘していた。なぜなら、彼は夜会がある度に、自身の恋人をエスコートする。
彼が、ほかの女性を愛するのは構わない。私も、それを咎めようとは思わない。

なぜなら、ひとの気持ちは強制できるものではないからだ。

だけど、だからといってその振る舞いを許容することもできなかった。

私たちは、貴族だからだ。

公的行事で、夫婦ではなく、恋人を伴って参加する。どう考えてもマナーに反している。
彼は、夜会で恋人をエスコートし、マナーを無視する度に家の品格が失われていることに気がついていないのだろうか。つい先日、かの公爵に咎められたばかりだと言うのに。

だから、私は彼と話し合うことにした。
そして、『せめて入場時は私と一緒にいるようにお願いします』という言葉への返答がこれ。

【嫉妬】。

(……ああ、はい。そう。あなたは、私の言葉全てをくだらない【女の嫉妬】へと転換してしまうのね。取りに足らない、たかが悋気とばかにしている)

これでは、私がいくら話しても伝わらないわけだ。だって彼は、もとから私の話を聞く気がないのだから。
うんざりした私は、対話を諦めて部屋を出ようとした。ここは、彼の執務室だ。

この後、いつものように恋人の暮らす別邸に向かう前に、彼を呼び止めたのだった。今となっては、それは無意味だったと思わざるを得ない。

(お父様に相談して、口添えしてもらおうかしら……?それとも、あの方に直接言う?いやそれは、悪手か)

黙って踵を返した私に、彼が呼び止めた。

「待て!おい……フローレンスになにかする気ではないよな?」

フローレンス、とは彼の恋人の名前。

(はぁ……?)

いい加減にしてくれ。

(今話しているのは、そういうことではなかったでしょう)

私が対応を考えて欲しいのは、彼の公的行事での振る舞いであり、彼の恋人の話は一切していない。

くるり、振り返る。
私の冷えた瞳から怒りを感じ取ったのだろう。彼が、少し狼狽えた。

「……旦那様──いえ、ジェラルド様は、私がどうしてこんなにも悩んでいるのか、まったく分かっていらっしゃらないのでしょうね」

「だから、それは僕のことを……!」

「それ、本気で仰ってますの?本気で、私が悋気からこんな行動をしている……と?私、あなたに愛の言葉を囁いたことも、あなたに愛を求め、懇願したことも、一切ないように思いますけれど。私たちは、契約上の夫婦であり、それ以上でもそれ以下でもない。それは、ジェラルド様がいちばん理解してくださっているものだと思っておりましたが」

言ってから、しまった、言い過ぎた、と反省した。
しかし、それまでずっと言われっぱなし──いや、話の通じない相手と対話を試みていたのだ。

回りくどい言い方では、彼にまた誤解されるだけである。

『僕のこころを得られないから、悔しいんだろう。嫉妬は見苦しいぞ』

とか、とんちんかんなことを言われるだけである。
私の言葉に、ジェラルド様が息を呑む。サッと顔に朱が走ったのは、辛辣に言い返されたことへの、屈辱か。

彼は、見た目通り気がとても強い。華やかな容姿をしているだけあって、自尊心が山のように高いのである。
加えて、彼は由緒正しい家柄の嫡男。私のような、成り上がりものにこのような口を聞かれるのは、さぞ耐えられないのだろう。

知ってはいても、だからといって譲歩する気は無い。彼と結婚して、私もこの家──ルーゼン伯爵家の人間になったのだ。
当主である彼が、誤った行動をしているのなら、それを咎め、支えるのが妻の役割だと思っている。

私がじっとジェラルド様を見ていると、彼は私の視線に気が付き、ハッと笑い飛ばした。

「無理しなくてもいい。お前が僕のことを好きなのは、よく知っている」

(話が通じない……)

何なのだろうか。前から私の言葉を斜め上に解釈する性質のひとではあったが、いつからこんなに話が通じなくなってしまったのだろうか。
彼にとって、私が彼を好きなのは絶対的なことであり、崩れない事実らしい。

好きだの嫌いだの、くだらないことで押し問答するつもりはなかった。
彼の言葉を無視して部屋を出る。私の名を呼ぶ声が聞こえたが、それには聞こえないふりをさせてもらった。
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