〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。

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4.お久しぶりです、旦那様

字波花恋という女

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「いや、だってお前……カレンだろう?その顔に、その声、その髪!汚らしい白髪頭!!」

「しらっ……」

あまりの暴言に周囲のひとが絶句する。

そうよね、そう。
正一さんの反応は、至ってふつうのものだ。

前世の世界では、ね。
だけどここは、アイライド帝国。
だいたいのひとは金髪か茶髪だ。
私と似た髪色を持つひとがほとんどのこの国で、彼のその暴言はいただけなかった。
神官の眉が寄り、正一さんはやっとそれで、自身の発言がまずかったことに気がついたようだ。

「ああ、いや……。……ここは、異世界、なのか?ほんとうに?」

気まずそうに視線を逸らし、正一さんが言う。
それに答えたのは、神官だった。

「先程から何度も申し上げているとおり、ここは異世界で、あなたの知る世界とは異なります。あなたは、選ばれたのですよ」

「選ばれた……?」

「ひとまず、詳しいこと話はこちらへ。白魔道士、黒魔道士の皆様、ご助力いただきましてありがとうございました」

神官が頭を下げて、正一さんと共に去っていく。
その後ろ姿を見送ってから、私はため息を吐いた。

(どうにか誤魔化せた……)

白魔道士と黒魔道士の面々がそれぞれ帰り支度を整えている中、マシュー様が話しかけてくる。

「あれは、きみの知り合いなのか」

私は、そしらぬ顔で答えた。

「さあ……。どなたかと、間違えられているのでは?他人の空似、というやつです」

「そうか……。しかし、あの男はとんでもなく失礼なやつだな。言うに事欠いて、白髪頭だと?こんなに美しい髪を……」

マシュー様が、顔を顰めてそう言った。
その言葉に、少しだけくすぐったくなる。

「……ありがとうございます。大丈夫ですわ、気にしていませんから」





後日、異世界からの客人の名前が【字波 正一】であると大々的に周知された。
やはり、文献通り彼は、白魔術と黒魔術の両方を使えるようだ。
しかし、素質があると言うだけで完璧に使いこなせる訳では無い。
そのため、私たち魔道士が彼の指導にあたることとなった。

今日は、私の当番の日だった。

王城に部屋をあてがわれている正一さんに会いに行く。

以前、見た時よりも頬が痩けげっそりとした様子だった。

(突然、異世界に連れてこられたんだもの……。心身ともに疲弊するわよね)

召喚前までは、異世界からの客人が不安や心配を抱いているようなら、その気持ち寄り添って、話を聞こうと思っていたのだけど──。

相手が正一さんだと思うと、どうしても関わりたくない、という思いが先行した。

部屋に入ると、正一さんはギョッとしたように私を見る。
それから、表情を取り繕うように、ぎこちなく笑みを見せた。

「や、やぁ……先日はすまなかった。あなたが知人に似ていて……」

私は、彼の対面のソファに腰を下ろす。
すぐにワゴンを押した侍女が入室してきて、ティーセットが配膳された。

(ついてる)

紅茶は、オレンジペコセイロンティーだった。
私の好きな紅茶だ。
カップを手に取って、紅茶に口をつける。
それから、彼に尋ねた。

「……その、私に似ている方──とは、どういうご関係だったのですか?以前、嫁……と仰っていましたね」

正一さんは、苦笑した。
しかし、やはり顔色が悪い。
彼はプライドが高いひとだ。
わけも分からず、異世界に招かれ、これから先ずっと、この世界で暮らしていかなければならない、と言われたのだ。
全てを失い、気落ちしていることは見て取れた。

「ああ……。それも勘違いだった。あなたは、サザランドの妻だったのだろう?マシューと名乗る男がしつこく言ってきた。さすがに、もう間違わないよ」

そういえば、一昨日はマシュー様の当番だった。
そこで、いくつか彼と言葉を交わしたのだろう。
正一さんこ言葉に心底腹を立てていた様子のマシュー様を思い出す。
彼はどうにも単純……というか、思い込むところがあるから、相当しつこく言われたのだろう。

正一さんの様子から、何となくその光景が思い浮かぶようだった。

私は、ちら、と壁に控える侍女を見つめる。

小声なら、話を聞かれる心配はなさそう。

「……その、お嫁さんはどうなさいました?」

「聞いて、どうする?」

「あなたがどう思っているのか、気になりました」

字波花恋は、最期まで苦しんでいた。
最期は、彼に突き飛ばされ、花器に頭を殴打して死んだのだ。

今の彼は、私が知っている彼よりも、歳をとっているように見えた。
私が死んでから何年が経っているのだろう。

正一さんは、私の言葉の意図を掴み損ねたのか、眉を寄せていたが──やがて、吐き捨てるように答えた。

「あの女は、疫病神だ」
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