【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。

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二章:宝石姫と魔女

宝石姫を辞める方法

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「宝石姫を辞めたいって?」

「この力はあまりに強大すぎて、私では扱いきれません。私には過ぎた力です。それに……この力は不要な争いを招くでしょう。私は、普通の人間になりたい」

「あんたの言い分もわかる。だけどなぜ、それをあたしに願う?あたしが、あんたの願いを聞く義理はないと思うけど?」

「ええ。ですから、交渉に来たのです。悪魔憑きの魔女。あなたは不可能だとは言わなかった。なら、なにか考えがあるのでは?」

「……………」

魔女は答えなかった。おそらく、その通りだったのだろう。だから、私はさらに彼女に問う。

「どうしたらこの依頼を受けていただけますか?」

その質問に、彼女は諦めたようにため息を吐く。そして、両手を広げ、肩を竦めた。

「さぁね。それを考えるのは依頼人であって受け手あたしじゃない」

続けて、彼女は手で払う仕草を見せた。

「要件はそれだけかい?ならもう今日は店仕舞いだ。さっさと帰んな」

「元々開店してないよね?」

魔女はリアム殿下の言葉に答えない。

「今代の宝石姫。ルシア・ステアロン」

顔を上げると、彼女はさらに言った。

「確かにあんたの言う通りだ。宝石姫を辞める方法はある。ただし、それは人を辞めるのと同義だ」

「……教えてくれるのですか」

「教えるのはここまでだ。後はあんたが考えるんだね。あたしには、これ以上言えない」

彼女は人差し指で私の胸元を指し示した。

「よく考えな。あんたが宝石姫を辞めたらどうなるか。何が起こるか。あんたが目指すものは?あんたは何がしたいのか」

「なぞかけのようなことを仰るのですね」

「そりゃあ、あたしは悪魔憑きの魔女だからね。人を惑わすのがあたしの性分だよ」

蠱惑的に微笑んで、魔女はそう言った。
そしてそのまま彼女は踵を返す。

(……最後まで、素顔を見ることは出来なかったわ)

魔女の家の扉は木でできている。取っ手を掴み、扉を開くと室内の様子が少し見えた。

(外から見るよりもずっと、広く見えるわ……)

魔女の力によるもの、なのかしら。
物理法則など存在していないかのような魔女の家。ばたん、と扉が閉められて、その場に静寂が広がった。沈黙しているとリアム殿下が肩を竦め、言った。

「……ひとまず、山を降りようか?恐らくもう、彼女は出てこない」

「随分、親しいのですね?我が国の魔女と」

一体、どういう関係なのだろうか。そして、リアム殿下の目的は?彼は宝石姫に何の用があるのだろうか。
真意が読めない彼から距離を取って尋ねると、リアム殿下が首を傾げ、微笑んだ。

「……疑ってる?あなたの言いたいこともわかるよ。聞きたいこと、気になること、たくさんあるでしょう。下山がてら、答えよう」

「ではまず、ひとつよろしいですか?」

「うん?」

振り向いた彼を見て、私は尋ねた。

「王子殿下は、おひとりですか?」

「……どうして?」

「おひとりでいらっしゃった、というのならあまりにも不用心すぎるかと思います」

「あは。心配してくれてる?」

掴みどころのない彼に、私は首を横に振った。

「国民として当然の考えです。もしこのベリアで、あなたの身に何かあれば、それは両国の火種に繋がります」

「たしかに。あなたの言う通りだね。だけど安心して。ちゃんと護衛はつけているし、それに、俺は死なない」

「なぜ、そう言い切れるのです?」

リアム殿下ははっきりと『俺は死なない』と言った。まるで、確信でもあるかのように。訝しげに見ると、リアム殿下が片目を瞑って見せた。

「そういう未来だから」

「からかってます?」

「まさか。とりあえずさ、宝石姫。山を降りようよ。一雨来そうだ」

その言葉に顔を上げると、確かに空には重たい曇天がかかっていた。今にも雨が降りそうだ。

(雨の匂いがする……)

山は天気が崩れやすいという。早くに移動しないと、降られてしまうだろう。私は彼の言葉に頷いて、ひとまず山を下りることにした。

「魔女の家はさ、すっごい分かりにくい場所にあるけど悪路ではないよね。現に、あなたのような箱入りのご令嬢でも到達可能だ」

「……そうですわね。確かに、少し意外でした」

魔女の家は非常にわかりにくい場所にあるが、その道のりは険しくない。舗装されていない獣道を歩くのは僅かで、魔女の家は遊歩道のすぐ近くだ。

遠くから、唸るような雷鳴が響く。急がなければ、すぐにでも降られてしまうだろう。
急ぎ足で進みながら答えると、リアム殿下が興味津々、といった様子でさらに尋ねてきた。

「あなたはどうやって魔女の家に辿り着いたの?まさか、手当たり次第に探し回ったのかな」

「そうですね。それより、先程の話です」

顔を上げたと同時、頬に雨粒が当たった。
雨が降り出した。

「あなたの目的は何ですか?さっきははぐらかされてしまいましたが……あなたは私に、宝石姫に何を求めているのでしょうか」

足を止めてリアム殿下に尋ねると彼も同様に、立ち止まった。沈黙は一瞬で、すぐに彼は苦笑を浮かべた。

「助けたい……と言ったら、烏滸がましいか。俺はね、宝石姫。あなたに協力したいんだ」

「協力?」

答えたところで、凄まじい落雷の音がした。

ガッシャアアアアァン!!という、耳を劈くような破壊音。目を見開くと、遠くでバリバリバリ、と裂けるような音がした。

(今のバリバリバリって音……もしかして……)

続いて、ドーーーーン……という重い音が響く。
恐らく、木に雷が直撃したのだろう。木に落雷して、倒木したのだと思う。
音は近かった。つまり。

(……この近くに落雷しても、おかしくない?)

直撃したら間違いなく死ぬ。それを察した同時、恐らくリアム殿下も同じことを考えたらしい。彼は真顔になって言った。

「とりあえず移動しよう。俺は死ぬ運命にはないけど、楽観的な人間ではないんだ。とにかく急いで降りよう?いいね?宝石姫。話はあとだ。よし行こう」

リアム殿下は私の返答を待つことなく、そのまま早足で歩き始めてしまった。私の手首を掴み、問答無用と言わんばかりに走り出す。

「えっ、ちょっ……ひとりで歩けます!」

「いいから!滑って転落したらそれこそ死ぬぞ!」

「っ……」

たしかに彼の言う通りだ。彼の言葉には同意見だったので、私はそのまま彼の先導に従い、山を降りたのだった。
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