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ソフィア
すれ違う日 3
しおりを挟む「は……?」
「初めての相手が私のような年上、というのも苦しいかと思います。お相手は殿下とさほど歳の変わらない令嬢──」
どうせ離婚するのだ、とソフィアは冷静な頭で考えた。少し早い閨教育と思えば双方思うところはあれど声高に反対することは無いだろう。ソフィアのような十二歳年上の女が相手をするよりはずっといい。
ソフィアもその方がずっと良かった。相手は夫と言えど、今は少年。ソフィアに少年を愛でる趣味はない。少年は庇護する対象であり、性愛の対象にはなり得ない。そんなことをすればソフィアはたちまち罪悪感で胸をチクチクと刺されることになるだろう。ソフィアは落ち着いた声でロウディオを滔々と諭そうとしたが、しかしロウディオが遮った。
「いやだ!」
「……は?」
今度はソフィアが間の抜けた声を上げる番だった。
「嫌だ!僕はひとに触られるのが嫌いだ!」
「……ですが」
そういえば、幼いロウディオは妙な潔癖があったな、と思い出す。酷い時期は他人に触れられるだけで手を振り払うようなこともあった。
「ソフィアは僕を見捨てるのか!?というかお前はソフィアなんだろ!?」
ソフィアはぴくりと反応した。
ロウディオに"お前"と呼ばれるのは実に久しぶりだった。久しく呼ばれていない。いつからだろう。彼が"きみ"と柔らかくソフィアを呼ぶようになったのは。そして、ソフィアを甘やかす声で、ほかの女と平気で愛を交わすようになったのは──。
「僕は………僕は、ソフィアと」
「殿下」
「……しかも、どうして名前で呼ばないんだよ!お前、僕のことはロロって呼んでたじゃないか……………」
絞り出すような声でロウディオは言った。言葉尻は掠れて、震えているようにも聞こえる。ソフィアは愕然とした。当時、あんなに意地悪でワガママばかりでソフィアを振り回して──だけどどんな時でも堂々としていて。大胆不敵に大人を振りし、笑顔を振りまく少年は、今や俯いて泣きそうだ。ソフィアはこれには非常に慌てた。
「殿下、あっ。ろ、ロロ………」
そして言われるがままに焦って口にするも、久しく呼んでいないためにどこかしっくりこない。どころか、妙な違和感すらある。困惑した顔でソフィアがロウディオに言うと、ロウディオはぱっと顔を上げた。その顔はソフィアが予想した通り──というべきか、その目尻には透明な飛沫が僅かに散っている。頬をかすかに赤らめた少年は、それでもしっかりとソフィアを見つめる。真っ直ぐ、痛いばかりの視線で。
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