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ソフィア

すれ違う日 4

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「僕は、ソフィアがいい。だから……」

真っ直ぐソフィアを見る少年の薄青の瞳は、だけどすぐに目尻が赤く染まり、ふいと視線がそらされた。ソフィアはロウディオの続きの言葉を推測して、僅かに躊躇った。
ロウディオはソフィアが愛していた彼と言えど、今の彼は十三歳の少年だ。可愛らしいと思っても性的に手を出すことなど………。

ソフィアは呼吸を整えた。とりあえず、今すぐどうこうなるつもりはなかった。

「落ち着きましょう。とりあえず……殿下も私も、突然の事で混乱していると思います」

ロウディオは唇を引き結んだままだ。

「また日を改めます。私は……私は、殿下のためであれば何でも協力したい。その思いは本心です。ですが、互いに知る時間というものが必要だと思うのです」

「僕とソフィアに?いまさら?」

ロウディオは知らないのだ──。
思春期を経たロウディオとソフィアは妙によそよそしくなり、それ以来周りが戸惑うほどに妙な距離感を生み出してしまったことを。幼なじみであった頃の気安い仲は、彼らにはもうない。あるのは熱に焦がれた娘の瞳と、その娘に仮初の愛を囁く青年の姿だけ。夜会に赴けばどこでも見れる、ありふれた、陳腐な関係になってしまった──。ソフィアはぐ、と唇をかみ締めた。

「……私は、今の殿下のことをよく知りません。いいえ、あまり覚えていないのです。幼い時の話ですから、あやふやなところも多く、時系列があってるかも定かではありません」

ロウディオはあからさまに不満げな顔をした。ソフィアは変わらず落ち着いた声でさとした。

「殿下も、今の私のことを知らないでしょう。私たちは互いを知るべきです……」

そうして、ソフィアは"お互いを知る期間"という、その時をできる限り伸ばすためだけの免罪符を口にした。
ロウディオはまだ納得がいかなそうだったが、ソフィアが今からするかと尋ねると顔を赤らめて首を振った。十三歳。まだ心の余裕がなくて同然だ。

国王にその内容を報告すると、国王は眉を寄せてその話を聞いていたが、顎髭を撫でながらソフィアに言った。

「魔女イゾルテがロウディオに呪いをかけたのは言ったな」

「はい」

「魔女イゾルテはまだ捕らえられておらん。魔女の掟を破ったために今は魔力が落ちているとは思うが……」

「………」

「魔女の力が強く増加するのは満月の夜だ。その日までに、ロウディオの呪いをといて欲しい」

「………かしこまりました」

次の満月まで、もう十日ない。
ロウディオだけでなく、ソフィアもまた、心の準備におわれることとなった。
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