【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。

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三章:宝石姫を失った代償

あの日のこと /ウィリアム

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雨の音がする。
憂鬱な気持ちで、ウィリアムは目を覚ました。朝はいつも、憂鬱だ。自分が犯した罪を、いやでも自覚するから。
彼はそのままベッドから身を起こすと、靴を履いて窓際に向かった。カーテンを開くと、予想通り土砂降りの雨だった。

『ねえ、彼女を助けてあげましょう?私たちが、彼女を【宝石姫】の役割から解放するの』

始まりは、彼女のその言葉だった。


あの頃、ウィリアムは悩んでいた。

ある時、彼は宝石姫の責務を知ってしまった。自ら、肌に刃を入れて血を流し、宝石を生み出す【宝石姫】。ベリア国は、宝石姫をまるで女神か何かのように、偶像のように扱う。
彼がその価値観の乖離に気がついたのは、ちょうど彼女の役割を知り、その行為を父王に批判した時だった。
次の謁見まで時間がある。その時間を狙い、彼は玉座の間で父王に訴え出た。

『あんなことは即刻やめさせるべきです!ルシアに自傷行為を強いるなど……!!なぜ、そんな非道な真似ができるのですか!!』

ウィリアムの言葉に、父王は眉を寄せた。
そして、理解し難い言語でも耳にしたかのように、顔を顰めて見せた。

『お前は何を言っている?』

『ですから……』

『もしや、お前なりの冗談ジョークか。はは、それは良い!!お前は至って真面目な王太子だと言われているからな。遊び心があるのはよいことだ』

『父上……!!』

意に介さない王の言葉、振る舞い、表情にウィリアムは苛立ちを見せた。
どうして伝わらない。彼は本気で、訴えているというのに。王は冗談で済まそうとしている。

いや、冗談に違いない、と思っているのだ。王太子がそんな世迷言を本気で言っていると、王は思いたくないのだろう。
ウィリアムが声を荒らげると、王は唖然とした様子だった。とんでもない愚者か、馬鹿を見る目だ。
そして王はこめかみを抑えると、うんざりとした声で続ける。

『ウィリアム。お前はベリア国の王太子だ。私の跡を継ぎ、このベリアを守る責務がある』

『……はい』

突然何を言い出すんだ、とウィリアムは訝しく思った。王は肘掛に肘をのせると額を抑えた。

『……お前の言っていることは、川や海から魚をとるな、牛の乳絞りをやめろ、と言っているようなものだ。時々そういうおかしなやつらが現れるのは世の常だが……王太子がそれとは、嘆かわしい』

『ルシアを……彼女を、家畜扱いすると言うのですか……!!』

怒気のあまり声を荒らげるウィリアムに、王は落ち着け、とでも言うように手を前に差し出した。

『そうではない。宝石姫とは、そういう在り方なのだと言っている。隣国に天使信仰があるように、我が国は宝石姫を尊重している。ウィリアム、彼女を我々と同じ人間と思うな。彼女は特別だ。我々と同じ物差しで図るなど……それこそ、無礼というもの』

『ただの……おためごかしではありませんか。それらしいことを仰っていますが、結局のところは、自国の利益のために彼女を搾取しているということでしょう!』

その言葉が、王の逆鱗に触れた。恐らく図星だったのだろう。いいように言っても、結局のところ彼らは自身の行いを正当化しているに過ぎないのだから。
宝石姫ルシア本人の承諾がなければ、それはただの搾取に過ぎない。王は王杖を大理石の床に叩きつけると、王太子を怒鳴りつけた。

『控えなさい、ウィリアム。宝石姫には、見返りに相応の立場と権力を与えているだろう!これはステアロン伯爵家も同意していることだ!出しゃばるのはやめなさい!』

二百八十一年振りに現れた宝石姫だ。
これを逃せば、次にいつ現れるか分からない。

二百八十一年前、当時の宝石姫が死去した直後、しかし呑気な王侯貴族たちはまた宝石姫が現れるだろうと考え、湯水のように金を使った。
その負債が、今も残っているのだ。

今の王家の金銭事情は、ハッキリ言ってかなり危うかった。
収入より支出の方が多いのだ。
税収を釣り上げたせいで小規模とはいえ、各地でクーデターが起きているのも、理由のひとつだった。クーデターを抑えるために軍備費用も重なり、王家は宝石姫を手放せない。

宝石姫の生み出す宝石は、ベリア産の宝石として世界的に価値が高い。特に、宝石姫の生み出すレッドダイヤモンドは最高品質とされ、金持ちの間で高値で取引されている。
ベリア産のレッドダイヤモンドは透明度が高く、血のように濃い色をしている。
この特徴は、世界各国を探してもベリア産……つまり、宝石姫でしか生み出せないものだった。

抱えた負債を解消するためにも、王は効率よく宝石姫を使わなければならなかった。
そのため、宝石姫を解放するなどという王太子の案は論外。そんなことしたら、ベリアという国は破産してしまう。

ウィリアムはよっぽど反論したかったが、そうしたところで王は話を聞かないだろう。それどころか、異端者扱いされて軟禁される可能性すらある。それを考えたウィリアムは、この場は引き下がることにした。

『……分かりました。父上の意に、従います』

その言葉に、王に一旦は安心したらしい。本心はどうあれ、納得しようとしているウィリアムに安堵したのかもしれなかった。途端、王は髭を撫でながら満足気に言った。

『お前もいずれ分かる時がある。宝石姫は、我が国の女神だ』

(……何が女神だ)

どうせルシアを使い潰して、利用することしか頭にないくせに。
一方的で勝手な王の意見にうんざりした。
だけど、ウィリアムには表立って王の政策──つまり、宝石姫の解放を訴えることは出来なかった。
王太子の身では、王に逆らえない。王を説得するどころか、この様子では、異常者と判断され、廃太子にされる可能性すらあった。
王と王妃の間にはウィリアムしかこがいないのでその可能性は低いだろうが……

(父上は何としてでもルシアを使い尽くそうとしている)

それこそ、彼女の血の一滴まで利用しようとしているのだ。
邪魔するならたとえ息子といえど、彼は何をするか分からない。
自分が殺され、影武者が用意されるかもしれない。

(……僕に出来ることはなんだ?今、僕ができることは)

以前会った彼女の顔色の悪さを思い出す。刃物に怯えている様子だった。怖がっているし、怯えてもいた。だけど責務だからと、彼女は気丈に役目を果たそうとするのだろう。

……至って、正気ではない。

少女ひとりに国の命運を託す王も、それを良しとする、この国も。

ルシアがいなくなったら、国は潰れる。負債があるからだ。……それなら、その負債をどう解消するか?

課題は多い。だけど必ず、彼女を宝石姫から解放するのだと、ウィリアムは自身に誓った。そのためなら、手段は選ばない、とも。
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