だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

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第一章・救国の王女

17.初外出で厄介事とは。2

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 男達の顔に驚愕が走る。しかしそれは程なくして薄気味悪い笑みへと変わった。

「おいおい、大人相手にそんな子ども騙しが通用する訳ないだろお嬢ちゃん。そんな玩具の剣で俺達の命を貰う? はっはっはっ! やれるものならやってみろよ、ほら」
「そんな事言ってやんなよ~」
「頑張れよぉ、お嬢ちゃん」
「玩具の剣で何が出来るのやら!」
「ははははは!!」

 一斉に笑い声をあげ、男達はこちらを見下してくる。
 だがそれもそうだ…何せ長剣ロングソードを私のような女子供が片手で振れる筈も無い。普通は玩具か偽物だと考えるだろう。
 しかし、その考えはこの剣が特殊な物の為否定される事となる。
 この剣はエンヴィーさんが私の為にと用意してくれた異様に軽い剣。ペンと大差ない重さなのに、振るった刃はそれなりの重みを持つ特殊な剣。
 しかしそれは私が持った時のみであり、他の人がこれを手にした場合は相当な重量に襲われる。つまり、正真正銘私専用の剣なのだ。

「えいっ」

 わざとらしく笑みを作り、私は小太りの男の太ももに切り傷をつけた。もう少し力を入れていたら、多分、足なんて簡単に斬れていた事だろう。

「っぁあああ!? 俺の足が…っ!!」

 足に急激な痛みを覚えたのか、一人の男が叫び声を上げながら蹲る。
 他の男がキッとこちらを睨んで、

「テメェ何しやがった!?」

 と言いつつ懐から出した短刀ナイフを向けて来た。

「貴方達がそんな玩具で何が出来るなどと言い出したので、見せてあげただけです」
「なっ…?!」

 私はそれに答えつつ、剣を振り上げてその短刀ナイフを男の手から弾き飛ばす。
 唖然とし言葉を失う男達を見て、私はいける。と確信する。彼等は私より弱い。慢心している訳ではない、ただ単純に私の方が技術で勝るというだけだ。
 さて、この六年の特訓でエンヴィーさんから学んだ事……それを今ここで生かさずしてどうする!

 ─二年前、剣術の特訓にて─

「姫さん、今からはとにかく俺の動きを封じる事だけ考えてください」
「…動きを…ですか?」

 特訓の最中にエンヴィーさんが余裕をもって提案してきた。私は何とか一撃を入れようと息も切れ切れに奮闘しているのに…エンヴィーさんは息一つ乱さずそれを片手で軽くいなしてしまうのだ。
 そんなエンヴィーさんが突然の提案に私は立ち止まり、オウム返しのように呟く。
 エンヴィーさんもまた構えていた剣を下ろして説明に移った。

「姫さんは女の子なんすから、どれだけ努力しても結局は男に力では勝てないンすよ」

 …確かにその通りだけれど、努力が報われないと言われるのは少し心にくるわね。

「だから姫さんには相手の力を受け流す技を覚えて貰いたいんすよ」
「技、ですか」
「そう。弾く、流す、躱す……相手の攻撃をいなす術を身につけていれば、いざという時男相手でもある程度は渡り合える筈ですから」

 エンヴィーさんはくるくると剣を器用に動かしながら続ける。

「でもまぁ、一番良いのはそもそも力勝負に持ち込まれないように一撃で相手を落とすか相手の動きを封じる事っすね」

 確かに、力勝負で私が勝つ事は不可能だが…力勝負に入るよりも前に敵を倒せばその心配も無くなる。
 一撃で相手を落とすか相手の動きを封じる……そうすれば、私にも勝機がある。

「………つまり、私は戦いにおいては早期決着を狙えばいいんですね?」
「そうッスね。姫さんみたいな魔法も剣も使う人間に長期戦は無理なんで長期戦は絶対に避けてください、長期戦になるぐらいなら逃げるように。そうっすね……長くて十分。それが姫さんが全力で戦える限界だと思っておいてください」

 ここ数年間私の特訓を見続けてくれているエンヴィーさんがそう言うんだ、私には恐らく十分以上の戦いは不可能…逆に考えれば十分は戦える。その内に決着をつければいいという訳だ。

「で、話は戻るんすけど…そーゆー訳なんで今から俺の動きを封じる事だけ考えてやって欲しいんすよ。とりあえず魔法は禁止で………あー、制限時間二十秒で、それ以内に俺を無力化してみてください」
「にじゅっ……!?」

 初心者相手に難易度が高すぎじゃあないか!? と私は内心非常に驚愕し呆然としかけたのだが、そうも言ってられないと気合いを入れ直す。

「っ、分かりました!」

 額の汗を拭い、私はまた剣を構えてエンヴィーさん目掛けて飛びかかる。
 その後…三十分程が経った頃にはもう体力は底をつこうとしていた。休み無しで何度も全力で彼に飛びかかり、毎回呆気なくいなされてきたのだから。
 しかしそれでも私は諦めていなかった。ずっと、エンヴィーさんを観察していた。
 剣を貰い、本格的な特訓が始まった時にエンヴィーさんに言われたのだ──『相手の技を盗め。実戦以外は相手をよく見て戦え』と。
 だから私はずっと見ていた。エンヴィーさんの動きを見てきたのだ。そして、一つだけ癖のようなものを発見した。
 エンヴィーさんは剣を大きく振りかぶる直前に少し足先の向きが変わるので、どの方向に剣が振られるか分かる。剣を振る高さはほぼ一定なので上下後ろいずれかに躱せば何とかなる。
 この癖を利用しない手はない。そして、私はエンヴィーさんを無力化しなければならないのでその方法を考える。
 魔法は使用禁止で、剣だけでどうにか……。

「…ふぅ…っ、いきます!!」

 剣を構えながら突進する。予想通りエンヴィーさんは剣を大きく振りかぶろうと足の向きをほんの少し変えた。
 視線はずっとエンヴィーさんを捉えたまま、耳を研ぎ澄ましほんの少しの僅かな土を踏む音でそれを判断する。
 エンヴィーさんは向かって右に剣を振る。それなら私は……上に躱す!

「っ!」
「おっ」

 エンヴィーさんの剣先が当たる寸前で飛び上がり、彼の頭上を通り超えて体を捻り着地する。そしてその瞬間、私は思い切り頭を下げる。
 先程私の顔があった辺りにてエンヴィーさんの剣が空を切る。誰だって、背後に飛んだ事が分かればその対策にすぐさま振り返って剣を振る事だろう。
 それぐらい私も読んでいた。だからこそ頭を下げ、剣が振られた事を確認し、曲げていた膝をバネのように伸ばして急速にエンヴィーさんの懐にまで潜り込む。
 そして、ここぞとばかりに剣を振──

「はいそこまでー、二十秒経ったぜ姫さん」

 ──れなかった。なんと、もう二十秒経ってしまったらしい。

「っそんなぁぁぁぁああ! もうちょっとで一撃入れられたのに!!」

 悔しさのあまりその場で剣を手放し頭をわしゃわしゃとする。ボサボサの頭で項垂れていると、エンヴィーさんが私の肩を叩いて笑顔で、

「今までの中で一番良い動きでしたよ。でも今の姫さんにはちょっと向いてないっすね、もうちょっと体が出来てからの方がいいっすよあの動きは。まだ成長途中の体じゃ膝やら足への負荷がちょっと…」
「うぅ…褒めるなら褒めるだけにしてくださいよぉ……」

 ダメ出しをしてきた。なんとこの人、持ち上げて落としてきたのだ。しゃがみこんでわざとらしく半べそをかく私の頭を、エンヴィーさんは同じようにしゃがみこんでポンポンと優しく叩いた。

「今回は時間制限つきの早期決着想定で動きを封じるっつぅやつだったんでこんだけ言いましたけど、普通の特訓だったらまぁ褒めちぎってたところっすよ? 普通の人間でもあんだけ動ける奴は珍しいのに、姫さんみたいな小さい女の子がやったンすから」

 拗ねる私を宥めるようにエンヴィーさんは優しい笑顔を浮かべて言った。その言葉に単純な私は満足してしまい、「………なら良いです。でももっと褒めてください」と調子に乗った事を言い、エンヴィーさんに「生意気な教え子だな~!」と髪を掻き乱されてしまった。
 その後一度休憩を挟んでから特訓を再開し、私は何度も何度も様々な方法でエンヴィーさんの動きを封じようと努力したが、その日は結局叶わなかった。

 ──

 長い期間をかけて様々な特訓と平行してエンヴィーさんから一本取ろうと努力していたが、それは本当に難しく険しい壁だった。
 ……結局それが叶ったのはほんの半年前。半年前に、ようやく私はエンヴィーさんの虚を衝く事に成功したのだ。…まぁ、魔法も有りで何とかって感じだったけども。
 突然実戦だと言われても戸惑うだけかと思っていたが、私は案外冷静だった。いかにしてこの五人の大人の男達を制圧するか、それだけを考えていた。
 きっと騒ぎになるだろう。だがその時の為の言い訳や対策ももう考えてある。…ならば、もう行こうじゃないか。エンヴィーさんの教えに則り──全員、二十秒以内に倒せばいいのだから。

「……御安心を、お時間は取らせません。きちんと百秒以内に終わらせますので」

 ニコリと微笑みを作り、私はこの場の制圧の為に動き出す。唖然とする男達を尻目に私はまず一人、確実に動きを封じる。

「一人目」
「いッ?!」

 先程足に切り傷を作った小太りの男の右肩の辺りにただ剣を振り下ろし、傷を増やしてあげた。何の芸も無いやり方で申し訳ない。

「二人目……っと」

 すかさずその隣にいた小柄な男にも剣を向ける。その男は「ひぃっ!!」と情けない声を上げて逃げ出そうとしたので、しっかりと右脚の膝裏を斬った。これでそう簡単には逃げられまい。
 次は反対側だ。地面を蹴り一気に反対側に立っていた変な顔のおっさんの目の前に移動する。そして剣の柄でおっさんの顎を下から突き上げる。
 間抜けに口を開けっぱなしにしていたおっさんは舌でも噛んだのか、後ろに倒れ込んだ後声にならない叫び声をあげて悶絶していた。

「三人目」

 あと残りは二人。まぁ余裕だな、と思っていた所、どうやら相手にもそこそこ武術の覚えがある人がいたらしく、意地悪男じゃない方……先程短刀ナイフを向けて来た男が背後から殴りかかってきたようだった。

「ぐっ…な…ッ!?」

 私は振り返らず剣を後ろに突き出し、男の腹部を攻撃する。私の剣はとても綺麗だから、後ろの事も刀身に反射して見えるのよ…残念だったわね。
 男の腹から剣を抜いて、よろめく男の腹を蹴る。これでこの男の動きも封じれたでしょう。

「四人目…さて、後は貴方だけですね」

 そう言いながら意地悪男の方を振り返ると、男は顔を真っ青にしながら腰を抜かしていた。顎を震わせて、「たすけてくれ」と繰り返している。
 とりあえず逃げられたら困るので、男の足に剣を突き刺して文字通り動きを封じる。男がうるさい叫び声をあげようとしたので、「お静かに」と圧をかける。

「助けろだなんて随分偉そうですね。どうせ貴方達は今まで何人もの女の子に酷い事をして、その度にその子達の助けてとかやめてって言葉を無視して来たんでしょう?  ちょっと虫がよすぎると思いませんか?」

 男を見下しながら、私はいくつも尋ねる。…それにしても、私、誰かを斬ったのは初めてなんだけど……全然罪悪感とか恐怖が無い。何も感じない。
 他人を傷つける事に抵抗が無いのだけど、これって戦うにあたって凄くいい事なんじゃあないか? エンヴィーさんも言ってたよ。『一瞬の躊躇が死に繋がる』って。これっていい事じゃないか!
 私ってば剣の才能あるんじゃないか? ふふ、そうだったら嬉しいなぁ。
 そうやって内心で一人盛り上がっていると、男が顎をガタガタと言わせながら話す。

「ちがっ、違うんだ!! 俺達はアイツ等に命令されてやってただけで………っ!」

 ──急遽、私は予定を変更して男を問い詰める事にした。
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