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ソフィア
エピローグのその後に 2
しおりを挟むロウディオの呪いは解呪された。
しかし、二十五歳に戻ることは無い。
これに国王は、今後の対応をかなり悩まされた。そして、苦肉の策で、ひとつのシナリオを生み出した。
魔女に命を狙われた王子は一時、命の危機すらあったものの、王太子妃──ソフィアの尽力あって、その危機を脱した。ソフィアの手によって魔女は消えたが、代償として王太子は子供の姿になってしまった。傍若無人、無慈悲で強欲な悪魔たる魔女の負の遺産ではあるが、命あっただけ王太子妃には感謝している──よって、王太子とその妃の婚姻は続行とし、王太子妃には幼くなった王太子を支えてもらうべく話をもちかけたのである──とかなんとか。
最初それを聞いたソフィアは『離縁の話はどうなったのかしら』だった。
ソフィアは子が成せなかったから離縁を言い渡されていたのだ。王太子夫妻に子ができない理由はソフィアが原因ではないかと睨まれたものの、実際のところはどうか分からない。ロウディオに原因があるかもしれないし、そのとおりソフィアかもしれない。ソフィアは自身の汚名を注ぐためにもふたりの検診を打診するべきではあったのだろうが、それを申し出た時の騒動と醜聞を考えればとてもでは無いが言えたものではなかった。
元老院会議で決定した離縁は覆すことが難しい。だけど国王は今回の件をもってその内容は完全に消す心算のようだった。
(どうして?)
ソフィアはわけが分からない。
子を成せない妃に価値などあるのか。王族の血脈を繋げるためにも、子は必須だ。ソフィアはそのために嫁いできたのだから。完全に困惑したソフィアはその日一日、どこか上の空で過ごしていたが、夜になってロウディオが彼女の部屋を尋ねた。
ロウディオは知識もまた幼い頃に戻ってしまったので、帝王学や剣術、政治学を再び学ぶこととなった。意図せず2度目の学習となった訳だが、無意識下に学んだことを覚えているのか、1度目よりも習熟度が高いと彼の講師は口を揃えて言っていた。
ロウディオはやや疲れた顔をしていたものの、ソフィアを見るとほっと人心地ついたような表情になる。
「良かった、ソフィア。まだ寝てなかった」
「ロロ。どうしたの。こんな遅くに」
ちなみに今、彼らの寝室は分けられている。理由は、ロウディオの年齢が原因だ。十二歳まで精神、身体ともに戻ってしまったロウディオが今子を持つことは憚られる。国民にロウディオの現状を周知した以上、子を作るのは彼の成人からと定められたのだった。
ロウディオはソフィアの薄い肩を抱きしめてそっと顔を伺った。
「ソフィアが心配してるかと思ったんだ」
「そんなの……」
「ねえ、聞いたよソフィア。僕達子供ができなかったんだね」
「…………」
ソフィアは黙り込んだ。
最後までロウディオに言わなかった唯一の秘密。呪いが解けるものだと思い込んでいたからこそ、ソフィアはロウディオに告げていなかったのだ。だけど、ロウディオは二十五歳に戻らなかった。結果、全てを知ることとなったのだ。ソフィアはなんと言えばいいかわからず、俯いた。
ソフィアより僅かに長身のロウディオは彼女の頭頂部に口付けを落とすと、彼女の緋色の髪を指先ですくった。さらりとした髪は指ですいても零れるように落ちていく。
「大丈夫だよ。ソフィア、まだあと十年以上あるんだよ。それに父上とも話したんだけどね、子供が出来なかったとしても……」
「ロロ、ごめんなさい。その話、明日でもいいかしら」
もしも、の話は今のソフィアにはあまりにも苦しかった。
十三歳のロウディオは知らないのだ。子ができないことでソフィアが石女だと辱められた過去を。抽象的な皮肉は真正面から切り込まれるよりも胸に蟠りを残す。しかし子が出来ないのも事実なので、ソフィアには何も言い返すことが出来なかった。思い出すのは、公爵令嬢であった時から親交のあった侯爵家の茶会に招かれた時のこと。
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