悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。

文字の大きさ
6 / 9

ある意味、似たもの同士

しおりを挟む
──翌日。

朝の支度を整えていると、扉がノックされた。

(メイドかしら……?)

そう思って誰何しようとしたところで。

「失礼します……!」

と、聞き覚えのある声とともに、扉が開かれた。 

「……!?」

驚きのあまり、固まってそちらを見る。そこには、しっかり朝の支度を整え終わった、フローレンス様が。

(なぜここに……)

というか、私は今まさに支度中なのだけど。
いやその前に、まだ入室の許可を出していないのだけど私は……??

(……入ってきてしまったなら仕方ないか)

私は手に持っていた櫛をドレッサーの前に置いた。
いつも、私は自分の支度は自身で行う。フェリアの家でもそうしていたし、他人に体を触れるのは苦手だった。髪は編んでおらず、下ろしたままだ。

フローレンス様は、胸と肩の開いた桃色のドレスに身を包んでいた。相変わらず、寒そうな格好だと思う。せめて、ショールくらい羽織った方がいいのではないだろうか。

「……おはようございます」

彼女に尋ねると、なぜか彼女は狼狽えた様子だった。
私を、上から下まで眺めて──。

「か、髪を下ろすとずいぶん雰囲気が変わるんですね……っ!」

彼女の言葉に、私は首を傾げた。
確かに私の髪は長い。長いが、貴族の女などみんなこんなものだろう。
現に、フローレンス様だって長い。

(ああ、でも……)

彼女は、いつも髪を下ろしてるな……。

「そうでしょうか?まとまりにくい髪質なので、毎朝大変です」

「毎朝……。自分でされてるんですか?メイドは?」

彼女は、そこで気がついたのだろう。
部屋に、私しかいないことに。
私は彼女の疑問に軽く頷いて答えた。

「ええ。ひとりでやる方が手早くできますから」

「そ、そうなの……。…………あ、あのっ!」

そこで、彼女は思い詰めたように言った。
いつもちいさな声で話す彼女が、こんな大声を出すのは初めて聞いた。少しびっくりしていると、彼女はもじもじと胸の前で指を絡めながら言う。

「昨日は……ごめんなさい。ジェラルド様が……あの、勘違いして」

「──ああ」

そう言えば、彼には『フローレンス様を泣かせた』と責められたのだった。

(……結構強めに鳩尾を打ってしまったけど、そっちは大丈夫かしら?)

ふと気になったので、それとなくメイドに確認にておこう。そう思いながら、私はフローレンス様に答えた。

「構いません。誤解は解けましたか?」

「えっ……」

「何はともあれ、彼には場を弁えてもらいたいものです。一度思い込むと、向こう見ずな性格……あれ、どうにかならないのでしょうか」

尋ねると、フローレンス様はさらに狼狽えたようだった。困惑した彼女を見て、彼女に言っても仕方ないのないことか、と思い直す。

「……なんでもありません。話はそれだけですか?支度を進めたいので、話が済んだら出ていって──」

と、言ったところで。
ドスドスという荒い足音が聞こえてきた。

嫌な予感がする。
そして、得てして嫌な予感というのは当たってしまうものだ。
いや、この場合外しようもないか。

次の瞬間、バンッ!と勢いよく部屋の扉が押し開かれる。そこにいたのは、予想通りジェラルド様である。

「…………」

フローレンス様もそうだけど、どうしてどいつもこいつも勝手に部屋に入ってくるのだろうか。
まず入室の許可を取るのが礼儀だし、そもそもこんな朝早い時間にひとを訪ねるのがおかしい。

ジェラルド様は怒り心頭といった様子で、ギッと私睨みつけてきた。

「おい、ルナマリア!!フローレンスが……フローレンス!?それに……お前、ルナマリアか……?」

勢いよく私の名を呼んだわりに、その勢いはみるみるうちに萎んでいく。まさか、部屋にフローレンス様もいるとは思っていなかったのだろう。
彼はフローレンス様を見て、そしてまた私に視線を移す。
なにやら信じられないものでも見るような目だが、信じられないのはこちらも一緒だ。

さすがにうんざりとして、ため息を吐く。

「……おはようございます、ジェラルド様」

「あ、ああうん」

さっきまでの勢いはどこにいったのか。
失せたのならそれでも構わないが、どちらにせよ早く──。

「見てお分かりかと思いますが、私は今支度の途中です。淑女の支度途中の部屋に乱入するなど、紳士のすることでしょうか?」

つまり、意訳すると。

『早く出ていけ』

である。
私の冷えた声と冷めた視線に、ジェラルド様は一歩後ずさった──が、当初の目的を思い出したようだった。

「いや!そんなことよりも、僕には大事な用がある。お前、フローレンスになにか妙なことを言ってないだろうな!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元妃は多くを望まない

つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。 このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。 花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。 その足で実家に出戻ったシャーロット。 実はこの下賜、王命でのものだった。 それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。 断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。 シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。 私は、あなたたちに「誠意」を求めます。 誠意ある対応。 彼女が求めるのは微々たるもの。 果たしてその結果は如何に!?

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

〖完結〗真実の愛が欲しいという旦那様と結婚した私は……

藍川みいな
恋愛
「俺は、真実の愛が欲しいんだ……」 結婚式当日、結婚相手のリック・ダイアン様がそう言いました。他の女性ばかり目で追って、私には一切興味を示しません。 ダイアン伯爵家には、多額な借金があり、お父様がその借金を返済するという条件で、私達は結婚することになったのですが、妻になる私の名前さえ知らなかったリック様。この人とこの先一緒に暮らしていかなければならないなんて…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全10話で完結になります。

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵家の令嬢だったシアには結婚して七年目になる夫がいる。 夫との間には娘が一人おり、傍から見れば幸せな家庭のように思えた。 が、しかし。 実際には彼女の夫である公爵は元メイドである愛人宅から帰らずシアを蔑ろにしていた。 彼女が頼れるのは実家と公爵邸にいる優しい使用人たちだけ。 ずっと耐えてきたシアだったが、ある日夫に娘の悪口を言われたことでとうとう堪忍袋の緒が切れて……! ついに虐げられたお飾りの妻による復讐が始まる―― 夫に報復をするために動く最中、愛人のまさかの事実が次々と判明して…!?

【完結】いつも私をバカにしてくる彼女が恋をしたようです。〜お相手は私の旦那様のようですが間違いはございませんでしょうか?〜

珊瑚
恋愛
「ねぇセシル。私、好きな人が出来たの。」 「……え?」 幼い頃から何かにつけてセシリアを馬鹿にしていたモニカ。そんな彼女が一目惚れをしたようだ。 うっとりと相手について語るモニカ。 でもちょっと待って、それって私の旦那様じゃない……? ざまぁというか、微ざまぁくらいかもしれないです

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...