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ソフィア
奪われる日 2
しおりを挟むそれは王族の直系を確認するために編み出された秘匿魔法のひとつ。血を疑われることがないよう、その血の正確さを証明するために生み出された魔法は、次期王位継承者の体の一部にその証が刻印となって現れる。ロウディオの場合は胸元だったはずだ。王族を意味する薔薇の刻印……。
「戸惑うかもしれないが、ロウディオを助けてやって欲しい。きみにしか頼めない。……このような頼みをするなど、きみからしたら馬鹿にしていると思うかもしれないが」
「──いえ。それで私はどうしたら」
その気持ちに偽りはなかった。
ソフィアは本心でその言葉を口にする。王は分かりにくい鉄仮面と比喩されるその表情の相好をにわかに崩した。王も人の親なのだ。ソフィアはそれを理解した。
「すまない。貴殿の心遣いに感謝しよう。………言っても仕方ないことだが………きみのような娘が我が息子の妻でよかったと私は思っている。このようなことになって残念でならない……」
「陛下」
咎めるようにそばにたつ宰相──父が発言する。王は被りを振った。
「呪いをかけた人物についてはハッキリしている。この雪の霊風、恐らく魔女イゾルテの仕業だ」
「魔女イゾルテ……」
ソフィアが繰り返すと、王は頷いて答えた。
子供となった王太子はじっと冷静に話を聞いている。13歳と言えば王宮学校に入学する年齢だ。ソフィアが思うほど王太子は子供になってしまった訳では無いのだが、それにしたって二十五歳から十三歳に若返ってしまえば動揺もする。
しかもこの年頃のソフィアとロウディオは思春期突入の時期でもあって会話らしい会話はなかった。どちらかというとソフィアはロウディオを苦手とすら思っていた。
一言で言うのなら13歳のロウディオはとんでもない生意気なクソガキだったのだ。苦手とすらしていた13歳のロウディオを前に落ち着いているとよく言われるソフィアも冷静さを失ってくる。しかしそれでも表情は変わっていないところはさすがというべきか。
ソフィアは魔女イゾルテと言われた彼女の姿を脳内に描いた。紫銀の髪に青い瞳の、全体的に冷たい印象を受ける女性の姿を取った魔女だ。一時、ロウディオとは恋仲にあったと風の噂で聞いたことがある。
「……きみも知っていると思うが、魔女イゾルテはロウディオに袖にされた恨みがある。魔術痕からしても魔女イゾルテの仕業に間違いは無いはずだが……」
王は言い淀む。言葉を引き継いだのはソフィアの父、宰相だった。
「殿下の呪いの解呪には、女性との性行為とあります。ソフィア、お前は呪い解呪の手助けをしてやりなさい」
「それは……」
既に夫婦のソフィアとロウディオだ。今更肌を合わせることに躊躇いはないが……。ちらりとソフィアはロウディオを見た。
ロウディオは幼い頃から長身の子供だったので、13歳の今もソフィアより数インチほど背が高い。しかしロウディオは俯いているので視線は交わらない。それでも幼い少年の丸い頭が目に入って、ソフィアはくらくらしてしまった。
「でなければ魔女が手ずから呪い解呪の手助けをするであろうな。アレはそれが狙いのはずだ」
「………」
「適任者はきみしかいないのだ。頼めぬか?」
国王は縋るような目でソフィアを見た。ソフィアはその実、それが懇願という名の命令だということをよく理解していた。しかしそれでも表向きは"お願い"という手段をとる王は確かにソフィアのことを尊重してくれているのだろう。
(ほかの令嬢を宛がえば面倒なことになる……。とはいえ、娼婦や未亡人に頼むとしても、殿下からしたらあまりにも突然すぎる)
ロウディオは閨教育をすっぽかした、ということをソフィアは聞いたことがある。座学は受けたが実技は嫌がり実技を控えた夜、窓から外に逃げ出したというのは初夜の日に彼から茶化して聞かされたことだった。であれば、逃げるほど嫌がった閨の実技を受けさせるのは酷というものだろう。
だけど、ともソフィアは思う。
ロウディオはソフィアとして以来今までの禁欲は何だったのかと思うくらい女遊びが酷くなった。元々顔立ちが非常に整っているロウディオだ。遊び相手は男女ともに困らないだろう。
ソフィアは微かな抵抗を試みて黙り込んだが、やがてこくりと頷いた。
「謹んでお受けいたします……」
こうして、25歳のソフィアと13歳のロウディオの性交チャレンジが幕を開けたのだ──。
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