12 / 34
1章
じゅう!
しおりを挟む今日は生憎の雨だった。
雨は嫌だ。気分が晴れない。
私はベッドでごろりと寝返りを打った。
変えたばかりのシーツだ。
相変わらず侍女たちは私を視認できないようだけど、最近毎日シーツを替えてくれるようになった。
よっぽどこの前のお叱りが怖かったのだろう。
誰もいないはずの部屋のシーツまで毎日変えてくれるからものだから私も近くの部屋からシーツを持ってこなくて済むようになった。
ベッドで二度寝しようかと思っていれば、ふとゆらゆらと白い固まりが現れた。
陛下の白猫だ。
「どうしたの?」
聞いてみるが答えない。
だけどふたつのしっぽが困ったように忙しなく右に左に揺れているからきっと困っているのだろう。
白猫がこてんと首を傾げる。
そのまま背を向けてまた扉に向かっていく。
だけど途中で止まって私の方を伺っているようだ。
「ついてきてほしいのね」
聞くと、白猫はこくりと頷いた。
ふわふわ浮く白猫についていく。
部屋を出て、廊下を歩く。
今誰かにみられれば勝手なことをしていると怒られるかもしれない。
人とすれ違ったらどう誤魔化そうか考えていると、前方から金髪の少年が歩いてきた。
陛下の弟君だ。
ブラコンこじらせてる弟君は少しめんどくさい。どうにか迂回できないかな。
そう思ったけどその前に目が合ってしまった。
「!」
びくりと固まった少年は、しかしすぐに警戒するように私を見てきた。
まるで猫のようだ。
「何してるんだ、こんなところで」
素直に陛下の猫又の案内を受けているところですと言ってもいいが、猫又のことを私が勝手に話していいか分からない。
私は少し悩んだ挙句、理由になりそうなことを考えた。
「呪殺など、絶対に僕がさせないからな………!」
泣きそうな声で言われてしまった。
この城、呪殺が横行してるの?
何それ怖い。この城どうなってるの。
少年は力強い目で私を見ている。
もしかして私が狙われているのだろうか。だから少年はこんなに苦しそうな顔をしているのか。
この前会ったばかりなのにそこまで私を心配してくれるなんて、本当に優しい子だわ。
流石陛下の弟君だ。
だけど、ちょっと申し訳ないな。
私はちょっとやそっとの呪いじゃ死なないからその心配は無用だと伝えてあげたい。
それにしても侍女に存在を認知されてなくて良かった。
いくら死なないとはいえ、呪われたらその度に疲れてしまう。
そう思いながらふと見ると、白猫が少年に懐いていた。
兄弟だからやっぱり通じるものがあるのかな。
少年も白猫に好かれてるらしい。
好かれ方が陛下以上だ。
白猫が少年の頬にぐりぐりと頭を押し付けている。少年は白猫が見えないから無反応。
白猫が可哀想になった。
「とても懐かれてるんですね」
「何の話だ………………!?」
「ほら、ここ。ふわふわしませんか?」
これくらいなら許容範囲かな。
私は自分の首元付近に手をあてると少年の顔が凍りついた。だけどすぐに「こ、怖くなんてない………どうせデタラメだ………」と言いながら首元に触れる。あ。触れた。
「ーーー!」
「ね。いるでしょう」
白猫も少年の手に触れて嬉しそうだ。
二本のしっぽがぴーんとたっている。
少年は霊力があるわけではないから完全に触れた訳では無いけど、羽が触れたような感覚はあるだろう。
白猫も嬉しそうだし、私も嬉しい。
ついにこにこして言えば、少年は足元から崩れ落ちてしまった。
大丈夫かな。
ブラコン拗らせているし情緒不安定なのかもしれない。
死んだ猫に突然会えて感情が混乱しているのかも。
「大丈夫、この子はずっとここに共に居ますから」
白猫はずっと彼らを見守ってくれるだろう。
本当に愛されていたんだな。
混乱している少年を励ますように言うと、少年はこちらを向いた。少年は今にも泣きそうな顔をしているけど、きっと嬉しいのだろう。
それか、感動しているのかな。
男の子が泣くところを見られるのは恥ずかしいとどこかで聞いたことがあるので、私は「我慢することなんてありませんよ」と言えば、ますます少年は泣きそうになってしまった。
やっぱり少年も白猫のことが大好きだったみたい。
兄弟揃って優しいなんて、この国に来れてよかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,500
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる