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1章
いち。
しおりを挟む「ミシェラ、お前と皇太子殿下の婚約破棄が決まった」
お父様が顰め面で言うが、私はそれ以上に気になってるものがあった。
お父様、また増えてない?
私は昔から霊力が高く、その力故に霊媒師として国に仕えていた。その稀有な力から皇太子殿下の婚約者にも一時はなったが、現在破棄を申し込まれている真っ最中。
それよりお父様の肩に乗っているろくろ首のような女の人が気になって仕方ない。最近は顔のない女の人と般若のお面をつけたような化け物だけだったのにどこで連れてきたのだろうか。化け物というか、どちらかというと件に似ている。顔は人間で体は牛に近い。
今は顔中を包帯で巻いている女性も一緒だ。
「…………顔色ひとつ変えないか。相変わらず人形のようで薄気味悪いやつだ!△×⊿§༅~~~~~」
顔のない女の人は右手に五寸釘と藁人形を持っているから早めに対処した方がいいだろう。
牛人間は牙を向いて今にも噛みつきそうだ。大丈夫かしら。
「分かったか!ミシェラ!二度とこの国に戻ってくるな!!」
お父様の肩に乗る女や牛人間が気になりすぎて何も頭に入ってこなかった。だけどこの国に戻ってくるなということはこの国から逃げろということだ。
私は物心ついてから十年あまり、ずっと清めの舞を続けてこの国の死霊たちを抑えてきた。そろそろ疲れてきたし気力も使い果たしそうだったのだ。お父様は私のそんな気持ちを汲み取ってこの国から逃がしてくれようとしているのだろう。
「かしこまりました」
「ふん。こんな時でさえ無表情か。本当にお前のような娘~~~△༄◎◆◇」
お父様はよく喋る。
話し相手がいないひとに限って話が長いというし、もしかしたらお父様は社交界でも気の知れた友人がいないのかもしれない。それをちょっと可哀想に思いながらも私は最後の親孝行をすることにした。
「お父様は呪われてますから、近々死ぬと思います」
「なっ……………またそんなデタラメを………!このバカ娘が!」
お父様は顔を真っ赤にして言ってくる。
もしかしら既に知ってたのかもしれない。
お父様は私の父親なのだし、霊力があってもおかしくない。あえてこの状態にしているのだろうか。私は指摘したことを申し訳なく思った。
「申し訳ありません。後ろの女性たちと末永くお元気で」
「だからおまえは何を言っているんだ!!」
忘れていた。お父様の隣には牛人間もいたのだった。
「牛人間さんもお元気で」
「牛人間だと…………!?」
お父様はそれから顔を青ざめさせて黙ってしまった。もしかしたら牛人間については知らなかったのかもしれない。
お父様は顔を青ざめさせたままふらふらと部屋を出ていった。すぐに侍女が入ってきて支度をしろと言う。どうやら私は隣の国へと嫁がされるらしい。最近興ったばかりの新興国。
先の戦争で先代皇帝が亡くなり、今の皇帝は僅か二十三歳なのだとか。血も涙もない人物だと言われているが、人間は誰しも皮膚を切れば血は出るし玉ねぎを切れば涙は出るので噂は嘘だと思う。
そういえば皇太子殿下は好きな人が出来たのだっけ。お父様がそんなことを薄らと言ってたのを思い出す。皇太子殿下は私が長らく城に縛られているのを知っている。きっと私の気持ちを汲んで自発的に恋愛をしようという気になってくれたのだろう。私をこの国から逃がしてくれる理由を作ってくれた人だ。少しは恩返しがしたい。
私は手紙をとった。
『皇太子殿下へ
あなたに取り憑いている女性はカレンというそうです。』
時間が無いからこれしか書けないが、きっと分かるだろう。女性の名が分かれば取り払うこともできるだろう。皇太子殿下への恨みは深そうだったから少し頑張らなければいけないかもしれないけど。でもきっと大丈夫だよね。
私は侍女に手紙を託す。皇太子殿下宛に書いたが、私は彼の元婚約者だ。こそこそと手紙のやり取りをしてたら恋人は気を悪くするだろう。
私は宛名を皇太子殿下と恋人の連名にした。
そういえばカレンという名は昔聞いたことがある。確か皇太子殿下のお気に入りの娼婦だったような。何があったのかは分からないが死んでしまったのか。死んでもなお皇太子の元にいたいとは彼女の愛もなかなか深かったのかもしれない。
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