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三章:宝石姫を失った代償
あの日のこと ②/ウィリアム
しおりを挟む十五歳になり、ウィリアムは私立学園に入った。
十五歳を迎えた王侯貴族の男子は必ず入学することが決められていて、ウィリアムもその例に漏れなかった。あまりいないが、男子と同じように学びたいと希望する女子も入学することがあって、それが彼女、キャサリンだった。
キャサリン・ステファニーはステファニー公爵家の次女で、上に姉ひとり、兄ひとりがいる。姉は既に既婚者、兄に至っては妻子がいる。ステファニー公爵は本来、彼女をウィリアムの婚約者にさせたかったそうだ。
ルシアを宝石姫という立場から解放させたい。だけど、そのための手段……あるいは、代替案見つからない。
現在、我が国の財政が宝石姫頼りなのはその通りだ。宝石姫の生み出す宝石の代わりとなる、ベリアの特産品が必要だ。
だけどそれは、すぐに生み出せるわけではないし、意図的に生み出すのは至難の業だ。
ふと、父王の顔を思い出す。言うだけなら誰でも出来る、という言葉が浮かんできた。……確かにその通りだ。
ウィリアムは、資料室に足を運ぶと他国の特産品を纏めた資料をパラパラと捲っていた。
(大抵のものは、既に他国が特産品化している。付け焼き刃では間違いなく適わない。なにか……なにか、ベリアでしか出来ないこと、付加価値をつける方法は……)
……待てよ?
その時、ウィリアムはひとつ閃いた。
ベリアは宝石姫頼りの国だ。裏を返せば、ベリア王家は宝石採掘に本格的に乗り出したことはない、ということになる。
昔、もしかしたら一部では採掘していたのかもしれないが、ルシアという宝石姫が現れた以上、王家主導ではやっていないはず。
(貴族は……貴族はどうだ?)
調べると、王家自体が国内での宝石採掘を禁じる法を制定していたことを知った。施策開始時期は、今から二百七十年前。
つまり、前の宝石姫が死んでから十年後、ということになる。恐らく王家は、自国の宝石を占有するためにこの法案を打ち立てたのだろう。
(それなら、この二百七十年のうちに掘り尽くしたか……?)
だけど『ベリアの宝石といえば宝石姫の生み出したレッドダイヤモンド』
そう言われるほど、ベリアのレッドダイヤモンドは有名だ。
市場に出回るのはレッドダイヤモンドだけ。他の宝石は出回らない。それはなぜか?
(……採掘できなかった?)
あるいは、価値をつけられないほど酷い品質だったのか?
さらに調べてみれば、二百七十年前、発掘調査や地質調査の結果をまとめた資料が出てきた。
しかしそこには──
(なるほど。宝石採掘のため、調査を行ったものの今まで宝石姫頼りだったのもあり、めぼしい専門家がいなかったんだな)
宝石姫が死去したことで宝石を生み出せない災難に見舞われているなど、他国に相談できるはずもない。そういった理由で、ベリアは自国の力のみで何とかしようとした結果、大規模な崩落事故が起きた。
国庫が苦しい中の、大規模な事故に王家は対応できず……結果、手付かずのままになったらしい。また、採れた宝石も品質が低く、とても宝石姫の生み出す宝石代わりにならなかったそうだ。
(考えることは誰も同じか)
パタン、と資料を閉じ、ウィリアムは目を瞑ってゆっくりと考えた。
以前失敗したのは、十分な準備の不足、そして正しい知識を持つ専門家がいなかったからだろう。
(ベリアには、地質学に詳しい専門家はいないだろうな)
興味があっても他国に留学し、そのままその国に根付いて帰らないものも多いだろう。
もし、コンタクトをとるなら他国に滞在しているベリア出身の専門家か。
それと──
(採掘を本格的にやるなら準備……金が必要になる)
ウィリアムは目を開けた。
採掘を行いベリアの特産品とするなら、政策予算程度の資金が必要だ。自分だけで動かせる金には限りがある。父王の許しなく、莫大な国庫を動かすことなどできるはずがない。
自費を投下しても、到底、政策予算には足りない。
(……そうなると、誰か巻き込む必要がある)
それも、力を持つ貴族か、あるいは金満家が望ましい。
(とはいえ、ベリアの貴族はみな、宝石姫を消費することに何も思わないやつらばかり)
当たるなら聖職者の線か。やつらは本気で宝石姫を崇拝している。宝石姫が搾取されていると知れば、行動を起こす可能性は高い。
(だが『それが宝石姫の役割だ』と諭される可能性も、もちろんある)
後者なら、すぐにでも父王の耳に入ることだろう。そうなってしまえば、ウィリアムにもう次のチャンスはない。
しかし、王家と教会は仲が悪い。
ウィリアムがコンタクトを取ったところで、どう転ぶか未知数だ。
それなら、もっと的確な手を取りたい。
例えば──そう、共犯者を作る、とか。
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