1 / 34
1章
いち。
しおりを挟む「ミシェラ、お前と皇太子殿下の婚約破棄が決まった」
お父様が顰め面で言うが、私はそれ以上に気になってるものがあった。
お父様、また増えてない?
私は昔から霊力が高く、その力故に霊媒師として国に仕えていた。その稀有な力から皇太子殿下の婚約者にも一時はなったが、現在破棄を申し込まれている真っ最中。
それよりお父様の肩に乗っているろくろ首のような女の人が気になって仕方ない。最近は顔のない女の人と般若のお面をつけたような化け物だけだったのにどこで連れてきたのだろうか。化け物というか、どちらかというと件に似ている。顔は人間で体は牛に近い。
今は顔中を包帯で巻いている女性も一緒だ。
「…………顔色ひとつ変えないか。相変わらず人形のようで薄気味悪いやつだ!△×⊿§༅~~~~~」
顔のない女の人は右手に五寸釘と藁人形を持っているから早めに対処した方がいいだろう。
牛人間は牙を向いて今にも噛みつきそうだ。大丈夫かしら。
「分かったか!ミシェラ!二度とこの国に戻ってくるな!!」
お父様の肩に乗る女や牛人間が気になりすぎて何も頭に入ってこなかった。だけどこの国に戻ってくるなということはこの国から逃げろということだ。
私は物心ついてから十年あまり、ずっと清めの舞を続けてこの国の死霊たちを抑えてきた。そろそろ疲れてきたし気力も使い果たしそうだったのだ。お父様は私のそんな気持ちを汲み取ってこの国から逃がしてくれようとしているのだろう。
「かしこまりました」
「ふん。こんな時でさえ無表情か。本当にお前のような娘~~~△༄◎◆◇」
お父様はよく喋る。
話し相手がいないひとに限って話が長いというし、もしかしたらお父様は社交界でも気の知れた友人がいないのかもしれない。それをちょっと可哀想に思いながらも私は最後の親孝行をすることにした。
「お父様は呪われてますから、近々死ぬと思います」
「なっ……………またそんなデタラメを………!このバカ娘が!」
お父様は顔を真っ赤にして言ってくる。
もしかしら既に知ってたのかもしれない。
お父様は私の父親なのだし、霊力があってもおかしくない。あえてこの状態にしているのだろうか。私は指摘したことを申し訳なく思った。
「申し訳ありません。後ろの女性たちと末永くお元気で」
「だからおまえは何を言っているんだ!!」
忘れていた。お父様の隣には牛人間もいたのだった。
「牛人間さんもお元気で」
「牛人間だと…………!?」
お父様はそれから顔を青ざめさせて黙ってしまった。もしかしたら牛人間については知らなかったのかもしれない。
お父様は顔を青ざめさせたままふらふらと部屋を出ていった。すぐに侍女が入ってきて支度をしろと言う。どうやら私は隣の国へと嫁がされるらしい。最近興ったばかりの新興国。
先の戦争で先代皇帝が亡くなり、今の皇帝は僅か二十三歳なのだとか。血も涙もない人物だと言われているが、人間は誰しも皮膚を切れば血は出るし玉ねぎを切れば涙は出るので噂は嘘だと思う。
そういえば皇太子殿下は好きな人が出来たのだっけ。お父様がそんなことを薄らと言ってたのを思い出す。皇太子殿下は私が長らく城に縛られているのを知っている。きっと私の気持ちを汲んで自発的に恋愛をしようという気になってくれたのだろう。私をこの国から逃がしてくれる理由を作ってくれた人だ。少しは恩返しがしたい。
私は手紙をとった。
『皇太子殿下へ
あなたに取り憑いている女性はカレンというそうです。』
時間が無いからこれしか書けないが、きっと分かるだろう。女性の名が分かれば取り払うこともできるだろう。皇太子殿下への恨みは深そうだったから少し頑張らなければいけないかもしれないけど。でもきっと大丈夫だよね。
私は侍女に手紙を託す。皇太子殿下宛に書いたが、私は彼の元婚約者だ。こそこそと手紙のやり取りをしてたら恋人は気を悪くするだろう。
私は宛名を皇太子殿下と恋人の連名にした。
そういえばカレンという名は昔聞いたことがある。確か皇太子殿下のお気に入りの娼婦だったような。何があったのかは分からないが死んでしまったのか。死んでもなお皇太子の元にいたいとは彼女の愛もなかなか深かったのかもしれない。
72
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる