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低学年の子供たちはこの日のために新調したラッシュガードや水着を身に着け、川沿いの護岸テラスは新作水着発表会の様相を呈する。そしてそれだけに、日に焼けた育ち盛りの体を各々自信のある格好で装った上級生たちはかなり逞しく、眩しく見える。
帆織の足元、水を張ったバケツで「キュウ」とアナゴが鳴いた。十分ほど前にコハダが見本として獲ってきた型の良いマアナゴだ。蒲焼きを想像し、帆織は思わず涎を啜る。
大川のアナゴは寿司も美味いが、最高の食べ方はアナゴ飯だ。
あまり大きなアナゴは大味になってしまうから、エンピツアナゴと呼ばれるよりも少し大き目くらいの個体がちょうど良い。これを腹から開いて特性のたれを塗り、蒲焼きにする。焼く前に蒸したりしてはいけない。せっかくの気が抜けてしまうからだ。串は打たず、網焼きが手軽だ。串を打たないで焼くとアナゴの身は背中を中心に丸まっていく。好みの焼き加減で構わないが、そこそこ焼いた方が香ばしさが増してうまくなる。焼き終えたら、飴色の棒のようになったアナゴを一センチ幅のぶつ切りにする。
焼きにかかる前、捌いた時に出る骨や頭などのアラを水炊きにして取ったとろりと濃い出汁を醤油と砂糖で整え、こいつで飯を炊いておく。ぶつ切りにした身を炊き立てのご飯に混ぜ込むと出来上がりだ。
底の浅い茶碗に軽く盛り付ける。山椒粉などの薬味は全く必要ない。一口頬張るとアナゴ独特の滋味が口いっぱいに広がり、焼け焦げたタレの香ばしいこと、掻き込み始めれば瞬くうちに無くなること請け合いの絶品なのだ。
子供のおやつによし、酒のあてによし、もちろん晩飯の主役も張れる。数年前、瀬戸内から転校してきた少年がこの方法を豊洲水軍に伝え、それが大川中の水軍へ一気に広まった。
問題はアナゴが夜行性の魚だということである。
昼間、アナゴの成魚は砂泥底に全身をうずめて隠れており、夜になると泳ぎ出て餌を漁る。自然、漁にも夜が絡む。これが普通の漁ならば、餌を入れた筒状の罠を夜通し沈めておいて誘い込んで獲る。竿釣りならば時合いは夕暮れ時以降、餌は魚の切り身が使われやすいが、イカも使う。暗闇の中でアナゴの興味を引くため、化学発光体でを仕掛けにつけて投げ込む、完全な夜釣りになる。
しかし夜通しの罠を仕掛けることさえ禁じられるほどに厳しい夜の禁忌を持つ大川の子供たちは、だから昼間、アナゴの寝首を掻くスタイルを会得した。「アナゴ探し」と呼ばれる漁法だ。
川底まで一気に潜り、流れに逆らって泳ぎつつ、姿勢を底と水平に保って息を潜める。目を皿のようにして辺りを窺う。ちょっと見ただけではわかるはずもないのだが、広大な砂泥底の砂漠をよくよく見ていくと、流れが刻む漣痕の凹凸の他、舐めるようになだらかな堆積粒子の所々に、異質な色合いの、小指の先ほどの小さな小さな三角形が突き出していることが分かる。アナゴの吻、鼻先だ。完全に砂へ潜っている時もあるが、横着な彼らはそうやって鼻先だけを突き出し、外界の様子を嗅覚で見ているのである。
アナゴ探しにはまず、この吻を見つける面白さがある。
突き出した吻に、そっと近寄っていく。
底とすれすれに泳ぐが、強く水をかいたり、砂地へ手をついたりしてはいけない。振動で警戒されて吻を引っ込められれば戦わずしてこちらの負けだ。その代わり無事、一メートルほどにまで接近できればスリリングなやり取りが待っている。
細く削った竹ひごの先に細身の釣り針を結んだ仕掛けをあらかじめ用意して潜るのだが、大川の子供たちはこの針へ餌を刺す代わり、毛糸を二センチほど結び付ける。これでアナゴの吻をくすぐってやるのだ。羊毛より、アクリル毛糸の方がうまく、くすぐりの効果が出る。強すぎず弱すぎず、絶妙のじらし具合で五秒もくすぐればアナゴはいい加減に苛つき、最終的には釣り針を毛糸ごと噛みついて針掛かりする。
宝探しの要素もあり、潜水の練習にはもってこいで、一度引っ張り合いとなれば砂中のアナゴが踏ん張る力は驚くほど強い。それをズボッと引き抜いた時のカタルシスときたら水の中でつい、大口を開けて笑ってしまうくらい、素朴だがかなり愉快な漁法だ。
よって中学生や小学校高学年が合同で年下の子供を対象に開く、夏休み初日の恒例「アナゴ探し講習会」は毎年かなり盛況になる。ちびっ子たちは素潜りの基礎から、ここできちんと教わっていく。
「さて、我らが佃水軍ですが、今年の町会祭りの出し物はエビ串とアナゴ飯ということになりました。みんな、アナゴを捌くのはできるよねー?」
護岸テラスへ集結して体育座りした後輩たちを前にして、コハダは慣れた調子で講師を務めていた。
すでに真っ黒く日焼けした年下の少年少女は目をワクワクと輝かせ、一言も聞き漏らさぬよう耳をそばだてていてる。今日はいつも以上に教え手としての先輩を尊重する日だ。がっつり学んでやろうという気迫が全員の面持ちを神妙にする。
「お祭りに向けて魚の型を揃えて用意したい。こんな時はサイズを選んで狙えるアナゴ探しが一番、効率的だよ。でも、アナゴ探しは危険なことも多い。絶対に一人でやらないこと」
幾つかの注意事項をコハダが述べた後、深く潜るための実地練習が始められた。
まず、マルタとカジメが基本的潜行方法「ジャックナイフ」の模範演技を行う。夏休みなので高校生の水軍OBも参加しているが、基本はコハダたち中学生の独壇場だ。
少年二人が身を翻す海龍のごとくするすると深みへ落ち、直前にコハダが投げ込んだフラッグ付きの錘を拾って瞬くうちに水面へ戻ると、観客たちから素直な称賛がどっと上がった。
「よし、じゃあ一人一人、お兄さん、お姉さんについて川へ入ろーう!」
言いながら真っ先に川へ飛び込むコハダは、やはり、小さなエビめいている。
太陽の光は燦々と、子供たちの笑顔もそのままに、相変わらずの夏の大川だ。
だが帆織は、以前ほど気楽にはその様子を眺められなかった。日差しより焦燥に焼かれる思いがする。この健康的なお祭り騒ぎの裏側で、得体のしれない侵略者が跋扈していると彼は知ってしまったからだ。煌びやかな昼と夜の差に潜む、白い悪魔の微笑みがある。
そして独り、健気に戦う少女がいる――。
「停まって!」
トヨミの鋭い制止が帆織の耳へ甦る。昨晩のことだ。
彼が彼女と共に行動するようになって五度目の川行、早くも「奴」が帰って来た。
帆織は慌ててバヤックを漕ぐ足を止めた。流れや惰性で進むのを避けるために逆回転で漕ぎながら後ろを向く。彼の二度目の参加からはオニアカへ人型デコイを載せて両国辺りに派遣し、水上警察に対する囮にしている。帆織のアイデアだ。その代わり、帆織のバヤックに二人乗りして作業に当たった。帆織が運転し、荷台のトヨミが祓うのだ。
周囲の水面を険しい眼差しで窺いながら手早く銛を組み立てるトヨミ、彼女の使役するエイの群れが水中でさっと散開するのが帆織にも見え、
「――奴か?」
「この下に来てる」
トヨミが答えた直後、ふいに艇の数メートル前方へ大量の気泡が上がって弾けた。
「吸わないで!」
言われるまでもない、帆織は慌てて息を止める。気化した穢れは粘度の高い無数の大泡となり、少しずつ位置を変えながら連続して立ち上がる。次々弾けるが、底からの供給が過剰なので消えることが無い。瞬く内に巨大なリングが水面へ裏打ちされる。円の中心には二人がいる。ヒゲクジラ類が餌となるオキアミやイワシの群れをバブルリングで水面へ囲い込むように、この輪も、二人を包囲するための毒性結界なのだ。
「来るよ!」
トヨミが叫び、前を向いた帆織が慌てて、思い切りペダルを踏み込む。
バヤックが円の中心を脱したのと同時、それまで二人が浮いていた水面が山のように盛り上がって割れた。全ての泡が一気に弾け飛んだ。何頭かのクジラが一斉に潮を吹いたようで、川面が霧でけぶる。
その中へ突き出たのは巨大な顔だ。「ウバザメのゾンビか幽霊」といつだかトヨミが表現したその顔は、なお息を堪える帆織の視界一杯に迫った。不気味な白い鮫のような尖り顔、以前トヨミが鼻先に打ち込んだ銛は無くなっている。全てをひっくり返す大波を寄越し、邪教の偶像めいて川面へそそり立った。
ボートに比べれば紙のように軽いバヤックでも、双胴艇の転覆は立て直すのが厄介だ。ペダルと舵を必死で操り、体を傾けてなんとか姿勢維持に努める帆織だったが、
「!」
船体後部が無遠慮に沈み込むのを感じる。とっさに振り返ればトヨミが銛を掲げて空中へ身を躍らせる、その瞬間が見えた。上下する波のリズムを巧みに捉えた彼女は軽々夜へ舞いあがり、そして落ちてきた。そのまま全体重をかけて穂先を打ち込む。銛は反転して潜ろうとする怪物の左胸鰭の付け根へ、ほぼ垂直に命中した。柄に掴まって自分の勢いを殺し、体勢を立て直すためだろう、トヨミは穂先と繋がった細縄を後に引き、水へ飛び込む。
帆織は思わず「よしッ」と頷いた。想定外のファイトだがチャンスだ。銛は以前より深々と相手を捉えた。水面へ顔を出し、引き波に逆らって泳ぐ彼女へ素早く艇を寄せる。
上ずった調子で、
「やったなッ、さあ、綱引きだ!」
だが、リアシートへ上がってきた少女は憮然とした表情で彼を見上げた。
「だめだよ」
これ、と渡された細縄を帆織は手繰った。やがて強烈な引き込みが応じるはずだったから両足を踏ん張り、腰を入れて身構えた。
だが、縄はわずかな抵抗だけで寄せることができた。それはただ、銛の柄が川から受ける水の抵抗だった。柄と穂先が分離するより、突き立った穂先が獲物の体表から抜け落ちる方が早かったのだ。
「あ、ほら、あそこ」
トヨミが示した先に銛が柄ごと浮いていた。帆織がなお手繰り寄せるのに合わせ、彼女が腰のリールを巻きとっていく。やがて銛を引き上げ、ぶんと一振りして水を切った。
「結構しっかり刺さったように見えたけどな。ノガレに邪魔されたのか?」
「いや、あいつらはいなかった」
トヨミが首を振る。
「でも、刺した時の感触がおかしかったよ。絹ごし豆腐でも突いたみたいに、表面が柔らかかった。あいつが潜った時の水の抵抗で、傷口が勝手に広がって銛が抜けたんだと思う。前の時とは全然違った」
「銛が役に立たない、ってことか」
「そのために向こうが変化したのかもしれない」
どうするかな、と彼女は頭を掻く。
「逃げちゃった、ってことは全く効果がないわけでもないんだろうけどさ」
とにかく、と仕切り直し、
「ここのヨドミを祓っちゃおう」
阿吽の呼吸、とでも言うべきか、トヨミが銛を手にしたままで荷台へ立ち上がった時、すでにアカエイたちはこちらへ向かって一斉に集結を始めている。
鈍重そうにも見えるアカエイだが、実際は水を突っ切って飛ぶように泳ぐ。とりわけ、横幅が一メートルを超えるまで育った成体の遊泳力は抜群に素晴らしい。外洋性のエイにも負けない。たった今、遠目に見えたかと思えば、もう、すぐそこに迫っている。トヨミの猟犬は老練で大型の個体が多い。それが大きな群れを作り、ひれを波打たせて水面直下をぐいぐい進む光景は波の上から見下ろすだけでも圧巻だった。
個体同士適度な距離を保ち、整然と隊列を組んで、アカエイたちはだだっ広い夜の川を動き回る。まるでエイの絨毯と見える。体と一体化した力強いひれが規則正しく動くその度に、あかがね色の背中と金色を帯びた白い腹の明滅が仄暗い水中で閃く。無数の眼球が陸上からの灯りに照らされて金緑色に爛々と輝いている。
やがてエイたちは群れの右端側から順に体を傾け、体勢を底と垂直にして泳ぎ始めた。対称軸を取りながら旋回し、群れ全体で水中へ円筒形の祭壇を築いていく。
「今のでだいぶ散っちゃったな。かたまってた方が祓いやすいんだよね」
ぼやきながら、水面下に突き処を窺うトヨミ。こういう時、バヤックを円筒の中心に置いてしまえば、帆織は後は見ているしかない。
エイが作る円筒の内側でその場所は文字通り淀み、濁っていた。周囲と比べても明らかに異質な塊だ。しかし固体ではない。周りの川水同様に液体で、粘性にも変わりがない。化学組成だけを見ればこれもまた「水」と同定されるはずだった。
だが違う。まったく違う。やはり「場」と言った方が良いのだろう。ただの水にただの水でない振る舞いをさせる、場が生じている。滔々と流れる川の本流に在って、この場所だけが、目に見えない薄い膜で周囲から切り離されてしまったかのように流れていない。他の流れが周囲を素通りする中で、その内側だけは大きな堆積作用が働いているらしい。もろもろと澱が漂い、泥粒や微小動物の死骸が静かに沈澱している。水面から水底まで、闇が細かく溶け込んで、ぷん、と腐敗の兆候を表している。生ぬるい水が溜まっている。
帆織はふと、潜水調査船が映した深海の記録映像を思い出した。あの映像の持つ神秘性の正負が逆転すれば、きっとこんな感じだろう。
トヨミが息を詰める。直後、突き込まれた銛の穂先が歪みの一点を貫いた。
ざぶざぶと白波を立てながら水面へ切り刻まれるのは「セーマン」と呼ばれる星形印と「ドーマン」と呼ばれる格子印、現在でも我が国の一部の海女や漁師が魔除けに使う呪術図形の繰り返しだ。柄へかかる水圧に唇はきゅっと一文字、両腕へ懸命に力を込めて彼女は水を切り続ける。リトル・ウィッチの面目躍如、瞳の奥には炎が煌めき、時折、呪文のようなものを素早く呟いては口先へ跳んだ飛沫をちろりと舐めている。
やがて、大粒のあぶくが底から立ち上がり始める。
水面に飛び出し、ゆっくり割れる。
ハイスピード撮影を再生するように不自然な遅さで、破裂の過程がよく見えた。
「ヨドミはオリの偏りだって言ってたな」
泡から顔をそむけつつ、帆織は詠唱を終えた少女へ問いかける。
「じゃあ、オリってなんなんだ?」
「一口にオリと言っても、幾つか種類があるんだけど……」
トヨミは言葉を選んだ。
オニアカの背へ渡された張り綱に掴まり、潜ったり浮いたりを繰り返した一度目にはそんな余裕も無かったが、二度目からは二人とも、それなりによく喋った。結果、帆織の知識も偏って増え続けている。最初に彼が知ったことは、この夜間パトロールが化け物退治を目的として行われているわけではないということだった。戦いはあくまでおまけで、この川行の主眼は、夜の大川に湧く場の祓いにあるのだ。
「この場合は、人の心が垂れ流す有害物質ってことになるのかな。嫌な気持ちの、残り滓」
「気持ちの残り滓?」
陸を浄め、諸々の穢れを海へと流す、地球規模の洗礼の場。それが川の役割だ。
陸地が誕生して以来、数十億年に渡って、川は大地の静脈を務めてきた。陸上の全てはいつか川へ流れ出て海へと下る。中でもこの世界の「垢」と言うべき様々なオリ、諸々の均衡を負へ傾ける要素は、最終的には海溝の底まで沈んで地の奥深くへ飲み込まれ、地球内部の巨大な熱源にさらされて完全に清められる。分解されたそれらは上昇流へ乗り、再び物質循環へ戻って世界を構成する一部となる。あるモノは再びオリとなり、またあるモノは、今度は均衡を保つ主体となる。本当に、全てが循環している。
だが、多くは複雑系の偶然に起因して、オリが海へ下りきれず川に留まってしまうことがあるのだという。オリはオリを引き寄せる。オリの極端な集合がヨドミである。
有史以降では、主に人の心にまつわるオリの排出が人口密集地近郊の河川で偏って多くなり、中でも河口部一帯はオリの集中のためにヨドミの生じやすい場所となってきた。
血中の有害物質を除去するシステムが人の体に複数備わっているように、川にも汚染を拭い去るホメオスタシスが用意されている。トヨミの家系は、いわば血管壁に取り付いたコレステロールを除去するタンパク質をコードした遺伝暗号のような存在だ。その血筋は突然変異かつ自然発生的に、しかし自然界の平衡要求に応じて誕生した。アカエイを使役してヨドミを探し、役割の定めるところによってそれを祓う。オリを散らして海へと流す。オニアカは従者の役割を与えられた一族の末裔なのだそうだ。
しかし、こうした大地の備えにも関わらず、かつての検知可能な汚染がそうであったように、汚染が浄化速度を上回れば、血中の有害物質の濃度は高まってしまう。ヨドミの発生頻度も上がる。
「つまり、陸上で嫌な気持ちになる人が増えれば、川は余計にオリで汚れてしまう?」
「そ」
トヨミは頷いた。はい、おしまい、と水から銛を引き抜き、
「それに今は、わざとヨドミを作ってる奴らがいるからね」
あの白い人魚のような化け物はフカミノガレとか、カタワレとか呼ばれる種族なのだという。トヨミは縮めて「ノガレ」と呼ぶ。昼は海の深みに隠れ棲み、気が向けば夜の浅場へ上がってきて、水辺で人に悪さする。伊勢辺りで「トモカヅキ」と呼ばれ、海女を溺死させるとして恐れられている妖怪の正体も、実はこのノガレの近縁種なのだそうだ。
「あんな連中が昔からいたっていうのが、ちょっと信じられんな」
「でも、ずっと昔からいたの。昔はもっと見つけやすかったって大叔母さんが言ってた。大川が人間の排水でとんでもなく汚くなったせいで、浄化が完了するまでの数十年くらいは上がってこられなかったってだけ。毒をもって毒を制してたんだね」
「科学的な川の浄化が再び、奴らを呼び寄せた……。さっきのアレもか?」
「シラブカね。フカって言っても、見た目がサメっぽいってだけで、深海に沈んだ鯨骨を依代にしてオリで肉付けした一種の式神らしいの。この前、物置きで資料見つけたんだ。多分、私やオニアカへ対抗するボディガードとしてノガレがわざわざ打ったんだと思う」
「……しきがみ、ねぇ」
帆織は何とも言いようが無い。このところ彼の世界観は崩れっぱなしだった。
だがそれらは実際に彼の目の前に在り、目の前で起こる事柄なのだ。
「ボディガードをつけてまで人へ嫌がらせしたいものかな」
「前にも言ったじゃん。それが連中の、ええと……」
「存在意義?」
「そうそう!」
トヨミは我が意を得たりとばかりに力強く頷き、
「川底に冷たい流れを仕掛けて、潜った人に温度差ショックを起こさせるとか、あいつら、そういうことが大好きなの。夜の川辺で人を引き込むとか、船底に穴をあけるとか、昔はもっと、直接的な嫌がらせをしてたんだって。オリを操作してヨドミを溜める、みたいな回りくどいやり方を始めたのは最近の話。淵や、流れの弛みにはオリが溜まってヨドミができやすいの。それで、そういう場所には昔から上津瀬石を沈め立てて流れをはけやすくしてるんだけど、あいつら、最近はそれを壊すことまで覚えたからね」
「水軍への疑いは濡れ衣か。しかしどうしてノガレは、やり方を直接的から間接的に変えたんだろう?」
「直接のやり方もまだやってるから、変えたってより、嫌がらせのレベルが上がったって考えた方が良いかもしれない。より洗練された嫌がらせ、っていうのかな」
忌々しげに鼻を鳴らし、しかしトヨミは不敵なオーラを全身から発し続ける。ノガレが何する者ぞ、と気配で誇る。
しばらく黙っていた帆織だったが、
「――色々、すまなかったな」
「どうしたの、急に?」
目を丸くするトヨミ。
「いや、ここ何回か君と夜の川に出て、ずっと思ってたのさ。不良呼ばわりして悪かった。もっと早く気が付くべきだったよ」
彼女がエビ漁を邪魔した時、水底にはノガレによる寒流の罠があった。彼女が音響銃を破壊したのは、その音がノガレの攻撃音と似た波形であり、連中を刺激する可能性があったからだ。その他、様々な彼女の不条理に見える行動は全て、一つの行動原理に基づくものだった。
「君はこの川を、子供たちをずっと守ってたんだ。なのに、すまなかった」
「帆織さんが謝ることじゃない。自分で気づかなきゃ意味がない、って決まりにこだわり過ぎた私も悪かったんだよ。それで誤解させちゃったんだしさ、お互い様」
「そう言ってもらえるとありがたいが――」
帆織は微笑み、
「しかし、他の子供たちにも見せてやりたいもんだな。魔女どころじゃない、本当は夜の川を守る漆黒のヒーローなんだぞ、ってな」
「やめてよ!」
トヨミは小さく声をあげ、
「ノガレの存在がばれちゃったらどうするの? なんのために私が独りで川へ出てたのか、分かんなくなっちゃう」
「そりゃ、そうなんだが――」
夜間調査事故の直後、口止めを言い渡した時の彼女を思い出しながら、帆織はトヨミの横顔を眺める。あの晩、帆織に同行者がおり、その全員がノガレに殺されたと知った時、彼女は憤怒の塊となった。強く噛み過ぎて下唇を切ってしまった。その怒りは怪物に対してというより、急行できなかった彼女自身に対するものと見えた。
「こんな私に言えた義理じゃないんだけど」
襲撃者について他言しないでくれと帆織に伝える時、トヨミはそんな言い方をした。次に会った時、つまり帆織の初陣が井崎教授の葬式と重なった時のしおらしさと言ったら、なかった。
「君はできる限りのことをしてるんだ。自分を責めるべきじゃない」
慰める帆織を、
「まだまだ足りないんだよ」
何も知らないくせに偉そうな口をきくな、という目で彼女は睨み付けたものだ。
その時に比べれば、彼女は数度の出動の間に大分打ち解けてきている。
「でもやっぱり、警告くらいした方が良いんじゃないか? 君もやりやすくなるはずだ」
「だから、それはダメなんだって。前にも言ったじゃん」
「ああ、聞いた。子供たちとノガレが互いに互いを見知ってはいけないというんだろ? その理由が、互いに迷いが出るからだ、ってのがちょっとよく分からなかったけど」
「そう?」
「ああ。だけど君は、水が澄んだせいでノガレの方では子供たちを知ってしまっている、あるいは、教えている者がいるかと思えるくらい不自然に知りすぎている、とも言ってたじゃないか。そうなると、川で遊ぶ子供たちが襲われる危険性が出てくるだろ?」
それはないよ、と川の魔女は軽く首を振った。
「前にも言ったけど、連中は完全な夜行性なの。他の地域では昼の磯で海女さんが襲われたりすることもあるみたいだけど、ここのノガレは完全な夜型。だから大事なのは、子供が夜の大川へ出ないこと」
「でも、昼行性、夜行性の区別は多くの動物にとって絶対じゃない。水生生物なんか特にそうだ。ある程度かたがつくまで、子供たちを陸にあげてしまえばいいんじゃないか?」
「残念だけど、それだけは特に、絶対にダメなんだ」
「なぜ?」
「子供たちが完全な昼行性である代わりとして、連中が完全な夜行性だから」
「……なんだって?」
「この辺りの子供たちは、昼の川の〝にんげんのようなもの〟の場所をうめる存在なの。ノガレは逆に、夜の川の、その場所をうめる存在。子供たちを陸にあげれば昼のその場所が空いちゃうでしょ? それを見逃すような奴らじゃない。連中が夜に封じ込められてるのも子供が昼の居場所を埋めていて、今のところ棲み分けがはっきりしてるから。場所をガラ空きにして、わざわざ隙を見せることない、って言うか、しちゃダメ」
余計に攻め込まれやすくなっちゃう、とトヨミ。
帆織は少し逡巡して、
「子供たちとあの化け物が時間帯を変えて同じニッチを共有している、ってことか?」
「ニッチ?」
「生物学の用語としては生態学的地位のことだ。一言で言うならある種が存続するための色々な要素を含む概念的な場かな。生態系は様々なニッチの組み合わせで成り立ってる。ある場所の生物相は、各ニッチがピースとなったジグソーパズルみたいなものなんだ」
「長い一言だね」
「サバンナにはライオンがいて、ハイエナがいて、ゾウがいて、シマウマがいて、ガゼルがいるだろ? 連中はそれぞれ自分の種に適したニッチをうけもっているんだ。百獣の王のニッチ、美しき蔑まれ者のニッチ、老賢者のニッチ、お騒がせ者のニッチ、みんなの大好物のニッチ、って具合さ。その組み合わせがサバンナの生態系という一つの絵を作ってる。どこかのニッチが欠ける、つまりある種が絶滅してニッチが空くと、それを埋めるための小さな進化を周囲の他種がやり出す。競争の末、誰かが空白を埋める覇者になる」
「ライオンが絶滅したら、百獣の王のニッチに入り込んだハイエナがそうなるてこと?」
「そのニッチに入り込めたらな。空いたニッチに一番入りやすいのは同種や近縁種だが、うまく適応した別種だったり移入された近似種だったり、最終的に空いたニッチを埋めるのは色々さ。空白を埋めた種が出自の種と別種になることもよくある。というかそれが種分化、新しい種ができる上でポピュラーなパターンの一つと言われてる」
「ライオンのニッチにうまく入り込めたハイエナがライエナになる、みたいな感じ?」
「そう。ライエナはライオンがそうであったように、ハイエナの新しいライバルになる。ともかく、長い目で見ると生き物たちは自分たちが在るべき場所、ニッチの陣取り合戦をやりながら進化してきたと言えるんだ」
「イメージとしては分かるけど……。子供とノガレの居るべき場所が重なってるってのはその通りかな。〝にんげんのようなもの〟の居場所を昼は子供が、夜は連中が仕切ってる」
「だが二つはまるで別種だし、生息場所も陸と海だ。どうしてこの川の中に共有できるニッチがあるんだ? 川の中にそんな場があることがそもそも変じゃないか?」
「そこまでは分かんないよ」
トヨミは笑った。
「そういうものだとしか知らない」
「とにかく、時間的な〝棲み分け〟が夜のタブーの正体だとすれば、警告できない理由はそこということなんだな。川ガキたちに自発的な陸上がりをされ、攪乱を誘導されても困るってわけだ」
帆織は少し考え、
「……待て、コハダたちは連中のことを知らないんだよな?」
「そのはずだよ。きっかけがあるまで普通の人には見えないの。あいつらは擬態で水中に溶け込んでる。帆織さんだってあの時まで、いくら夜の川に潜っても見なかったでしょう」
「じゃあなぜ、夜のタブーができるんだ? いや、確かに夜の川は危険だが、直接潜るのでもない仕掛け罠や無人機まで規制するのは変だ。それは夜の大川そのものへ関わりたくないって警戒心の現れだろ。子供たちはどうやって夜の川の、本当の危険を知ったんだ?」
「知ってるわけじゃないよ。でも、子供はそういう気配に敏感なの。夜の川に危ないものがいるってことは、鋭い人ならかなりしっかり感じてると思う。それこそ、コハダとか」
帆織はコハダのプランクトン採取のエピソードを思い出した。漁労長は水に溶け込んだ連中の残滓にすら警戒心を刺激されるほど鋭敏なのかもしれない。ならば禁忌にこだわりぬく姿勢にも納得がいく。理屈や感情でなく、動物的な感覚から夜の川を避けているのだ。
独り、勝手に納得している彼をキョトンとした目つきで見ていたトヨミだったが、
「まあ、この川のリーダーとしては理想的だよね。でも、コハダが完全に知っちゃってもいけない。ノガレを避けて陸上がりされるのも困るけど、なによりも、知ることは知られることだから」
「なんだって?」
「知ることは、知られるってこと。見るのは見られるってことだし、だから連中のことは秘密にしておかなきゃならない。だから帆織さんと私とで、なんとかしなきゃならない」
まあ、公表したところですんなりあいつらの存在を信じてもらえるとも思えないけどね、と彼女。
帆織は大きく息を吐いて頷いた。しばし迷った後、
「大学とスポンサーは調査隊の事故原因を〝河床型乱泥流〟で正式に決定するみたいだ」
「なにそれ? かしょうがたらんでいりゅう――?」
「さあな。ただ、化け物に襲われたってよりは信憑性のある発表だ。あの晩、君と別れて現場に戻ったら、先生たちの遺体回収はもう終わってた。俺は初期流に流されて奇跡的に助かったって、いつの間にか決めつけられててな、実は、君に口止めされたことを守るとか守らないとか考える暇もなく、口を利かせてすらもらえなかったんだ」
あの時、「違う」と帆織は思わず叫びそうになった。
だが、とっさに口を閉ざした。
トヨミの指示がなくてもきっとそうしただろう。
同じ気配を感じたからだ。彼が大川へやってくるきっかけ、あの時に感じたのと同じ、自分の運命が自分の知らないところで知らない誰かに操作されようとしている気配だ。慎重に動け、と彼は自分に言い聞かせた。再びの失敗は許されない。次は無い、と思った。
「不思議だね。大学やスポンサーが事故原因をでっち上げようとしてる、ってこと?」
「原因の説明がまるでつかない時、報告書を完成させるためにそれらしい理由をくっつけることはある。だけど、あの晩の録音も録画も、記録は全て〝紛失〟で処理されてた」
「原因が分からないんじゃなくて、誰かが故意に隠そうとしているって言いたいの?」
「その可能性が高い。たぶん、スポンサーが大事にしたくないんだ」
トヨミからの返事はない。
呆れて、黙り込んでしまったのかと帆織は思った。あるいは帆織の保身的傾向に勘づき、無言の批難としているのかもしれない、とも思った。
だが、やがて、
「それでいいんだよ」
強い調子で彼女は言い、帆織の肩をポンと叩いた。
「それでって?」
「気付かない人は気付かないままのほうがいいってこと。見られてるのに見えてないほど危ないこともないから。秘密にしたい人がいるなら、秘密にさせておけばいい。正面から向き合おうとしない人はどうせ戦いの役に立たないでしょ。素直に、単純に、知ってる人でやる気のある人が戦わなきゃならない。そういうものなんだよ、たぶん」
それで、やる気のある人は誰? とトヨミは明るく問いかけ、
「帆織さんと、私」
自分の質問に自分で答えると、帆織へ得意気な笑顔を見せた。
(まったく、たいした子だよ――)
決然とした眼光が思い出され、日差しを乱反射する川面と重なる。なぜ、自分の直感をもっと信じようとしなかったのか、今となっては不思議に思わざるを得ない。
ジャックナイフをうまくできる子、できない子、鼓膜にかかる圧力を抜く「耳抜き」ができる子、できない子に分かれ、アナゴ探し講習会は新しい段階へ入っている。
川風が吹き抜ける。
帆織は水面のきらめきに目を細め――、と、その時だ。
「サメだ!」
大声は潜りの練習をしていた子供たちの外縁、最も本流近く辺りで上がった。声の主は水面で両手をばたつかせ、明らかに挙動がおかしい。パニックだ。救助係のバヤック隊が飛び出した。叫びを聞いた他の子供たちにも動揺が走る。パニックが伝染しかねない、
「みんな上がれッ! コハダ、全員水から上げろ!」
大声で指示し、帆織は自分のバヤックへ駆けだした。
気性の荒いオオメジロザメが河川を遡ったり、淡水湖に生息したりすることがあることはよく知られているが、あれは暖かい地方の生き物だ。沖縄の川にはよくオオメジロザメの子供が入ってくる。だが、もっと北でも別種のサメの遡上例はあるのだ。また、これは川まで上がったわけではないが、平成十七年には五メートル近いホオジロザメの、それほど傷んでいない遺骸が川崎港に漂着した例もある。最強のサメが関東近海にも生息するこの証拠は、迷い海獣を追うなどした彼らが湾奥まで誘導されうる可能性を示している。大型動物検知用の自動通報システムが河口に設置されてはいるが、相手は動物だ、すり抜けが全くないわけではない。シラブカは……こんな真昼間に出ないはずだ。そもそも検知されるかも分からない。
帆織はバヤックに跨り、思い切りペダルを踏みこんだ。
だが、間に合わない。まだ水中にいる少年の背後へ影が差す。頭を突き出し、少年の首へ腕を巻きつけ、
「サメじゃねぇッ!」
マルタだった。よく通る大声に、その場にいた全員が安堵の溜息をつく。
パニックから脱し切れていない少年を救助係のバヤックへ押し上げ、再び潜行した彼が次に顔を出したのは帆織の足元だった。立ち泳ぎしながら敬礼のような仕草をして見せ、
「とりあえず全員上げてくれ、保安官」
「サメはいないんだろ?」
「ああ。でも、なんかでかい影が見えた。サメじゃねえけど、生き物だ」
「そのまま上陸して待機――ッ」
マルタにバヤックの動きを合わせながら、帆織は大声で指示を出した。リーダー連中を除く子供たちは大人しく上がりはしたものの、好奇心に目を輝かせて水際から離れない。
「魚探にも映ってるぜ!」
自艇を軽く走らせたカジメが叫ぶ。彼のバヤックはメカマニアのそれらしく、実用性のあるものから全く無いものまで、様々な電子艤装が施されている。
「かなりでかい。流れに逆らってるから生き物だ。どうする、潜って確認するか?」
「その必要はないよ」
マルタの隣にひょっこり顔を出したのはコハダだ。その手には深海でも耐えられると評判のカメラ付き防水端末がある。
「もう、撮ってきたから」
「さすがだな」
「水軍のグループチャットに上げるね。保安官にも送ったげる」
早速子供たちは自分の端末をいじり始める。各々のディスプレイをのぞき込んだ全員が全く同じタイミングで顔をしかめたのが帆織にはおかしかったが、
「――なんだ、こいつ?」
着信したメールの添付ファイルを開くと、自分も同じような顔をするしかない。
水底の漣痕と比較してかなり大型であることが分かる。七メートルは確実にある、と帆織はオニアカを思い出しながら推定した。
巨大な樽を寸胴のまま引き伸ばしたような体、その先端にある小さな頭部は首を端折って適当にくっつけたと見えるほどに寸詰まりだ。カバから外耳を取って無理に小さく丸め込んだような顔つき、それでいて表情は、カバだのウシだの大人しそうな顔をして狂暴な連中には到底真似できない、どこまでも間延びした、真にとぼけた面構えをしている。拡大すれば口の周りに生える硬そうなヒゲがその表情を一層味わい深く引き立てていた。カイギュウ目の哺乳動物であろうことは見当がついたが、
「まさか、ジュゴンか? でも、さすがにこんなところには……」
「違うよ!」
陸にいた少年がすかさず声を上げた。海獣博士だ。
「ジュゴンだとしたら体に対して頭が小さすぎる! それにジュゴンはこんなに大きくならないよ!」
「じゃあ、ええと」
帆織は懸命に記憶を探る。
「そうだ、マナティだ」
真奈と行った沖縄の水族館で見たことがある。あれもとぼけた顔つきで、水面に浮かぶ餌のレタスを貪り食っていた。その後しばらく、真奈がその顔真似をよくやったものだ。
「そんな感じはするけど、それにしたって大き過ぎるし、あと尾びれと、手の形も違う。マナティの前足はもうちょっとしっかりしてるんだ。こいつのは切り株みたいでしょ?」
「じゃあ、なんなんだ?」
「あのねッ、変なこと言うみたいだけどねッ……」
だが、海獣博士は自説を最後まで披露しきれなかった。子供たちがふいに歓声を上げたのだ。何事かとその視線を追った帆織の目に、ぼんやり浮上する灰褐色の巨体が映る。
ふと蝉が鳴き止んで、ぶふう、というくぐもった息継ぎの音がよく響いた。鯨類と違い、鼻孔は前向きに開いている。巨体のわりに控えめな飛沫が前斜め四五度の角度に上がる。
「でかいな……」
帆織は呟いた。
子供たちは静かだ。歓声も手拍子も今や鳴りを潜め、その場の全員が見惚れている。突然、何を思ったかコハダが再び水中へ没した。やがて顔を出し、
「ねえ、保安官」
神妙な面持ちで呼びかける。
「水の中にさ、まだ、いっぱいいるんだけど……」
低学年の子供たちはこの日のために新調したラッシュガードや水着を身に着け、川沿いの護岸テラスは新作水着発表会の様相を呈する。そしてそれだけに、日に焼けた育ち盛りの体を各々自信のある格好で装った上級生たちはかなり逞しく、眩しく見える。
帆織の足元、水を張ったバケツで「キュウ」とアナゴが鳴いた。十分ほど前にコハダが見本として獲ってきた型の良いマアナゴだ。蒲焼きを想像し、帆織は思わず涎を啜る。
大川のアナゴは寿司も美味いが、最高の食べ方はアナゴ飯だ。
あまり大きなアナゴは大味になってしまうから、エンピツアナゴと呼ばれるよりも少し大き目くらいの個体がちょうど良い。これを腹から開いて特性のたれを塗り、蒲焼きにする。焼く前に蒸したりしてはいけない。せっかくの気が抜けてしまうからだ。串は打たず、網焼きが手軽だ。串を打たないで焼くとアナゴの身は背中を中心に丸まっていく。好みの焼き加減で構わないが、そこそこ焼いた方が香ばしさが増してうまくなる。焼き終えたら、飴色の棒のようになったアナゴを一センチ幅のぶつ切りにする。
焼きにかかる前、捌いた時に出る骨や頭などのアラを水炊きにして取ったとろりと濃い出汁を醤油と砂糖で整え、こいつで飯を炊いておく。ぶつ切りにした身を炊き立てのご飯に混ぜ込むと出来上がりだ。
底の浅い茶碗に軽く盛り付ける。山椒粉などの薬味は全く必要ない。一口頬張るとアナゴ独特の滋味が口いっぱいに広がり、焼け焦げたタレの香ばしいこと、掻き込み始めれば瞬くうちに無くなること請け合いの絶品なのだ。
子供のおやつによし、酒のあてによし、もちろん晩飯の主役も張れる。数年前、瀬戸内から転校してきた少年がこの方法を豊洲水軍に伝え、それが大川中の水軍へ一気に広まった。
問題はアナゴが夜行性の魚だということである。
昼間、アナゴの成魚は砂泥底に全身をうずめて隠れており、夜になると泳ぎ出て餌を漁る。自然、漁にも夜が絡む。これが普通の漁ならば、餌を入れた筒状の罠を夜通し沈めておいて誘い込んで獲る。竿釣りならば時合いは夕暮れ時以降、餌は魚の切り身が使われやすいが、イカも使う。暗闇の中でアナゴの興味を引くため、化学発光体でを仕掛けにつけて投げ込む、完全な夜釣りになる。
しかし夜通しの罠を仕掛けることさえ禁じられるほどに厳しい夜の禁忌を持つ大川の子供たちは、だから昼間、アナゴの寝首を掻くスタイルを会得した。「アナゴ探し」と呼ばれる漁法だ。
川底まで一気に潜り、流れに逆らって泳ぎつつ、姿勢を底と水平に保って息を潜める。目を皿のようにして辺りを窺う。ちょっと見ただけではわかるはずもないのだが、広大な砂泥底の砂漠をよくよく見ていくと、流れが刻む漣痕の凹凸の他、舐めるようになだらかな堆積粒子の所々に、異質な色合いの、小指の先ほどの小さな小さな三角形が突き出していることが分かる。アナゴの吻、鼻先だ。完全に砂へ潜っている時もあるが、横着な彼らはそうやって鼻先だけを突き出し、外界の様子を嗅覚で見ているのである。
アナゴ探しにはまず、この吻を見つける面白さがある。
突き出した吻に、そっと近寄っていく。
底とすれすれに泳ぐが、強く水をかいたり、砂地へ手をついたりしてはいけない。振動で警戒されて吻を引っ込められれば戦わずしてこちらの負けだ。その代わり無事、一メートルほどにまで接近できればスリリングなやり取りが待っている。
細く削った竹ひごの先に細身の釣り針を結んだ仕掛けをあらかじめ用意して潜るのだが、大川の子供たちはこの針へ餌を刺す代わり、毛糸を二センチほど結び付ける。これでアナゴの吻をくすぐってやるのだ。羊毛より、アクリル毛糸の方がうまく、くすぐりの効果が出る。強すぎず弱すぎず、絶妙のじらし具合で五秒もくすぐればアナゴはいい加減に苛つき、最終的には釣り針を毛糸ごと噛みついて針掛かりする。
宝探しの要素もあり、潜水の練習にはもってこいで、一度引っ張り合いとなれば砂中のアナゴが踏ん張る力は驚くほど強い。それをズボッと引き抜いた時のカタルシスときたら水の中でつい、大口を開けて笑ってしまうくらい、素朴だがかなり愉快な漁法だ。
よって中学生や小学校高学年が合同で年下の子供を対象に開く、夏休み初日の恒例「アナゴ探し講習会」は毎年かなり盛況になる。ちびっ子たちは素潜りの基礎から、ここできちんと教わっていく。
「さて、我らが佃水軍ですが、今年の町会祭りの出し物はエビ串とアナゴ飯ということになりました。みんな、アナゴを捌くのはできるよねー?」
護岸テラスへ集結して体育座りした後輩たちを前にして、コハダは慣れた調子で講師を務めていた。
すでに真っ黒く日焼けした年下の少年少女は目をワクワクと輝かせ、一言も聞き漏らさぬよう耳をそばだてていてる。今日はいつも以上に教え手としての先輩を尊重する日だ。がっつり学んでやろうという気迫が全員の面持ちを神妙にする。
「お祭りに向けて魚の型を揃えて用意したい。こんな時はサイズを選んで狙えるアナゴ探しが一番、効率的だよ。でも、アナゴ探しは危険なことも多い。絶対に一人でやらないこと」
幾つかの注意事項をコハダが述べた後、深く潜るための実地練習が始められた。
まず、マルタとカジメが基本的潜行方法「ジャックナイフ」の模範演技を行う。夏休みなので高校生の水軍OBも参加しているが、基本はコハダたち中学生の独壇場だ。
少年二人が身を翻す海龍のごとくするすると深みへ落ち、直前にコハダが投げ込んだフラッグ付きの錘を拾って瞬くうちに水面へ戻ると、観客たちから素直な称賛がどっと上がった。
「よし、じゃあ一人一人、お兄さん、お姉さんについて川へ入ろーう!」
言いながら真っ先に川へ飛び込むコハダは、やはり、小さなエビめいている。
太陽の光は燦々と、子供たちの笑顔もそのままに、相変わらずの夏の大川だ。
だが帆織は、以前ほど気楽にはその様子を眺められなかった。日差しより焦燥に焼かれる思いがする。この健康的なお祭り騒ぎの裏側で、得体のしれない侵略者が跋扈していると彼は知ってしまったからだ。煌びやかな昼と夜の差に潜む、白い悪魔の微笑みがある。
そして独り、健気に戦う少女がいる――。
「停まって!」
トヨミの鋭い制止が帆織の耳へ甦る。昨晩のことだ。
彼が彼女と共に行動するようになって五度目の川行、早くも「奴」が帰って来た。
帆織は慌ててバヤックを漕ぐ足を止めた。流れや惰性で進むのを避けるために逆回転で漕ぎながら後ろを向く。彼の二度目の参加からはオニアカへ人型デコイを載せて両国辺りに派遣し、水上警察に対する囮にしている。帆織のアイデアだ。その代わり、帆織のバヤックに二人乗りして作業に当たった。帆織が運転し、荷台のトヨミが祓うのだ。
周囲の水面を険しい眼差しで窺いながら手早く銛を組み立てるトヨミ、彼女の使役するエイの群れが水中でさっと散開するのが帆織にも見え、
「――奴か?」
「この下に来てる」
トヨミが答えた直後、ふいに艇の数メートル前方へ大量の気泡が上がって弾けた。
「吸わないで!」
言われるまでもない、帆織は慌てて息を止める。気化した穢れは粘度の高い無数の大泡となり、少しずつ位置を変えながら連続して立ち上がる。次々弾けるが、底からの供給が過剰なので消えることが無い。瞬く内に巨大なリングが水面へ裏打ちされる。円の中心には二人がいる。ヒゲクジラ類が餌となるオキアミやイワシの群れをバブルリングで水面へ囲い込むように、この輪も、二人を包囲するための毒性結界なのだ。
「来るよ!」
トヨミが叫び、前を向いた帆織が慌てて、思い切りペダルを踏み込む。
バヤックが円の中心を脱したのと同時、それまで二人が浮いていた水面が山のように盛り上がって割れた。全ての泡が一気に弾け飛んだ。何頭かのクジラが一斉に潮を吹いたようで、川面が霧でけぶる。
その中へ突き出たのは巨大な顔だ。「ウバザメのゾンビか幽霊」といつだかトヨミが表現したその顔は、なお息を堪える帆織の視界一杯に迫った。不気味な白い鮫のような尖り顔、以前トヨミが鼻先に打ち込んだ銛は無くなっている。全てをひっくり返す大波を寄越し、邪教の偶像めいて川面へそそり立った。
ボートに比べれば紙のように軽いバヤックでも、双胴艇の転覆は立て直すのが厄介だ。ペダルと舵を必死で操り、体を傾けてなんとか姿勢維持に努める帆織だったが、
「!」
船体後部が無遠慮に沈み込むのを感じる。とっさに振り返ればトヨミが銛を掲げて空中へ身を躍らせる、その瞬間が見えた。上下する波のリズムを巧みに捉えた彼女は軽々夜へ舞いあがり、そして落ちてきた。そのまま全体重をかけて穂先を打ち込む。銛は反転して潜ろうとする怪物の左胸鰭の付け根へ、ほぼ垂直に命中した。柄に掴まって自分の勢いを殺し、体勢を立て直すためだろう、トヨミは穂先と繋がった細縄を後に引き、水へ飛び込む。
帆織は思わず「よしッ」と頷いた。想定外のファイトだがチャンスだ。銛は以前より深々と相手を捉えた。水面へ顔を出し、引き波に逆らって泳ぐ彼女へ素早く艇を寄せる。
上ずった調子で、
「やったなッ、さあ、綱引きだ!」
だが、リアシートへ上がってきた少女は憮然とした表情で彼を見上げた。
「だめだよ」
これ、と渡された細縄を帆織は手繰った。やがて強烈な引き込みが応じるはずだったから両足を踏ん張り、腰を入れて身構えた。
だが、縄はわずかな抵抗だけで寄せることができた。それはただ、銛の柄が川から受ける水の抵抗だった。柄と穂先が分離するより、突き立った穂先が獲物の体表から抜け落ちる方が早かったのだ。
「あ、ほら、あそこ」
トヨミが示した先に銛が柄ごと浮いていた。帆織がなお手繰り寄せるのに合わせ、彼女が腰のリールを巻きとっていく。やがて銛を引き上げ、ぶんと一振りして水を切った。
「結構しっかり刺さったように見えたけどな。ノガレに邪魔されたのか?」
「いや、あいつらはいなかった」
トヨミが首を振る。
「でも、刺した時の感触がおかしかったよ。絹ごし豆腐でも突いたみたいに、表面が柔らかかった。あいつが潜った時の水の抵抗で、傷口が勝手に広がって銛が抜けたんだと思う。前の時とは全然違った」
「銛が役に立たない、ってことか」
「そのために向こうが変化したのかもしれない」
どうするかな、と彼女は頭を掻く。
「逃げちゃった、ってことは全く効果がないわけでもないんだろうけどさ」
とにかく、と仕切り直し、
「ここのヨドミを祓っちゃおう」
阿吽の呼吸、とでも言うべきか、トヨミが銛を手にしたままで荷台へ立ち上がった時、すでにアカエイたちはこちらへ向かって一斉に集結を始めている。
鈍重そうにも見えるアカエイだが、実際は水を突っ切って飛ぶように泳ぐ。とりわけ、横幅が一メートルを超えるまで育った成体の遊泳力は抜群に素晴らしい。外洋性のエイにも負けない。たった今、遠目に見えたかと思えば、もう、すぐそこに迫っている。トヨミの猟犬は老練で大型の個体が多い。それが大きな群れを作り、ひれを波打たせて水面直下をぐいぐい進む光景は波の上から見下ろすだけでも圧巻だった。
個体同士適度な距離を保ち、整然と隊列を組んで、アカエイたちはだだっ広い夜の川を動き回る。まるでエイの絨毯と見える。体と一体化した力強いひれが規則正しく動くその度に、あかがね色の背中と金色を帯びた白い腹の明滅が仄暗い水中で閃く。無数の眼球が陸上からの灯りに照らされて金緑色に爛々と輝いている。
やがてエイたちは群れの右端側から順に体を傾け、体勢を底と垂直にして泳ぎ始めた。対称軸を取りながら旋回し、群れ全体で水中へ円筒形の祭壇を築いていく。
「今のでだいぶ散っちゃったな。かたまってた方が祓いやすいんだよね」
ぼやきながら、水面下に突き処を窺うトヨミ。こういう時、バヤックを円筒の中心に置いてしまえば、帆織は後は見ているしかない。
エイが作る円筒の内側でその場所は文字通り淀み、濁っていた。周囲と比べても明らかに異質な塊だ。しかし固体ではない。周りの川水同様に液体で、粘性にも変わりがない。化学組成だけを見ればこれもまた「水」と同定されるはずだった。
だが違う。まったく違う。やはり「場」と言った方が良いのだろう。ただの水にただの水でない振る舞いをさせる、場が生じている。滔々と流れる川の本流に在って、この場所だけが、目に見えない薄い膜で周囲から切り離されてしまったかのように流れていない。他の流れが周囲を素通りする中で、その内側だけは大きな堆積作用が働いているらしい。もろもろと澱が漂い、泥粒や微小動物の死骸が静かに沈澱している。水面から水底まで、闇が細かく溶け込んで、ぷん、と腐敗の兆候を表している。生ぬるい水が溜まっている。
帆織はふと、潜水調査船が映した深海の記録映像を思い出した。あの映像の持つ神秘性の正負が逆転すれば、きっとこんな感じだろう。
トヨミが息を詰める。直後、突き込まれた銛の穂先が歪みの一点を貫いた。
ざぶざぶと白波を立てながら水面へ切り刻まれるのは「セーマン」と呼ばれる星形印と「ドーマン」と呼ばれる格子印、現在でも我が国の一部の海女や漁師が魔除けに使う呪術図形の繰り返しだ。柄へかかる水圧に唇はきゅっと一文字、両腕へ懸命に力を込めて彼女は水を切り続ける。リトル・ウィッチの面目躍如、瞳の奥には炎が煌めき、時折、呪文のようなものを素早く呟いては口先へ跳んだ飛沫をちろりと舐めている。
やがて、大粒のあぶくが底から立ち上がり始める。
水面に飛び出し、ゆっくり割れる。
ハイスピード撮影を再生するように不自然な遅さで、破裂の過程がよく見えた。
「ヨドミはオリの偏りだって言ってたな」
泡から顔をそむけつつ、帆織は詠唱を終えた少女へ問いかける。
「じゃあ、オリってなんなんだ?」
「一口にオリと言っても、幾つか種類があるんだけど……」
トヨミは言葉を選んだ。
オニアカの背へ渡された張り綱に掴まり、潜ったり浮いたりを繰り返した一度目にはそんな余裕も無かったが、二度目からは二人とも、それなりによく喋った。結果、帆織の知識も偏って増え続けている。最初に彼が知ったことは、この夜間パトロールが化け物退治を目的として行われているわけではないということだった。戦いはあくまでおまけで、この川行の主眼は、夜の大川に湧く場の祓いにあるのだ。
「この場合は、人の心が垂れ流す有害物質ってことになるのかな。嫌な気持ちの、残り滓」
「気持ちの残り滓?」
陸を浄め、諸々の穢れを海へと流す、地球規模の洗礼の場。それが川の役割だ。
陸地が誕生して以来、数十億年に渡って、川は大地の静脈を務めてきた。陸上の全てはいつか川へ流れ出て海へと下る。中でもこの世界の「垢」と言うべき様々なオリ、諸々の均衡を負へ傾ける要素は、最終的には海溝の底まで沈んで地の奥深くへ飲み込まれ、地球内部の巨大な熱源にさらされて完全に清められる。分解されたそれらは上昇流へ乗り、再び物質循環へ戻って世界を構成する一部となる。あるモノは再びオリとなり、またあるモノは、今度は均衡を保つ主体となる。本当に、全てが循環している。
だが、多くは複雑系の偶然に起因して、オリが海へ下りきれず川に留まってしまうことがあるのだという。オリはオリを引き寄せる。オリの極端な集合がヨドミである。
有史以降では、主に人の心にまつわるオリの排出が人口密集地近郊の河川で偏って多くなり、中でも河口部一帯はオリの集中のためにヨドミの生じやすい場所となってきた。
血中の有害物質を除去するシステムが人の体に複数備わっているように、川にも汚染を拭い去るホメオスタシスが用意されている。トヨミの家系は、いわば血管壁に取り付いたコレステロールを除去するタンパク質をコードした遺伝暗号のような存在だ。その血筋は突然変異かつ自然発生的に、しかし自然界の平衡要求に応じて誕生した。アカエイを使役してヨドミを探し、役割の定めるところによってそれを祓う。オリを散らして海へと流す。オニアカは従者の役割を与えられた一族の末裔なのだそうだ。
しかし、こうした大地の備えにも関わらず、かつての検知可能な汚染がそうであったように、汚染が浄化速度を上回れば、血中の有害物質の濃度は高まってしまう。ヨドミの発生頻度も上がる。
「つまり、陸上で嫌な気持ちになる人が増えれば、川は余計にオリで汚れてしまう?」
「そ」
トヨミは頷いた。はい、おしまい、と水から銛を引き抜き、
「それに今は、わざとヨドミを作ってる奴らがいるからね」
あの白い人魚のような化け物はフカミノガレとか、カタワレとか呼ばれる種族なのだという。トヨミは縮めて「ノガレ」と呼ぶ。昼は海の深みに隠れ棲み、気が向けば夜の浅場へ上がってきて、水辺で人に悪さする。伊勢辺りで「トモカヅキ」と呼ばれ、海女を溺死させるとして恐れられている妖怪の正体も、実はこのノガレの近縁種なのだそうだ。
「あんな連中が昔からいたっていうのが、ちょっと信じられんな」
「でも、ずっと昔からいたの。昔はもっと見つけやすかったって大叔母さんが言ってた。大川が人間の排水でとんでもなく汚くなったせいで、浄化が完了するまでの数十年くらいは上がってこられなかったってだけ。毒をもって毒を制してたんだね」
「科学的な川の浄化が再び、奴らを呼び寄せた……。さっきのアレもか?」
「シラブカね。フカって言っても、見た目がサメっぽいってだけで、深海に沈んだ鯨骨を依代にしてオリで肉付けした一種の式神らしいの。この前、物置きで資料見つけたんだ。多分、私やオニアカへ対抗するボディガードとしてノガレがわざわざ打ったんだと思う」
「……しきがみ、ねぇ」
帆織は何とも言いようが無い。このところ彼の世界観は崩れっぱなしだった。
だがそれらは実際に彼の目の前に在り、目の前で起こる事柄なのだ。
「ボディガードをつけてまで人へ嫌がらせしたいものかな」
「前にも言ったじゃん。それが連中の、ええと……」
「存在意義?」
「そうそう!」
トヨミは我が意を得たりとばかりに力強く頷き、
「川底に冷たい流れを仕掛けて、潜った人に温度差ショックを起こさせるとか、あいつら、そういうことが大好きなの。夜の川辺で人を引き込むとか、船底に穴をあけるとか、昔はもっと、直接的な嫌がらせをしてたんだって。オリを操作してヨドミを溜める、みたいな回りくどいやり方を始めたのは最近の話。淵や、流れの弛みにはオリが溜まってヨドミができやすいの。それで、そういう場所には昔から上津瀬石を沈め立てて流れをはけやすくしてるんだけど、あいつら、最近はそれを壊すことまで覚えたからね」
「水軍への疑いは濡れ衣か。しかしどうしてノガレは、やり方を直接的から間接的に変えたんだろう?」
「直接のやり方もまだやってるから、変えたってより、嫌がらせのレベルが上がったって考えた方が良いかもしれない。より洗練された嫌がらせ、っていうのかな」
忌々しげに鼻を鳴らし、しかしトヨミは不敵なオーラを全身から発し続ける。ノガレが何する者ぞ、と気配で誇る。
しばらく黙っていた帆織だったが、
「――色々、すまなかったな」
「どうしたの、急に?」
目を丸くするトヨミ。
「いや、ここ何回か君と夜の川に出て、ずっと思ってたのさ。不良呼ばわりして悪かった。もっと早く気が付くべきだったよ」
彼女がエビ漁を邪魔した時、水底にはノガレによる寒流の罠があった。彼女が音響銃を破壊したのは、その音がノガレの攻撃音と似た波形であり、連中を刺激する可能性があったからだ。その他、様々な彼女の不条理に見える行動は全て、一つの行動原理に基づくものだった。
「君はこの川を、子供たちをずっと守ってたんだ。なのに、すまなかった」
「帆織さんが謝ることじゃない。自分で気づかなきゃ意味がない、って決まりにこだわり過ぎた私も悪かったんだよ。それで誤解させちゃったんだしさ、お互い様」
「そう言ってもらえるとありがたいが――」
帆織は微笑み、
「しかし、他の子供たちにも見せてやりたいもんだな。魔女どころじゃない、本当は夜の川を守る漆黒のヒーローなんだぞ、ってな」
「やめてよ!」
トヨミは小さく声をあげ、
「ノガレの存在がばれちゃったらどうするの? なんのために私が独りで川へ出てたのか、分かんなくなっちゃう」
「そりゃ、そうなんだが――」
夜間調査事故の直後、口止めを言い渡した時の彼女を思い出しながら、帆織はトヨミの横顔を眺める。あの晩、帆織に同行者がおり、その全員がノガレに殺されたと知った時、彼女は憤怒の塊となった。強く噛み過ぎて下唇を切ってしまった。その怒りは怪物に対してというより、急行できなかった彼女自身に対するものと見えた。
「こんな私に言えた義理じゃないんだけど」
襲撃者について他言しないでくれと帆織に伝える時、トヨミはそんな言い方をした。次に会った時、つまり帆織の初陣が井崎教授の葬式と重なった時のしおらしさと言ったら、なかった。
「君はできる限りのことをしてるんだ。自分を責めるべきじゃない」
慰める帆織を、
「まだまだ足りないんだよ」
何も知らないくせに偉そうな口をきくな、という目で彼女は睨み付けたものだ。
その時に比べれば、彼女は数度の出動の間に大分打ち解けてきている。
「でもやっぱり、警告くらいした方が良いんじゃないか? 君もやりやすくなるはずだ」
「だから、それはダメなんだって。前にも言ったじゃん」
「ああ、聞いた。子供たちとノガレが互いに互いを見知ってはいけないというんだろ? その理由が、互いに迷いが出るからだ、ってのがちょっとよく分からなかったけど」
「そう?」
「ああ。だけど君は、水が澄んだせいでノガレの方では子供たちを知ってしまっている、あるいは、教えている者がいるかと思えるくらい不自然に知りすぎている、とも言ってたじゃないか。そうなると、川で遊ぶ子供たちが襲われる危険性が出てくるだろ?」
それはないよ、と川の魔女は軽く首を振った。
「前にも言ったけど、連中は完全な夜行性なの。他の地域では昼の磯で海女さんが襲われたりすることもあるみたいだけど、ここのノガレは完全な夜型。だから大事なのは、子供が夜の大川へ出ないこと」
「でも、昼行性、夜行性の区別は多くの動物にとって絶対じゃない。水生生物なんか特にそうだ。ある程度かたがつくまで、子供たちを陸にあげてしまえばいいんじゃないか?」
「残念だけど、それだけは特に、絶対にダメなんだ」
「なぜ?」
「子供たちが完全な昼行性である代わりとして、連中が完全な夜行性だから」
「……なんだって?」
「この辺りの子供たちは、昼の川の〝にんげんのようなもの〟の場所をうめる存在なの。ノガレは逆に、夜の川の、その場所をうめる存在。子供たちを陸にあげれば昼のその場所が空いちゃうでしょ? それを見逃すような奴らじゃない。連中が夜に封じ込められてるのも子供が昼の居場所を埋めていて、今のところ棲み分けがはっきりしてるから。場所をガラ空きにして、わざわざ隙を見せることない、って言うか、しちゃダメ」
余計に攻め込まれやすくなっちゃう、とトヨミ。
帆織は少し逡巡して、
「子供たちとあの化け物が時間帯を変えて同じニッチを共有している、ってことか?」
「ニッチ?」
「生物学の用語としては生態学的地位のことだ。一言で言うならある種が存続するための色々な要素を含む概念的な場かな。生態系は様々なニッチの組み合わせで成り立ってる。ある場所の生物相は、各ニッチがピースとなったジグソーパズルみたいなものなんだ」
「長い一言だね」
「サバンナにはライオンがいて、ハイエナがいて、ゾウがいて、シマウマがいて、ガゼルがいるだろ? 連中はそれぞれ自分の種に適したニッチをうけもっているんだ。百獣の王のニッチ、美しき蔑まれ者のニッチ、老賢者のニッチ、お騒がせ者のニッチ、みんなの大好物のニッチ、って具合さ。その組み合わせがサバンナの生態系という一つの絵を作ってる。どこかのニッチが欠ける、つまりある種が絶滅してニッチが空くと、それを埋めるための小さな進化を周囲の他種がやり出す。競争の末、誰かが空白を埋める覇者になる」
「ライオンが絶滅したら、百獣の王のニッチに入り込んだハイエナがそうなるてこと?」
「そのニッチに入り込めたらな。空いたニッチに一番入りやすいのは同種や近縁種だが、うまく適応した別種だったり移入された近似種だったり、最終的に空いたニッチを埋めるのは色々さ。空白を埋めた種が出自の種と別種になることもよくある。というかそれが種分化、新しい種ができる上でポピュラーなパターンの一つと言われてる」
「ライオンのニッチにうまく入り込めたハイエナがライエナになる、みたいな感じ?」
「そう。ライエナはライオンがそうであったように、ハイエナの新しいライバルになる。ともかく、長い目で見ると生き物たちは自分たちが在るべき場所、ニッチの陣取り合戦をやりながら進化してきたと言えるんだ」
「イメージとしては分かるけど……。子供とノガレの居るべき場所が重なってるってのはその通りかな。〝にんげんのようなもの〟の居場所を昼は子供が、夜は連中が仕切ってる」
「だが二つはまるで別種だし、生息場所も陸と海だ。どうしてこの川の中に共有できるニッチがあるんだ? 川の中にそんな場があることがそもそも変じゃないか?」
「そこまでは分かんないよ」
トヨミは笑った。
「そういうものだとしか知らない」
「とにかく、時間的な〝棲み分け〟が夜のタブーの正体だとすれば、警告できない理由はそこということなんだな。川ガキたちに自発的な陸上がりをされ、攪乱を誘導されても困るってわけだ」
帆織は少し考え、
「……待て、コハダたちは連中のことを知らないんだよな?」
「そのはずだよ。きっかけがあるまで普通の人には見えないの。あいつらは擬態で水中に溶け込んでる。帆織さんだってあの時まで、いくら夜の川に潜っても見なかったでしょう」
「じゃあなぜ、夜のタブーができるんだ? いや、確かに夜の川は危険だが、直接潜るのでもない仕掛け罠や無人機まで規制するのは変だ。それは夜の大川そのものへ関わりたくないって警戒心の現れだろ。子供たちはどうやって夜の川の、本当の危険を知ったんだ?」
「知ってるわけじゃないよ。でも、子供はそういう気配に敏感なの。夜の川に危ないものがいるってことは、鋭い人ならかなりしっかり感じてると思う。それこそ、コハダとか」
帆織はコハダのプランクトン採取のエピソードを思い出した。漁労長は水に溶け込んだ連中の残滓にすら警戒心を刺激されるほど鋭敏なのかもしれない。ならば禁忌にこだわりぬく姿勢にも納得がいく。理屈や感情でなく、動物的な感覚から夜の川を避けているのだ。
独り、勝手に納得している彼をキョトンとした目つきで見ていたトヨミだったが、
「まあ、この川のリーダーとしては理想的だよね。でも、コハダが完全に知っちゃってもいけない。ノガレを避けて陸上がりされるのも困るけど、なによりも、知ることは知られることだから」
「なんだって?」
「知ることは、知られるってこと。見るのは見られるってことだし、だから連中のことは秘密にしておかなきゃならない。だから帆織さんと私とで、なんとかしなきゃならない」
まあ、公表したところですんなりあいつらの存在を信じてもらえるとも思えないけどね、と彼女。
帆織は大きく息を吐いて頷いた。しばし迷った後、
「大学とスポンサーは調査隊の事故原因を〝河床型乱泥流〟で正式に決定するみたいだ」
「なにそれ? かしょうがたらんでいりゅう――?」
「さあな。ただ、化け物に襲われたってよりは信憑性のある発表だ。あの晩、君と別れて現場に戻ったら、先生たちの遺体回収はもう終わってた。俺は初期流に流されて奇跡的に助かったって、いつの間にか決めつけられててな、実は、君に口止めされたことを守るとか守らないとか考える暇もなく、口を利かせてすらもらえなかったんだ」
あの時、「違う」と帆織は思わず叫びそうになった。
だが、とっさに口を閉ざした。
トヨミの指示がなくてもきっとそうしただろう。
同じ気配を感じたからだ。彼が大川へやってくるきっかけ、あの時に感じたのと同じ、自分の運命が自分の知らないところで知らない誰かに操作されようとしている気配だ。慎重に動け、と彼は自分に言い聞かせた。再びの失敗は許されない。次は無い、と思った。
「不思議だね。大学やスポンサーが事故原因をでっち上げようとしてる、ってこと?」
「原因の説明がまるでつかない時、報告書を完成させるためにそれらしい理由をくっつけることはある。だけど、あの晩の録音も録画も、記録は全て〝紛失〟で処理されてた」
「原因が分からないんじゃなくて、誰かが故意に隠そうとしているって言いたいの?」
「その可能性が高い。たぶん、スポンサーが大事にしたくないんだ」
トヨミからの返事はない。
呆れて、黙り込んでしまったのかと帆織は思った。あるいは帆織の保身的傾向に勘づき、無言の批難としているのかもしれない、とも思った。
だが、やがて、
「それでいいんだよ」
強い調子で彼女は言い、帆織の肩をポンと叩いた。
「それでって?」
「気付かない人は気付かないままのほうがいいってこと。見られてるのに見えてないほど危ないこともないから。秘密にしたい人がいるなら、秘密にさせておけばいい。正面から向き合おうとしない人はどうせ戦いの役に立たないでしょ。素直に、単純に、知ってる人でやる気のある人が戦わなきゃならない。そういうものなんだよ、たぶん」
それで、やる気のある人は誰? とトヨミは明るく問いかけ、
「帆織さんと、私」
自分の質問に自分で答えると、帆織へ得意気な笑顔を見せた。
(まったく、たいした子だよ――)
決然とした眼光が思い出され、日差しを乱反射する川面と重なる。なぜ、自分の直感をもっと信じようとしなかったのか、今となっては不思議に思わざるを得ない。
ジャックナイフをうまくできる子、できない子、鼓膜にかかる圧力を抜く「耳抜き」ができる子、できない子に分かれ、アナゴ探し講習会は新しい段階へ入っている。
川風が吹き抜ける。
帆織は水面のきらめきに目を細め――、と、その時だ。
「サメだ!」
大声は潜りの練習をしていた子供たちの外縁、最も本流近く辺りで上がった。声の主は水面で両手をばたつかせ、明らかに挙動がおかしい。パニックだ。救助係のバヤック隊が飛び出した。叫びを聞いた他の子供たちにも動揺が走る。パニックが伝染しかねない、
「みんな上がれッ! コハダ、全員水から上げろ!」
大声で指示し、帆織は自分のバヤックへ駆けだした。
気性の荒いオオメジロザメが河川を遡ったり、淡水湖に生息したりすることがあることはよく知られているが、あれは暖かい地方の生き物だ。沖縄の川にはよくオオメジロザメの子供が入ってくる。だが、もっと北でも別種のサメの遡上例はあるのだ。また、これは川まで上がったわけではないが、平成十七年には五メートル近いホオジロザメの、それほど傷んでいない遺骸が川崎港に漂着した例もある。最強のサメが関東近海にも生息するこの証拠は、迷い海獣を追うなどした彼らが湾奥まで誘導されうる可能性を示している。大型動物検知用の自動通報システムが河口に設置されてはいるが、相手は動物だ、すり抜けが全くないわけではない。シラブカは……こんな真昼間に出ないはずだ。そもそも検知されるかも分からない。
帆織はバヤックに跨り、思い切りペダルを踏みこんだ。
だが、間に合わない。まだ水中にいる少年の背後へ影が差す。頭を突き出し、少年の首へ腕を巻きつけ、
「サメじゃねぇッ!」
マルタだった。よく通る大声に、その場にいた全員が安堵の溜息をつく。
パニックから脱し切れていない少年を救助係のバヤックへ押し上げ、再び潜行した彼が次に顔を出したのは帆織の足元だった。立ち泳ぎしながら敬礼のような仕草をして見せ、
「とりあえず全員上げてくれ、保安官」
「サメはいないんだろ?」
「ああ。でも、なんかでかい影が見えた。サメじゃねえけど、生き物だ」
「そのまま上陸して待機――ッ」
マルタにバヤックの動きを合わせながら、帆織は大声で指示を出した。リーダー連中を除く子供たちは大人しく上がりはしたものの、好奇心に目を輝かせて水際から離れない。
「魚探にも映ってるぜ!」
自艇を軽く走らせたカジメが叫ぶ。彼のバヤックはメカマニアのそれらしく、実用性のあるものから全く無いものまで、様々な電子艤装が施されている。
「かなりでかい。流れに逆らってるから生き物だ。どうする、潜って確認するか?」
「その必要はないよ」
マルタの隣にひょっこり顔を出したのはコハダだ。その手には深海でも耐えられると評判のカメラ付き防水端末がある。
「もう、撮ってきたから」
「さすがだな」
「水軍のグループチャットに上げるね。保安官にも送ったげる」
早速子供たちは自分の端末をいじり始める。各々のディスプレイをのぞき込んだ全員が全く同じタイミングで顔をしかめたのが帆織にはおかしかったが、
「――なんだ、こいつ?」
着信したメールの添付ファイルを開くと、自分も同じような顔をするしかない。
水底の漣痕と比較してかなり大型であることが分かる。七メートルは確実にある、と帆織はオニアカを思い出しながら推定した。
巨大な樽を寸胴のまま引き伸ばしたような体、その先端にある小さな頭部は首を端折って適当にくっつけたと見えるほどに寸詰まりだ。カバから外耳を取って無理に小さく丸め込んだような顔つき、それでいて表情は、カバだのウシだの大人しそうな顔をして狂暴な連中には到底真似できない、どこまでも間延びした、真にとぼけた面構えをしている。拡大すれば口の周りに生える硬そうなヒゲがその表情を一層味わい深く引き立てていた。カイギュウ目の哺乳動物であろうことは見当がついたが、
「まさか、ジュゴンか? でも、さすがにこんなところには……」
「違うよ!」
陸にいた少年がすかさず声を上げた。海獣博士だ。
「ジュゴンだとしたら体に対して頭が小さすぎる! それにジュゴンはこんなに大きくならないよ!」
「じゃあ、ええと」
帆織は懸命に記憶を探る。
「そうだ、マナティだ」
真奈と行った沖縄の水族館で見たことがある。あれもとぼけた顔つきで、水面に浮かぶ餌のレタスを貪り食っていた。その後しばらく、真奈がその顔真似をよくやったものだ。
「そんな感じはするけど、それにしたって大き過ぎるし、あと尾びれと、手の形も違う。マナティの前足はもうちょっとしっかりしてるんだ。こいつのは切り株みたいでしょ?」
「じゃあ、なんなんだ?」
「あのねッ、変なこと言うみたいだけどねッ……」
だが、海獣博士は自説を最後まで披露しきれなかった。子供たちがふいに歓声を上げたのだ。何事かとその視線を追った帆織の目に、ぼんやり浮上する灰褐色の巨体が映る。
ふと蝉が鳴き止んで、ぶふう、というくぐもった息継ぎの音がよく響いた。鯨類と違い、鼻孔は前向きに開いている。巨体のわりに控えめな飛沫が前斜め四五度の角度に上がる。
「でかいな……」
帆織は呟いた。
子供たちは静かだ。歓声も手拍子も今や鳴りを潜め、その場の全員が見惚れている。突然、何を思ったかコハダが再び水中へ没した。やがて顔を出し、
「ねえ、保安官」
神妙な面持ちで呼びかける。
「水の中にさ、まだ、いっぱいいるんだけど……」
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