28 / 29
三章:宝石姫を失った代償
時が戻る前の、話
しおりを挟む
リアム殿下の言葉に、私は瞬いた。
首を傾げ、言葉を繰り返す。
「私の?」
「うん。どこから話そうかな……我が国には天使と悪魔、という信仰があることは話したよね。それで、天使の愛し子がいわゆるベリアの宝石姫であることも伝えたと思う」
頷いて返すと、それを見たリアム殿下が人差し指を立てる。彼は、キッチンの台に背を預けるようにして立ちながら、話を続けた。
「その愛し子を守る立場にあるのが──いや、少し違うな。サミュエルを守る責務があるのが預言者。言葉のとおり、預言者だ」
「……預言者?未来がわかるということですか?」
「未来がわかる、というより、追体験をする、という方がイメージとしては近い。預言者というのは、天使の愛し子が生まれない時も常に現れるものなんだ。前代の預言者が死んだら、その翌年、あるいは数年後に新たな預言者が現れる。そういうふうになっている」
「……愛し子を守る立場にあるのに、愛し子がいなくても生まれる?いえ、まずはひとつ、お聞かせください。その話をするということは、今代の預言者は、リアム殿下なのですか?」
その質問に、彼は軽く頷いた。つまり、正解ということだろう。
「その通り。今代の預言者は、俺だよ。その未来で、俺は見たんだ。あなたが殺され、両国間で戦争となる、その未来を」
「…………」
にわかには信じにくいことだけれど、確かにリアム殿下の話は筋が通っていた。預言者という立場だから未来を知っていて、私が殺される未来を知っていて、さらにその先をも彼は知っている。
(……かなり超常現象的だけど、それを言うなら私の体質の方がもっとおかしいもの)
そういうこともあるのだろう、とここは納得すべきだ。そう思った私は、ひとまずサミュエル側の事情を整理することにした。
「あなたの責務はサミュエルを守ること、と仰いましたね。つまり、私を死なせないことが間接的にサミュエル国を守ることになる、ということですか?」
「ひとまずはそうだね。少なくとも、あなたが王太子に殺されなければ戦いの火蓋は切られない」
「……あなたも、あの未来にいたということ?」
「同じ場所にはいなかったけど、同じ世界にはいた、という認識で構わないよ。あの時、俺は、あなたの殺害に魔女が手を貸したと聞いて、魔女に話を聞きに行く途中だった」
「…………」
まさか、前世──と言って正しいのかは分からないけれど。あの時の記憶を持つ人が今の時間軸にいるとは思わなかった。
自分が死んだ後の話を聞けるなんて、滅多にない機会だろう。
息を呑んで話を聞いていると、リアム殿下はグラスを手に持ったまま、ふたたび椅子に座った。つまり私の対面の席だ。
「魔女は基本的に不介入、無干渉を貫いている。少なくとも俺たちサミュエルの認識はそんなものだ。その彼女が、わざわざ宝石姫の殺害に手を貸した。それはなぜか?彼女自身が宝石姫に興味があるからだ」
「…………なぜ、魔女は王太子に、彼に協力したのだと思いますか?」
ずっと気になっていたことだ。それが今、わかるだろうか。
その質問に、しかしリアム殿下は首を横に振って答えた。
「分からない。だから、宝石姫の成り立ちになにか手がかりがあるんじゃないかと思って、予知から戻った俺は魔女にコンタクトを取ることにした。これが、こっち側の事情だよ」
「……未来で、あなたは魔女と話をしたのですか?」
もう存在しない未来。
だけど確かに、私が身をもって体験した記憶。
あの時、彼女は明確に私を殺すための手助けをした。彼女はなぜ、私を殺す協力をしたのだろう。……私を殺したかった?
先程会った時の彼女からは、殺意は感じられなかった。私を見た彼女からは驚きと……僅かな、憐憫?同情?そんなものを感じた。勘違いかも、しれないけれど。
沈黙して考え込んでいると、リアム殿下があっさりと言った。
「それが話せなかったんだよね。未来で俺は、ベリア国の騎士に殺されちゃったから」
「…………はっ!?」
彼は、軽い調子でとんでもないことを口にした。
驚いて思わずバッと勢いよく顔を上げると、困ったように苦笑するリアム殿下と目が合った。
首を傾げ、言葉を繰り返す。
「私の?」
「うん。どこから話そうかな……我が国には天使と悪魔、という信仰があることは話したよね。それで、天使の愛し子がいわゆるベリアの宝石姫であることも伝えたと思う」
頷いて返すと、それを見たリアム殿下が人差し指を立てる。彼は、キッチンの台に背を預けるようにして立ちながら、話を続けた。
「その愛し子を守る立場にあるのが──いや、少し違うな。サミュエルを守る責務があるのが預言者。言葉のとおり、預言者だ」
「……預言者?未来がわかるということですか?」
「未来がわかる、というより、追体験をする、という方がイメージとしては近い。預言者というのは、天使の愛し子が生まれない時も常に現れるものなんだ。前代の預言者が死んだら、その翌年、あるいは数年後に新たな預言者が現れる。そういうふうになっている」
「……愛し子を守る立場にあるのに、愛し子がいなくても生まれる?いえ、まずはひとつ、お聞かせください。その話をするということは、今代の預言者は、リアム殿下なのですか?」
その質問に、彼は軽く頷いた。つまり、正解ということだろう。
「その通り。今代の預言者は、俺だよ。その未来で、俺は見たんだ。あなたが殺され、両国間で戦争となる、その未来を」
「…………」
にわかには信じにくいことだけれど、確かにリアム殿下の話は筋が通っていた。預言者という立場だから未来を知っていて、私が殺される未来を知っていて、さらにその先をも彼は知っている。
(……かなり超常現象的だけど、それを言うなら私の体質の方がもっとおかしいもの)
そういうこともあるのだろう、とここは納得すべきだ。そう思った私は、ひとまずサミュエル側の事情を整理することにした。
「あなたの責務はサミュエルを守ること、と仰いましたね。つまり、私を死なせないことが間接的にサミュエル国を守ることになる、ということですか?」
「ひとまずはそうだね。少なくとも、あなたが王太子に殺されなければ戦いの火蓋は切られない」
「……あなたも、あの未来にいたということ?」
「同じ場所にはいなかったけど、同じ世界にはいた、という認識で構わないよ。あの時、俺は、あなたの殺害に魔女が手を貸したと聞いて、魔女に話を聞きに行く途中だった」
「…………」
まさか、前世──と言って正しいのかは分からないけれど。あの時の記憶を持つ人が今の時間軸にいるとは思わなかった。
自分が死んだ後の話を聞けるなんて、滅多にない機会だろう。
息を呑んで話を聞いていると、リアム殿下はグラスを手に持ったまま、ふたたび椅子に座った。つまり私の対面の席だ。
「魔女は基本的に不介入、無干渉を貫いている。少なくとも俺たちサミュエルの認識はそんなものだ。その彼女が、わざわざ宝石姫の殺害に手を貸した。それはなぜか?彼女自身が宝石姫に興味があるからだ」
「…………なぜ、魔女は王太子に、彼に協力したのだと思いますか?」
ずっと気になっていたことだ。それが今、わかるだろうか。
その質問に、しかしリアム殿下は首を横に振って答えた。
「分からない。だから、宝石姫の成り立ちになにか手がかりがあるんじゃないかと思って、予知から戻った俺は魔女にコンタクトを取ることにした。これが、こっち側の事情だよ」
「……未来で、あなたは魔女と話をしたのですか?」
もう存在しない未来。
だけど確かに、私が身をもって体験した記憶。
あの時、彼女は明確に私を殺すための手助けをした。彼女はなぜ、私を殺す協力をしたのだろう。……私を殺したかった?
先程会った時の彼女からは、殺意は感じられなかった。私を見た彼女からは驚きと……僅かな、憐憫?同情?そんなものを感じた。勘違いかも、しれないけれど。
沈黙して考え込んでいると、リアム殿下があっさりと言った。
「それが話せなかったんだよね。未来で俺は、ベリア国の騎士に殺されちゃったから」
「…………はっ!?」
彼は、軽い調子でとんでもないことを口にした。
驚いて思わずバッと勢いよく顔を上げると、困ったように苦笑するリアム殿下と目が合った。
498
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を
桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。
政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。
二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。
だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。
聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。
その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。
やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく……
ーーーーーーーー
初作品です。
自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる