〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。

文字の大きさ
18 / 18
4.お久しぶりです、旦那様

白魔道士カレンのお店にようこそ!

しおりを挟む
「疫病神……」

「ああ、この世界では、悪魔とか、魔女とか、そういった言葉の方が伝わるか?とにかく、家に災厄を運んでくる存在だ。私は、あれのせいで大損した」

異世界だから、その言葉の意味がよく伝わらないと思ったのだろう。彼は、更に言葉を付け加えた。

「千代……愛人は、殺人容疑で捕まるし、高階とは縁を切られた。さんざんだ」

「愛人が捕まったのですか?」

「ああ、そうだ。彼女は勝手に転んで・・・・・・頭を打って死んだと言うのに、千代が犯人にされてしまった。いくら金を積んでも、起訴は避けられなかった。ああ、こちらで言うと、罪人にされた、というニュアンスに近いのかな」

「伝わりますから大丈夫ですわ。……そうですか、千代さんが」

「……千代、さん・・?」

正一さんが目を見開いた。

私は、カップを持ちながら静かに、だけど決定的なことを口にした。

「私を殺したのは、あなたですのにね」

「お前……やっぱり……!!」

「お言葉に気をつけてくださいませ。今の私は、カーター家の娘であり、白魔道士カレンです。あなたにお前、と呼ばれる字波花恋ではありません」

「──」

正一さんは絶句して、私を凝視している。
私は、居住まいを正すと、彼をじっと、真っ直ぐに見据えた。

「異世界召喚というのは、魔道士たちの縁を辿って行うものなんですって。魔導師たちの中で、最も私が、異世界と縁深かった。……そして、あなたは、私の人生を左右するほど私に関わりがあった。だからこそ、あなたが選ばれたのでしょうね」

数秒して、彼は私の言っていることを理解したようだった。
怒りのあまり吃りながら、彼が怒鳴る。

「ふざ……ふざけるな!!今すぐ、私を日本に返せ!!この……!!」

正一さんが飛びかかってこようとして、控えていた侍女が悲鳴をあげた。
テーブルの上に身を乗り出したものだからポッドやカップと言った茶器が倒れ、中身が零れた。
慌てて侍女のひとりがひとを呼んでくるために退室した。
それを横目で見て、私は正一さんに言った。

「また私を殺しますか?」

「ふざけるな!!俺はお前のせいで全てを失った!!絶対に許さないぞ!」

「許さない……それは、本来は私の言葉だと、なぜ思いませんの?」

私が字波 花恋だった時。
正一さんには様々なことを言われたし、された。
その中でも最も許せなかったことが──。

母の形見である着物を、勝手にひとにあげようとしたこと。

ほかの全ては、私も悪かったのだと水に流すことが出来る。

だけど、あれだけはどうしても。
どうしても……許せそうにない。

こうして話して、初めて私は気がついた。
私はまだ、花恋として怒っているのだということに。

侍女たちはてんやわんやで、正一さんを止めようとしているが、激昂した彼はテーブルの上を全て薙ぎ払った。

ガシャン、と音がし、カップがテーブルから落ちる。
カーペットが敷かれているので、割れてはいないだろう。
私は正一さんをじっと見据えた。視線は、逸らさない。

「花恋……!お前のせいで!!」

ついにテーブルの上に乗り上げ、私に掴みかかってこようとした彼に──私は、カップの中の液体を彼の頭にかけた。

パシャ!という音と共に、紅茶が彼の頭にかかった。
紅茶は既に冷えていて、ぬるま湯だ。
熱くて火傷することは無いだろう。

頭から紅茶を被った正一さんは、驚きに目を見張る。
それを見て、私は意図的に大きな声を出した。

「まあ!たいへん失礼いたしました!」

ひっくり返したカップをゆっくりと戻して。
私は優雅に微笑んだ。

「……異世界からのお客様が、とても取り乱されましたので、つい。落ち着いていただこうとして紅茶をかけてしまいました」

「……っ」

ギリ、と正一さんが歯ぎしりした。
目は充血していて、怒りのあまり顔は真っ赤に染まっていた。

「私を誰かとお間違えのようですわね?何度も申し上げますが……私は、カレン・カーター。あなたの仰る、花恋ではありませんわ」

私は、確かに過去、字波花恋ではあったけど、今の私はカレン・カーターだから。

(さようなら、元旦那様)

字波 花恋だった時の私は、ただ、あなたに怯えていた。
あなたに嫌われるのも、あなたに蔑まれるのも、嫌だった。
ビクビクと怯え、機嫌を損ねないように生きる日々。

今の私は、字波花恋ではない。
私は、アイライド帝国に生きる、白魔道士カレンだ。

正一さんはそれからも様々な暴言を口にしたが、それら全てを私は聞き流した。

そして、侍女に連れられて近衛騎士と神官がやってくる。
侍女に事情聴取を行った彼は、ある予測を立てた。

【恐らく、異世界からの客人、ショーイチ・アザナミはこころに何かしらの闇を抱えている】……と。
本人が聞いたら憤怒しそうな仮説を。

どうやら、控える侍女たちは、正一さんを止めることに必死で、私の言葉まで聞いていなかったようだ。
彼女たちは、正一さんがいきなり私に飛びかかったと証言した。
そして、彼は私を妻だと思い込んでいるようだ、とも。

もう彼とは会うこともないだろう。
私は、彼の指導係を外れることになった。

私の代わりに、マシュー様が黒魔術の専属指導係に決まったそうだ。
白魔術の専属指導係は、老齢の女性──熟年の白魔道士となった。
若い女性だと、彼が妻だと思い込む可能性があるため、と言う理由からだった。

(もはや、彼を信じるひとはもういないでしょうね……)

まさか、『カレン・カーターは前世、彼の妻だった』なんて。

(だけど……)

ほんの少し、彼には同情する。
正一さんはあれから、【異世界からの客人は、白魔道士カレンに一目惚れし、拗らせてしまった】と噂されるようになってしまったからだ。





私は、王都の自分の店に戻ると、足元にすり寄ってきた愛猫を抱き上げた。

「ただいま、スピカ!いい子にしていた?」

腕に抱いたスピカからは、変わらずお日様の香りがする。きっと、また日向ぼっこを楽しんでいたのだろう。

「ん~~~相変わらず、可愛いわねぇ。どうしてこんなに可愛いの?」

そんなしょうもないことを愛猫に話しかけていると。
店のカウンター窓がノックされた。

私はそれに気付くと、スピカを彼女の定位置である揺り椅子に降ろし、カウンターへと向かう。
そして、いつものように声をかけるのだ。


「いらっしゃいませ、白魔道士カレンのお店にようこそ!」





fin
しおりを挟む
感想 26

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(26件)

名無しさん。

打ち切りENDみたいな終わり方で呆気にとられた。

異世界から誘拐するならせめて有能な人物にしなよ、穀潰し増やしてどうすんの。
獄中より良い生活っぽいし、これなら元夫モドキは召喚されないまま逮捕で惨めに獄中死で良かったんじゃないの。

解除
たかっち
2025.01.26 たかっち

ごろごろみかん。先生、おはようございます( ^ω^ )‼︎
先生の魅力溢れる作品を拝読出来て、一読者として毎日感無量です✨‼︎
今作品のカレン嬢の前世がかなり壮絶な(当時であればよくある事ではありますが)人生でありながら、作品自体が短編となっていたので、どうなるのかハラハラしておりましたら、まさかの前世の夫へのざまぁがこのような展開で驚きました✨‼︎
確かにタグの通り「ある意味ざまぁ」ではありますね‼︎今世の元夫からグチグチとねちっこいくらい「彼女はお前の妻じゃない‼︎」って否定された後での種明かしですから、花恋嬢としてはちょっとした意趣返しといった所なんでしょうね( ^ω^ )
私自身は過激なざまぁが好きな人種でして、個人的には前世の実父もざまぁ対象となって欲しい所ですね‼︎そして前世の元夫には、異世界で基地外扱いされた挙句、何かしらヘマして名実共にカレン嬢と永遠に逢えない状態の元、種明かしして欲しいです‼︎あと家が経営不振で多額の負債抱えて、日本に帰っても家も家族も無い、な展開が希望ですw
あ、勿論今世の元夫とは絶対に元サヤにならず、生涯後悔と恋慕を抱えてジメジメと生きていけば良いと思います‼︎
大体マシューは自身を「家畜のように扱われてる‼︎」と憤慨していましたが、同時にカレン嬢の事も家畜扱いした挙句、結局白い結婚についての事前相談、及び振って湧いた結婚についての考えをカレン嬢に直接伝えて無かった事、そしてその結果二人の女性の人生に迷惑を掛けた謝罪が無い事が男というより人として無いですね。あとカレン嬢に好意を持った後、ちゃんと口に出して行動に移さなかったのもどうかなぁと思いました。彼は「自分が好きなのだから、彼女も自分に好意を持っているはずだ‼︎口にしなくても伝わっているはず‼︎」な考え方で、正直元夫二人って根本的な所が同じ生物なのでは?と感じました。もう二人してカレン嬢の事舐めてますよねぇ…。
カレン嬢は末長くスピカ嬢とイチャラブな生活を送って欲しいです💕
こちらの作品も大好きなので、長編でカレン嬢の活躍を拝読出来ないのがちょっぴり寂しいです💦
長文乱文失礼致しました(>人<;)
寒い日が続きますので、暖かくしてお過ごし下さいませ(^人^)‼︎
シャーロット嬢の書籍化、楽しみにしてますので、発売日に必ず購入させて頂きますね✨

解除
かりりん
2025.01.25 かりりん

まさかのfinでびっくりしました。
カレンの明るい未来はここから始まって、新しい出会いがあって、今度こそ幸せになるだろうと思っていたので。
それにしても、元旦那が召喚された理由がよくわかりません。
聖者としても勇者としても人格も性格も悪過ぎます。
その後の話も数話読んでみたいです。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

あなたが恋をしなければ

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言する第一王子。 よくあるシーンだけど、それが馬鹿王子ではなく、優秀だけど人の機微に疎い王子だったら……。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。